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神樹の少年シーナ ~転生したら、頭に葉っぱが生えたんだけど?~  作者: 月ノ宮マクラ


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21/42

021・少女の怒り

(何で、勝手に……っ!?)


 僕は焦る。


 慌てて、クレティーナさんの時同様、誤魔化そうと思ったけど、


 シャィン


 少女は腰の短剣2本を抜いていた。


(!)


 自分に向けられた剣先に、『葉っぱ』の力を消したら殺される――そう思ってしまい、引っ込めるタイミングを完全に失う。


 数秒、お互い動けない。


 パルシュナが言う。


「シーナ……アンタ、魔物なの?」


「ち、違うよ」


 僕は、首を振る。


 同時に、頭の光る『葉っぱ』もヒラヒラ揺れる。


 そして、神々しく輝いていた『護国の神樹』の枝は、僕が手を離すと元の灰色に戻っていく。


 キッ


 彼女の視線が鋭くなる。


「なら、その葉っぱは何!?」


「こ、これは……」


「頭から直接生えてる! 人間に擬態してたのね!? 『護国の神樹』に触れて擬態が解けたんだわ!」


「いや、違――」


「嘘つき!」


 タッ


 悔しそうな表情で、少女は襲いかかってきた。


 速――、


(――くない?)


 昨日、黒い竜と戦っている時に比べ、全然、遅い。


 いや、『光合成』スキルで動体視力も上がっているのか、思った以上にスローモーションに動き全体が見えている。


 右手の短剣を振り上げ、左手の短剣は引く。


 右手を振り下ろし、


(ん……)


 僕は、半身でかわす。


 半秒遅れて、少女の身体の陰から左手の短剣が突き出される。


 死角からの連続攻撃。


 ――上手い。


 見えてなかったら、完全に刺されてる。


 技術のある連撃。


 でも、僕は見えてる分、その左手首を軽く握って押さえた。


「!?」


 少女は、驚きの顔だ。


 でも、止まらず、膝で僕の手を蹴り、拘束を外す。


 タン


 後方宙返りし、


(わっ?)


 僕の顎を蹴ろうとしながら、後方へと間合いを広げる。


 僕はのけぞり、何とか回避。


 再び間合いが開き、睨まれる。


「私の速さについて来れるの……? やっぱり、力を隠してたのね!?」


「…………」


「この、裏切者!」


 彼女が叫ぶ。


 伝わる怒り。


 でも、その表情には悲しみもある。


(パルシュナ……)


 僕は何も言えない。


 もしかしたら、最初から全て正直に話していれば、受け入れられたかもしれない。


 でも、僕は隠した。


 保身で隠してしまった。


 結果、彼女の不審を煽ってしまったのだ。


(間違ったかな?)


 頭の『葉っぱ』を光らせながら、僕も悲しくなる。


 少女は息を飲む。


「何で……何で、アンタがそんな顔してんのよ!?」


 ジャキッ


 短剣を構える。


 その剣身に紫電が走り、放電が散る。


(あ……魔法……)


 本気だ。


 パルシュナが本気になった。


 僕を殺そうとしてる。


 タン


 雷光を散らしながら、少女は地面を蹴った。


 獣舎にいる3頭の狗竜が、僕らの戦闘に驚き、落ち着かない様子なのが視界の隅で見えている。


 かわさないと。


 頭で思い、でも、


(刺されてもいいかな……?)


 ふと、そう感じる。


 彼女の怒り。


 それを、受け止めないと。


 口は悪かったけど、彼女は僕を受け入れようとしてたから。


 だから、今、怒ってる。


 信じたからこそ、怒ってる。


 だから、僕は、


(ごめんね)


 スッ


 棒立ちになり、目を閉じる。


「な――!?」


 少女の焦った声が聞こえる。


 光合成の力か、暗闇の中、少女が剣を止めようとする気配を感じる。


 でも、止まらない。


 タイミング的に剣が速過ぎて、本人でも止められない。


 そして、


「避け――」


 少女の声がして、


 ギィン


 甲高い金属音と共に、突き出された短剣が上方へと弾き飛ばされた。


(え?)


 僕は目を開く。


 目の前に、驚いた表情のパルシュナとその少女の短剣を弾いた戦斧を握るレオナックさんの姿があった。


 紫電が弾けた後方には、クレティーナさんの姿もある。



 ――2人にも、見られた。



 僕は茫然だ。


 なびいた赤髪が背中に落ち、


「そこまでじゃ」


 レオナックさんが告げる。


 条件反射なのか、パルシュナは止まる。


 同時に、少女の姉は僕へと駆け寄った。


「シーナ、怪我はないですか?」


 と、心配した表情。


(え……?)


 今までと変わらない態度に、僕は驚く。


 え、あれ?


 今、『葉っぱ』、出てるよね?


 困惑しながら、


「う、うん」


 と、頷く。


 それに彼女はホッと息を吐き、安心した表情だ。


 その様子が、胸にグッと来る。


 と、妹が2人の仲間に叫ぶ。


「姉上、レオ、気をつけて! ソイツ、擬態した魔物よ!」


「ち、違うよ」


 ブンブン


 僕は首を振る。


 そんな僕を睨み、


「詐欺師は、自分を詐欺師って言わないのよ! 騙されるか、この馬鹿! 頭から『葉っぱ』が生えてるのが証拠でしょ!」


「うぐ……っ」


「ほら、やっぱり!」


「でも、違うんだって」


「うっさい! この嘘つき――」


 ゴン


 少女の頭が手刀で叩かれた。


「ふぎっ!?」


(!?)


 叩いたのは、赤毛のお姉さんだ。


 息を吐き、


「落ち着け、パル」


 と、重い声で言う。


 少女は「うぐぐ」と蹲り、脳天を押さえている。


 うわぁ、痛そう……。


 そして、王国最強だという『金印』の女冒険者は僕を見る。


 ドキッ


 背筋が伸びる。


 そんな僕に、


「シーナの頭に『葉』が生えとるのは、我もティナも、とっくに知っておったわ」


 と、言った。


 へ……?


 知ってた?



 ◇◇◇◇◇◇◇



(え、本当に?)


 僕は唖然と、隣のお姉さんを見る。


 長い髪を揺らし、クレティーナさんは頷いた。


 ええ……。


 パルシュナも唖然とした様子で、


「え……知ってたって……え、いつから!?」


「あの黒竜を使役していたローブの人物を、シーナが攻撃した時じゃの。その時も、頭に光る『葉』が生えておったぞ」


「は? 攻撃?」


「パルは、気づいておらんかったか」


「…………」


 黙り込む少女。


(え、見られてたの?)


 僕も青い目を瞠る。


 隣のお姉さんは優しく苦笑しながら、


「私は『銀印』、レオは『金印』ですから。戦闘中も周囲には気を配ります。特に、シーナが巻き込まれないか気にしていましたので」


「…………」


 ええぇ……。


 僕もパルシュナと同じ顔になっちゃう。


 彼女は言う。


「初めて会った時も、落ち葉ではないと思っていましたよ」


「うっ?」


「ただ、シーナが隠したがっていたので……」


「……そうなの?」


 コクッ


 お姉さんは、また頷く。


(じゃあ、僕、見逃されてたの?)


 真実を知ったら、今更、恥ずかしくなる……うひぃ~。


 僕、赤面です。


 パルシュナは茫然と、年上2人を見る。


 すぐに表情を戻し、


「で、でも、コイツが私たちを騙そうとしてたのは変わりないわ!」


阿呆あほう


「あ、あほ……?」


「今のそなたのように、殺される可能性を考えたのじゃろう。隠して当然じゃ」


「あ……」


 彼女は、自分の持つ2本の短剣を見る。


 少し、バツが悪そう。


 そんな少女に、レオナックさんは淡々と言う。


「シーナは、善良じゃ」


「…………」


「もし殺す気なら、最初からティナを助けぬ。使役者を攻撃し、我らに加勢せぬ。痛がるそなたの足を治したりせぬ。――だから、我もティナも黙認した」


「……うん」


 難しい顔で、パルシュナも頷く。


 顔を上げ、


「じゃあ、辺境出身で、村から捨てられた子供の話は?」


「1つの可能性です」


 と、姉が答える。


 僕を見て、


「頭に葉が生えているから捨てられたか、もしくは、捨てられたあとに生えたか……あるいは、全く違う状況か。捨て子の話は、納得できる推測を1つ語ってみただけですよ」


「…………」


「実際は、シーナも覚えていないのでしょう?」


「う、うん」


 問われ、僕は頷く。


(もう、正直に言おう)


 僕を見ている3人を見返し、口を開く。


「記憶喪失は本当」


「…………」


「…………」


「…………」


「目が覚めたら森にいて、葉っぱが生えてた。葉っぱが光ると、凄い力が出る」


 足元の石を拾い、


 パキッ


 簡単に砕く。


 その握力に、3人は少々驚いた顔をした。


 僕は続ける。


「水だけで生きられる。草木の声がたまに聞こえる。葉っぱが光ると怪我も治る。みんなの怪我を治したのは、その力を応用したもの」


 そこで一旦、言葉を区切る。


(…………)


 深呼吸し、



「――だから、僕は『人間』じゃないかもしれない」



 と、泣き笑いで伝えた。


 パルシュナは息を飲む。


 その可能性を想定していたのか、年上2人の表情は変わらない。


 ただ、


 サワッ


 何も言わず、クレティーナさんの指が僕の髪を撫でる。


(…………)


 優しい感触。


 光る『葉っぱ』も揺れる。


 涙が1粒だけ、ポロリと零れた。


 赤毛の美女が、


「心は人間、か」


 と、呟いた。


 やがて、息を吐き、


「まぁ、よい」


「…………」


「おぬしは善良じゃ。今までの行動に、それは出ておる」


「…………」


「人であれ、そうでなかれ、構わぬよ。少なくとも、このレオナック・オルンはシーナの存在を認めよう」


「レオナックさん……」


 僕は驚く。


 頼もしく、嬉しい言葉。


「ま、人々を害さぬ間はの。じゃが、おぬしなら大丈夫じゃろ、シーナ?」


「う、うん!」


 僕は大きく頷く。


 彼女も頷き、


「なら、よし、じゃ」


 と、大らかに笑った。


 クレティーナさんも微笑み、


「ええ、葉の有無など関係ありません。私もシーナを信じていますよ」


「クレティーナさん……」


「ふふっ」


 優しい眼差しだ。


 母性的っていうのかな?


(なんか、安心するんだけど、でも、少し恥ずかしくなってくる)


 少し赤面しちゃう。


 と、彼女たちは1番年下の少女を見る。


 つられて、僕も視線を向ける。


 ビクッ


 彼女は震え、


「あ、あ~……悪かったわよ。その、急に襲いかかって……」


「え……」


 あ、謝った?


(あの、パルシュナが……?)


 僕、唖然。


 彼女は、唇を尖らせる。


「……何、その表情?」


「あ、いや」


「…………」


「その、パルシュナって……謝れるんだね?」


「…………。やっぱ殺すわ」


 ジャキッ


 据わった目で、短剣を構える。


(わっ?)


 慌てて、クレティーナさんの背中に隠れる僕。


 怒れる少女も、苦笑するレオナックさんに「待て待て」と襟を掴まれ、止められている。


 と、少女の姉が笑い、


「2人とも、仲良しですね」


「え、どこが?」


「どこがよ!?」


 僕と少女は呆れ、年上2人はまた笑う。


 早朝の獣舎前。


 澄んだ青空に、賑やかな声が響いている。


 そんな僕らの様子に、


 クルル


 3頭の狗竜は場の空気に安心したように、軽やかに喉を鳴らした。

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― 新着の感想 ―
既にバレていたが黙認しつつ、改めて認めてくれたか・・・転生者以外の事は話したし、今後は力になってくれるでしょう。
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