020・葉っぱの露見
(布団、柔らかいなぁ)
夜の就寝時間。
部屋の灯りも落とされ、暗闇の中、僕はベッドで寝返りを打つ。
感触は、フカフカ。
多分、羽毛かな?
昨日のテントでの、硬い地面と毛布のみの夜と比べたら、天と地の差があるよ。
「ふんが~」
「…………」
ま、騒音被害は置いといて。
夜目を凝らせば、隣のベッドでは静かに眠るクレティーナさんの美しい寝顔があった。
長い髪が柔らかく乱れ、なんか素敵。
(本当、美人だね~)
眺めて、眼福。
当面、僕の先生になってくれるらしいし、
(よろしくお願いします)
心の中で、頭を下げる。
そして、ほっこりした気持ちで、僕も眠りに落ちていった。
…………。
…………。
…………。
「起きろ」
ゲシッ
(アイタっ?)
足に衝撃があり、目が覚めた。
まぶたを開けると、小生意気そうな美少女の不機嫌そうな顔がある。
……えっと?
(あ、パルシュナ)
寝ぼけた頭が思い出す。
パルシュナは両手を腰に当て、
「もう朝よ、いつまで寝てんの?」
「え?」
「姉上もレオも、とっくに起きて出発準備を始めてんの。アンタも起きなさいよ」
「あ、う、うん」
え、本当に?
(わ~、大変)
慌てて、ベッドから起きる。
見れば、窓の外、地平線上の町並から太陽が半分だけ顔を出していた。
まだ、夜明け直後。
5時前ぐらい?
室内では少女の言葉通り、着替えを済ませ、鎧も装着し、荷物をまとめている2人のお姉さんの姿もあった。
(みんな、早起きだね)
彼女たちも、僕に気づく。
「起きたか」
「おはようございます、シーナ」
「うん、おはよう」
僕も挨拶。
クレティーナさんが微笑み、
「このあと朝食を食べ、1時間ほどで出発となります。シーナもお手洗いなど、必要な準備をしておいてくださいね」
と、教えてくれる。
僕も「うん、わかった」と頷いた。
と、彼女は何かに気づき、
「シーナ」
チョイチョイ
と、手招きする。
(?)
素直に近づくと、彼女はクスッと笑う。
「寝癖ですね」
「へ?」
「ふふっ、可愛らしい。整えますね」
サワッ
水差しの水を手に付け、指で僕の髪を梳く。
(わっ?)
なんと甲斐甲斐しいお世話。
距離も近く、身長差もあるので、すぐ目の前で重そうな胸がタプンタプン揺れている。
め、目のやり場に困る。
と、その時、
(はっ)
赤面する僕は、少女の視線に気づく。
軽蔑の眼差し。
「――スケベ」
(ぐふっ)
図星なので、致命傷です。
見ていたレオナックさんは「くっくっ」と喉の奥で苦笑している。
そして、当のお姉さんは、
「はい、直りましたね」
「…………」
「? シーナ?」
「な、何でもないよ……ありがとう、クレティーナさん」
「ふふっ、いいえ」
僕のお礼に、嬉しそうにはにかんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
朝食後、1人、トイレに向かう。
(ふぅ)
と、用を足し、部屋に戻る――途中、ふと窓の外を見た。
いい天気だ。
快晴の青空、そして、輝く朝の太陽。
ウズ……ウズ……
頭のてっぺんが疼く。
(う~、光合成したいなぁ)
あまりに気持ち良さそうな日差しに、『葉っぱ』を出して太陽の光をたくさん浴びたくなる。
出しちゃう?
みんな、先に部屋に戻ってるし。
今、1人だし。
こっそり、光合成しちゃおうかな?
キョロ
周囲を見る。
(誰もいないよね?)
と思った時、
「――あ、ここにいた」
(ひゃあ!?)
背後から声をかけられ、僕は飛び上がりそうになった。
慌てて、振り返る。
奥の廊下の角から、たくさんの荷物を抱えた少女――パルシュナが顔を出していた。
僕の反応に、
「何よ? そんな驚いて」
と、怪訝そうな顔をする。
僕は誤魔化し笑いで、
「う、ううん、何でも」
「……ふ~ん?」
「…………」
「ビビりね」
「ぐ……」
「ま、いいわ。――それより、今、狗竜に荷物の積み込みしてるの。アンタも手伝ってよ」
と、言う。
確かに、少女の手には荷物がいっぱいだ。
僕も「あ、うん」と頷く。
半分受け取り、
「クレティーナさんたちは?」
「残りの積み込み用の荷物、用意してる」
「そっか」
「ほら、行くわよ。宿の裏手に、狗竜を預けてる獣舎があるから」
「あ、うん」
先を行く少女の背中を、慌てて追いかける。
廊下を2人で歩いていく。
と、ふと彼女が、
「そう言えばさ」
「ん?」
「アンタ、しばらく私らと一緒に冒険者の勉強するんだって?」
「あ、うん」
「そう」
「…………」
「ま、あの2人が許可したなら仕方ないけど……アタシが寝てる間に決めちゃうんだもんなぁ~」
と、唇を尖らせる。
ああ~。
(そっか。彼女にしたらそうだよね)
「なんか、ごめん」
僕は謝る。
パルシュナは肩を竦め、
「ふん。ま、いいわよ」
「…………」
「精々、足、引っ張らないようがんばんなさいよね?」
「うん、がんばる」
僕は頷く。
少女は「ふん」と、また鼻を鳴らした。
やがて、宿の裏口から外へ。
花壇や池のある庭があり、更に散策路の奥に、宿泊客の馬などを預かる建物――獣舎が見えた。
結構、大きい。
馬や竜の他、大きな亀もいる。
(へ~?)
ちなみに、種類ごとに獣舎が区分けされていた。
で、竜舎には、
クルル
あの3頭の竜――狗竜というらしい――が繋がれていた。
少女を見て、甘く喉を鳴らす。
パルシュナは、
「はいはい、いい子ね」
と、その鼻先や首を撫でながら、手際良く鞍を取り付けていく。
3頭の竜も大人しい。
う~ん、信頼関係がある感じ。
(なんかいいね)
と、少女と狗竜たちを眺めてしまう。
その美しい少女は、僕を振り返り、
「何ボケっとしてんの、チビシーナ? ほら、積み込み作業するんだから、アホ面してないでアンタも動きなさいよね」
「…………」
顔は天使、口は悪魔。
(ま、根はいい子だと思うけど)
ちなみに、僕とパルシュナは同じぐらいの身長であり、決して僕はチビではない、うん。
で、作業開始だ。
運んできた荷物を、2人で積み込む。
鞍には荷台があり、平たい紐に付いた金具で固定できるようにしてあった。
(んん~、重い)
僕は、子供だ。
身体が小さい分、荷物を高く持ち上げるのが大変で。
少女は、
「ひ弱ね~」
と、手早く荷物を固定していく。
鍛えているのか、慣れてるのか、少し男の子のプライドが傷つく。
(ふぬぬ)
力を込めながら、
「こ、これ、何が入ってるの?」
と、聞く。
少女は「ん?」と僕を見る。
「ああ、あの黒い竜の素材よ。そっちは『護国の神樹』の枝の一部ね」
「そ、そう」
「落とさないでよ?」
「わ、わかってる」
でも、重いよ~。
(多分、20~30キロぐらいあるんじゃない?)
僕、顔真っ赤。
葉っぱ生やしたら、楽勝なのに……ふぐぐ。
と、その時、
ズルッ
閉じ方が甘かったのか、斜めになった荷物の口から、灰色の巨大な枝が落ちそうになった。
(あ……)
「やばっ……押さえて、シーナ!」
「う、うん!」
慌てるパルシュナ。
僕も急いで、枝の下に手を入れる。
グッ
枝に触れ、力を込めた――瞬間、
パアアッ
(!?)
灰色だった枝が、突如、僕が触れた部分を起点に光り、あっという間に枝全体が輝き出した。
え、何?
何が起きたの?
少女も、
「ちょ……何っ!?」
と、戸惑う。
灰色だった枝は、神々しく光っている。
まるで、枝全体が電球みたい。
そして、気づく。
あれ?
(……なんか、軽い)
あれだけ重かった枝が、羽根みたいに感じる。
そして、頭の上がムズムズする。
この感じ……。
(ま、まさか?)
僕は、目の前の少女を見た。
パルシュナの紫色の瞳は大きく見開かれながら、僕の方を見ていた。
正確には、僕の頭頂部を。
その口が開き、
「……何、シーナ? その葉っぱは?」
あ、ああ……。
やっぱり、生えてるぅぅ!




