025・報告
今後は、イリオナさんが僕の担当ギルド員になると言う。
彼女曰く、
「慣例でね。登録をした職員がそのまま担当ギルド員になるんだよ」
「へ~?」
「依頼の受注、完了手続きは、普通に冒険者用受付でして大丈夫だよ。でも、トラブル報告とか相談事とかあれば、総合受付で呼び出せばすぐ私が駆けつけるから」
「うん」
「困ったらいつでも呼んでね」
パチッ
彼女はお茶目に片目を閉じる。
犬っぽい耳がペタッと倒れ、丸い尻尾が左右に揺れている。
(可愛い……)
僕も笑い、「ありがとう」と応じた。
イリオナさんも笑って、「じゃあね」と3階の階段前で別れ、通常業務に戻る彼女を見送った。
あとは、僕とクレティーナさんの2人きり。
緑髪のお姉さんは、
「お疲れ様でしたね、シーナ」
「あ、ううん」
「では、2階のレストランで、パルが1人で待っていると思うので合流しましょう」
「うん、そうだね」
僕も頷く。
紫水晶のような瞳を細め、彼女は僕を見つめる。
白い手が、
サワサワ
と、僕の金髪を撫でた。
(お?)
見上げる僕に、
「いえ、何だか7年前の自分たちが登録した時を思い出し、感慨深くなってしまいまして……」
「そっか」
「ふふ、すみません」
「ううん」
「では、2階に行きましょう」
僕は「うん」と頷く。
一緒に階段を降りていく。
降りながら、
(7年前、13歳のクレティーナさん、か。……少し会ってみたかったな)
と、ふと思ったり。
やがて、僕らは2階に辿り着いた。
◇◇◇◇◇◇◇
「そ、登録したの」
少女は、素っ気なく言った。
2階レストランの、眺めの良い窓際の4人席だ。
店内は高級な店構えではなく、前世のファミリーレストランみたいな気軽な雰囲気だった。
大勢の冒険者がいる。
仲間同士でクエスト成功のお祝いをしたり、何か真面目な話をしていたり、1人食事とお酒を嗜んでいる人もいたりと様々だ。
僕らも、そんな景色の一部。
僕は「うん」と頷く。
「イリオナさんに登録作業してもらったんだ」
「そう」
彼女は、食事の手を止めない。
ガブッ
美味しそうに、鉄板上のステーキ肉にかぶりつく。
肉汁が出て、美味しそう。
彼女の前には、海鮮パスタやステーキ、野菜サラダ、白米のバター炒め、アイスクリームなどの料理が並んでいた。
ちなみに、彼女1人分だ。
僕らは今来たばかりだからね。
少女の姉が、
「彼女は、私たちの担当ギルド員でもありますよ」
と、教えてくれる。
そうなんだ?
(あれ?)
「でも、担当って登録手続きした人がなるんだよね? 7年前のイリオナさん、まだ子供なんじゃ……?」
と、疑問が浮かぶ。
すると、
「は~、馬鹿ね」
と、少女が食事の手を止めた。
呆れ気味に僕を見て、
「担当が変わったのよ」
「え?」
「7年前、当時のレオの担当ギルド員が私たちの登録をしてくれたの。で、その人が引退して、去年、イリオナが新しい担当ギルド員になったの」
「ああ~、なるほど、引継ぎか」
「そ。全く、少しは頭、使いなさいよ」
「あはは、ごめん」
でも、確かに。
(少し考えれば、わかったよね)
教えてくれたパルシュナは、大袈裟にため息をこぼす。
肘をつき、
「で?」
と、僕にフォークの先を向ける。
(ん?)
「登録したんでしょ? せっかくだから、冒険者印、私にも見せなさいよ」
「あ、見たい?」
「…………」
彼女、凄く嫌そうな顔をする。
(ふふ、ツンデレ少女め)
僕は、いそいそとテーブルの上に右手を出す。
その手の甲には、今は何もない。
なので、意識を向けて、
(紋章、出ろ~!)
と、念じる。
途端、右手が熱くなり、
ポウッ
赤く輝く美しい紋章が浮かびあがった。
その輝きが、僕らの顔を照らす。
少女の大きな瞳にも、その赤い光の紋章が映り込んでいた。
僕は笑う。
「どう?」
「……ふ~ん」
「…………」
「当たり前だけど、初級の赤印か。別に自慢できるもんでもないわね」
「…………」
「ま、一応、おめでと」
「う、うん……」
なんか、微妙な気分。
シュウ……
右手の甲から紋章も消える。
(自慢する気もなかったけど……でも、淡々と反応されると寂しいね)
しょぼん。
少々、落ち込みシーナ君だ。
そんな僕の様子を、パルシュナはジッと見ている。
やがて、
「ちっ」
と、舌打ち。
唇を尖らせながら、
「ほら、これ、あげるわ」
カチャッ
と、僕の前に、アイスクリームの入ったお皿を押し出した。
(え?)
「登録祝い」
「…………」
「これから一緒に活動するんでしょ。最初は足引っ張るのは仕方ないけど、まずは精々死なないように気をつけんのよ!」
「パルシュナ……」
僕は、目を丸くする。
少女は「ふん」とそっぽを向く。
長い髪で表情は見えず、でも、見えてる耳は赤い。
(…………)
ツ、ツンデレ~っ!
僕は「うん、ありがと!」と満面の笑みだ。
少女の姉は、そんな年下の僕らの様子を微笑ましそうに眺めている。
当の少女は、横を向いたままで。
そして、僕は早速、お祝いのアイスを頂く。
パクッ
と、一口。
(ん~っ)
冷たいけど、甘くて美味しい!
◇◇◇◇◇◇◇
僕とクレティーナさんも、自分たちの料理を注文した。
10分ほどで、料理が届く。
すると少女が、
「あ、追加で赤目牛のステーキとレギ豆の煮込みもお願い。あと、プーリカの果実水も1瓶、よろしくね」
と、空の食器を回収する店員に追加注文する。
(おお……?)
あんなに食べたのに?
驚く僕。
ちなみに僕は、海鮮パスタ料理の1品のみだ。
クレティーナさんは、最初の少女と同じメニューを頼んでいた。
姉妹揃って、大食漢。
「何よ?」
僕の視線に、妹の方が気づく。
僕は素直に、
「よくそんなに食べれるね?」
と、答える。
その細い身体のどこに消えていくのか、不思議に思うよ。
パルシュナは「ふん」と鼻を鳴らした。
「私はね、食べれる時に食べれるだけ食べることにしてんのよ。世の中、いつ食えなくなるかわからないんだから」
「…………」
「何か文句ある?」
「ううん」
睨まれ、首を振る。
(そっか)
彼女たち、貧民街の出身だったっけ。
思い出せば、なるほど、1度にたくさん食べるのは、食べれるありがたみを知っているからかと納得できる。
姉は苦笑し、言う。
「幸い、私もパルも太り難い体質のようで」
「ふぅん?」
世の女性が羨ましがる体質だね。
でも、背も高くてスラリとしてるけど、胸とお尻は大きいんだよなぁ。
妹はまな板だけど……。
と、その妹は、
「ふん、太るより飢える方が怖いわよ」
と言い切る。
7年前の、骨と皮だけの痩せた姉妹を幻視する。
(…………)
僕は「そうだね」と頷いた。
その後、僕とクレティーナさんも食事を開始し、やがて、パルシュナの追加料理も届く。
3人で談笑しながら食事する。
レストランの窓からは、王都の景色も見える。
美しい街並みが広がり、大通りを人と車両が行き来する。
何となく、
(贅沢な時間だなぁ)
と、思ったり。
そうして、美人姉妹と楽しい時間を過ごしていると、ふと対面の席のパルシュナが目を見開いた。
(ん?)
視線は僕の背後に向いている。
僕も振り返り、
「あ、レオナックさん」
レストランの入り口から、赤毛の美女が歩いてくる姿を見つけた。
姉妹も、
「レオ」
「こっちよ~」
と、手を上げる。
気づき、彼女も僕らの方へ一直線にやって来る。
「ここにいたか」
「うん」
「ギルド長への報告は済みましたか?」
「お疲れ様。あ、レオも食事にしたら?」
僕は頷き、姉妹は問う。
でも、レオナックさんは立ったまま、座らずに会話を続ける。
「したい所じゃがの」
「?」
「どうしたの?」
年下の僕らは、首をかしげる。
クレティーナさんが紫水晶の瞳を細め、
「……何かありましたか?」
と、聞く。
(何か?)
レオナックさんは「うむ」と頷き、僕を見る。
え? 僕?
姉妹もつられて僕を見て、
「シーナは、もう冒険者登録をしたのかの?」
「え、うん」
僕は右手を出し、
「ほら」
ポウッ
赤い魔法の紋章を光らせる。
笑う僕に、レオナックさんは金色の瞳を細める。
「そうか」
と、彼女も微笑んだ。
「では、もう命令になるの」
「?」
命令?
意味がわからず、僕らは少々困惑する。
彼女は言う。
「実はの、今回の件を報告した所、ギルド長のケーシャンが『シーナと話がしたい』と言い出しての」
「僕と……?」
「まぁ……」
「何でよ?」
姉妹も驚く。
赤毛の美女は難しい表情で、
「例の『葉っぱ』と枯れた枝を光らせた件で何かあるようじゃ」
「…………」
「それと、シーナも『冒険者』となった以上、ギルド長の指示には従う義務が生まれてしもうての」
「あ……」
だから、命令。
彼女は僕を見つめ、
「どうしても嫌なら、断るが……どうする?」
と、聞かれる。
表情的にも、多分、断るのはまずいのだろう。
ん~……。
(ま、いいか)
どんな話かわからないけれど、自分が何者なのか知るチャンスなのかもしれない。
あと、ギルド長は偉い人。
そういう人脈って、きっと大事だと思う。
なので、
「――うん、わかった。会うよ」
と、僕は笑って答えたんだ。




