022・転移の門
場の空気も落ち着いた。
なので、僕は、パルシュナと争う原因となった現象を年上2人にも話しておく。
かくかくしかじか……。
すると、お姉さんたちは
「まぁ、『護国の神樹』の枯れた枝が?」
「ふむ? シーナが触った途端、光りだした……と」
と、驚く。
僕は「うん」と頷く。
頭を示し、
「そうしたら、なぜか隠してた『葉っぱ』も生えちゃって。で、勘違いしたパルシュナに『魔物だ!』って殺されそうになったんだよ」
と、少女を見る。
彼女は唇を尖らせ、「アンタ、ねちっこいわね……」と恨みがましく見られる。
(あはは)
少女の姉も苦笑する。
「私たちも荷物を運んで来たら、パルがシーナに向け、雷双剣を抜いていたので驚きましたよ」
「あ、姉上まで~!」
「ふふ、すみません、パル」
姉は宥めるように、妹の髪を撫でる。
パルシュナは「ふん」とそっぽを向いた。
僕はそんな姉妹を眺め、それから、その間、ずっと考え込んでいるレオナックさんの方を見る。
と、彼女も僕を見た。
「シーナ」
「ん?」
「その現象、見てみたい。もう1度、枝を触ってくれぬか?」
「あ、うん。いいよ」
ピトッ
灰色の枝に触れる。
瞬間、頭の『葉っぱ』が光を放ち、共鳴するように手の触れた部分から巨大な枝も光り出した。
女性陣は驚いた表情だ。
「ふむ?」
「まぁ……」
「やっぱり、また光るのね」
と、呟く。
さっきと違い、僕も冷静に頷く。
(何となく、この枝と接続されたような感じ……でも、大事な何かが欠けている気もする)
僕は、小さな手を離す。
シュゥゥン
途端、巨大な枝の光も消えていく。
10秒ほどで、元の灰色に戻った。
3人は、しばし沈黙。
やがて、
「これは、どういうことでしょう?」
と、クレティーナさんが隣の年上の美女に問いかけた。
僕と少女、年下組の視線も向く。
赤い髪の美女は考え、
「わからぬ」
と、答えた。
(ありゃ?)
期待外れ……とは言わないけど、少し残念。
けど、彼女は言う。
「正直、我も『護国の神樹』には詳しくないのでの。この事象も報告し、あとは冒険者ギルド長のケーシャンか、王国と教会に判断してもらうしかあるまい」
「ですか」
「うむ。しかし――」
ジッ
金色の瞳が僕を向く。
彼女につられ、姉妹も僕を見る。
(ん?)
な、何?
美女と美少女に見つめられ、僕、ドキッとしちゃうよ。
戸惑う僕に、
「『護国の神樹』が枯れ、同時期に『葉っぱ』の生えた少年が現れた、か。しかも、枝と反応もする。――何か、関連があるのかの?」
(…………)
いや、僕もわからないよ。
むしろ、
「僕も知りたい」
と、答えた。
彼女も頷く。
「そうじゃな」
「…………」
「よし、ここで考えていても埒は明かぬ。今は王都に戻り、報告することを優先しようぞ。答えがわかるとしても、そのあとじゃ」
と、笑い、
ポンポン
僕の頭を軽く叩いた。
振動で『葉っぱ』もヒラヒラ揺れる。
「では、荷造り再開じゃ。『転移の門』の予約時間に間に合うよう、出立を急ぐぞ」
「あ、うん」
「はい」
「はいよ~」
僕と姉妹も頷く。
そこから、4人で荷物を積み込む。
(んしょ)
僕も隠さず『光合成』の力を使えるので、軽々と荷物を持ち上げられるようになった。
うん、やはり便利。
作業が終わると、
シュッ
葉っぱを引っ込める。
それを見た少女は、
「本当、変な『葉っぱ』ね。どこにしまってんの?」
と、呆れ顔。
僕も頭を触るけど、
(自分でもわかんないや)
特に穴もないし。
興味があったのか、クレティーナさんも覗いてくる。
すると、
「綺麗な髪ですね」
「え?」
「顔も可愛いですし、シーナは本当に女の子みたいです」
「そ、そう」
女の子、か。
(髪、下ろしてるからかな?)
僕は、少し考える。
肩まで届く髪を1本抜くと、頭の後ろでまとめ、軽く縛った。
「どう?」
「……まぁ」
クレティーナさんは、目を見開く。
嬉しそうに、
「その髪型も似合いますね。活動的な女の子に見えますよ」
「…………」
グスン
い、いいんだ。
(将来、もっと筋肉がついたら男らしくなるんだ、きっと)
姉の後ろで、少女が笑っている。
くそぅ。
でも、紳士な僕は、
「あ、ありがと。でも、クレティーナさんも髪が長くて、綺麗で、とっても美人だよ」
「え……?」
彼女は、紫色の目を瞬く。
少し赤面。
(おや?)
彼女は戸惑ったように自分の胸を手で押さえ、それから息を吐く。
大人の微笑みで、
「ありがとう、シーナ。嬉しいですよ」
と、答えた。
そんなこんなで、荷積みも完了。
3人の美女と美少女は、3頭の狗竜を手綱を引きながら獣舎から出してやる。
クルル
彼女たちに甘える狗竜。
(いいな~)
凄く可愛い。
竜たちの3人への信頼を感じるよ。
その後、宿の中でレオナックさんが代表してお支払いを済ませ、戻ってくる。
「待たせたの。行くぞ」
ヒョイ
華麗に竜に乗る。
僕と姉妹も騎竜する。
キュッ
僕のお腹を、クレティーナさんの白い手が押さえる。
背中と彼女の胸が密着する。
(…………)
無心、無心。
若干、赤面しつつ、僕は自分に言い聞かせる。
全員の騎乗を確認し、
「よし、出発じゃ」
「うん」
「はい」
「ええ」
リーダーの合図で、3頭の狗竜は動き出した。
トットッ
宿の敷地を出ると、クォレンの街の通りに合流し、そのまま小走りに街中を移動していったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
人込みの中を器用に抜けていく。
車道、歩道の概念がないのか、馬車などが通るたび、気づいた人々が避けていく感じ。
(よく事故らないね)
と、感心する。
僕らの狗竜も、人を避けていく。
大通りをしばらく進むと、大きな広場に辿り着いた。
大勢の人が集まり、兵士らしい人も何人かいて、集まった人々を整列させている。
――その中央に、巨大な門があった。
(わぁ~)
前世でいう凱旋門みたい。
石造りで装飾が彫られ、どこか歴史を感じさせる。
僕は聞く。
「あれが、転移の門?」
「はい、そうですよ」
微笑み、頷くクレティーナさん。
(やっぱり)
僕らの狗竜は集まる人々を迂回して、馬車などの集まる区画へと移動した。
兵士が寄ってくる。
「転移希望者か?」
「うむ」
リーダーの美女が応じる
兵士さんの手には名簿があり、
「許可証はあるか?」
「これじゃ」
と、彼女は赤い紙を提示する。
兵士さんは、文字や印鑑を確認し、
「レオナック・オルン……冒険者か。年齢27歳。間違いないな?」
「うむ」
「この3人も連れか?」
「そうじゃ」
「クレティーナ・レヴィン。パルシュナ・レヴィン。シーナ。冒険者と一般人か。年齢は20歳、12歳、12歳で間違いないか?」
と、僕らに聞く。
姉妹が「はい」「ええ」と答える。
僕も、
「あ、うん」
と、頷いた。
(僕、12歳なんだ?)
年齢不詳だったけど、レオナックさんが決めてくれたみたい。
ま、いいか。
(ん?)
少女が僕を見ている。
「アンタと同い年か~」
「…………」
「年下なら下僕扱いできたのに……ま、仕方ないわね」
「君ね……?」
冗談か本気か、わからないよ。
怖い怖い。
姉の方は、年下の僕らのやり取りに微笑ましそうにしている。
(…………)
クレティーナさんは20歳か。
見た目、背も高いし、落ち着いた雰囲気だし、もっと年上かと思ったよ。
逆にレオナックさんは言葉遣いが古風な反面、背は小柄で若々しいし、もう2~3歳ぐらい下のイメージだったけどね。
見れば、兵士さんが頷き、
「では、転移の時間が来るまで、列で待機しているように」
「うむ」
「よし、次の者」
と、後方の馬車の御者さんに声をかけた。
レオナックさんも騎乗し直す。
僕の視線に気づき、
「? 何じゃ、シーナ?」
「あ、ううん」
「?」
「え~と、レオナックさん、年齢より若くて美人だなぁって」
「…………」
彼女は、金色の目を瞬いた。
苦笑し、
「そうか」
と、頷いた。
「それより『転移の門』が開くまで、あと30分ほどじゃ。大人しく待っておるのじゃぞ」
「あ、うん」
「うむ」
と、彼女は前を向く。
すると、
「おや、珍しい」
「え?」
「今のシーナの言葉に照れているようです。ほら、レオの耳が真っ赤ですよ」
と、小声で指差すクレティーナさん。
見れば、
(あ、本当だ)
赤い髪から覗く耳が、同じ赤色に染まっている。
パルシュナも目を丸くしてる。
なんか、意外なものを見た、って感じ。
(そっか)
僕もほっこり。
年上だけど、レオナックさんって可愛い面もあるんだねぇ。
…………。
…………。
…………。
やがて、30分が経過する。
(そろそろかな?)
周囲を見る。
集まった人々は約1000人ほどいて、広場への入場はすでに制限されている。
転移は、1日12回だとか。
つまり、
(毎日、1万2000人が移動するのか~)
と、驚きだ。
往復なら、もっと多くなる。
凄いなぁ、と思った時、前方で動きがあった。
門前の兵士さんが叫ぶ。
「――これより『転移の門』を開く! 全員、指示に従い、前の者に続き順番に門へと入るように!」
(お?)
ついに来たか。
3人の空気も変わる。
「始まったか」
「はい」
「待ちくたびれたわ~」
と、言いつつ手綱を引き、竜の頭を門の方へと向ける。
巨大な門は、奥側の景色が見えていた。
だけど、
ヒィィン
門の内側が水面みたいに揺らめく光の面となり、奥の景色が見えなくなった。
(おお……)
僕は、青い目を見開く。
待機場所は、人と車両で区分けされており、まず車両側から門を潜るよう指示される。
最前列の馬車が門に向かう。
光の面に触れ、
ヒィン
表面が光りながら、その車体が吸い込まれていく。
き、消えた。
まるで、手品みたい。
水面に波紋を広げるようにしながら、次々と車両が光の門に飲み込まれていく。
次は、僕らの番だ。
ドキドキ
僕の緊張に気づいてか、
「大丈夫。行きますよ」
「う、うん」
クレティーナさんの言葉に、僕は頷く。
狗竜たちは歩き出す。
トッ トッ
恐れることなく、光の水面に飛び込んだ。
(う……)
視界が一瞬、光で埋まる。
僕は青い瞳を細め、
ヒィン
次の瞬間、光が消えると、目の前にさっきまでとは違う大都市の風景が現れた。
あ……。
少し茫然。
そこは、 都市の中の広場で。
先に転移した車両たちが後続の邪魔にならないよう、兵士たちによって奥に誘導されていた。
狗竜も止まらず、進む。
(空気が……違う)
湿気や気温が変わっていて、明らかに違う土地だ。
そう、わかる。
慣れているのか、3人の表情は平静だ。
でも、僕は、
(これが、転移……!)
前世の技術でも不可能な空間跳躍を、僕は今、体験したのだ。
(あはっ)
感情が昂る。
僕の表情は、自然と笑みを浮かべていた。
――こうして僕、シーナは、前世も含め人生初の転移によって、フィーンレイド王国の『王都フィーンドリア』へとやって来たのだった。




