019・冒険者になる
「ふんが~……すぴ~」
客室に戻ると、少女が爆睡していた。
ベッドに大の字になり、紫色の癖のある髪をシーツに広げ、捲れた服の裾から白いお腹を晒し、口元からは涎を垂らしている。
(豪快だな~)
女の子にあるまじき姿。
でも、顔は良いんだよね、顔は……。
なんか、複雑。
優しい姉は「もう」と妹の服を直し、毛布をお腹にかけてやる。
赤毛の美女は、
「ああ、そうじゃ。――シーナ」
「ん?」
「明日、我らは王都に着く。そのあと、そなたはどうする?」
「え……あ」
しまった。
(何にも考えてなかったや)
とりあえず、人里に出なければとばかり考えていて、出たあとの計画は何もなかった。
う、う~ん、どうしよう?
悩む僕に、
「望むなら、孤児院を紹介するぞ」
と、レオナックさんは言ってくれる。
孤児院か。
当面の生活には困らないかもしれない。
でも、
(葉っぱを隠して集団生活するの、大変かも?)
神経、磨り減りそう。
クレティーナさんも僕の返事を気にして、こちらを見ている。
僕は言う。
「あの、もし王都で僕みたいな子供が自活するとしたら、就ける職業って何かある?」
「ふむ?」
「自活ですか」
2人は顔を見合わせる。
やがて、
「やはり、『冒険者』かの」
と、王国最強の冒険者の1人が答えた。
もう1人のお姉さんも、
「就ける職種は多々ありますが、子供となると賃金が安くなります。物価の高い王都では自活も難しいでしょう。なので、危険はありますが、その分、収入の多い冒険者に選択肢は絞られることになります」
「そっか」
僕は頷いた。
なるほど、3人と一緒の職か。
(だから、7年前の貧民だった姉妹も『冒険者』になったんだね)
今更、理解する。
2人を見て、
「わかった。僕、『冒険者』になる」
と、宣言した。
でも、彼女たちは少し複雑そうな顔だ。
(んん?)
何か、問題が?
「決めるのはそなたじゃ。反対はせぬ。じゃが……」
「素人が、まして子供がいきなり『冒険者』の仕事となると、死亡する可能性も高くなりますね」
「うむ」
「どうしましょう?」
と、お姉さんたちは悩ましげな表情だ。
死亡率、か。
(でも)
「でも、クレティーナさんも、僕ぐらいの時に冒険者になったんでしょ?」
「え?」
彼女は、紫の目を丸くする。
驚き、そして、何かに気づいたように赤毛の美女を見る。
彼女は、
「あ~、昔話を少しな」
「まぁ」
「その、すまぬ」
「いえ、まぁ、隠すほどの過去ではありませんが」
と、クレティーナさんは息を吐く。
苦笑し、僕を見る。
「私の場合は、妹もいましたし、それにレオが3ヶ月ほど指導をしてくれました」
「指導?」
「はい。冒険者としての基礎的な知識、技術などを」
「へ~、そうなんだ?」
いいなぁ。
(つまり、先生がいたんだね)
と、
「わかりました」
突然、クレティーナさんが長い髪を揺らし、頷いた。
(ん?)
僕を見つめ、
「私が、シーナを指導しましょう」
「え?」
「ティナ?」
僕だけでなく、レオナックさんも驚いた表情だ。
でも、緑髪の美女は笑う。
「ええ、良い案です。当面は、私の家を拠点にしてもらい、シーナに命を助けられた恩を返しましょう」
「え、いいの?」
「はい」
笑顔で頷くお姉さん。
(やったー!)
思わぬ幸運に、僕も喜ぶ。
でも、
「待て待て、ティナ」
「はい?」
「シーナを指導するのは良いが、その間、我とパルと共に受けるクエストはどうする気じゃ?」
「……同行させれば?」
「何?」
「一時的にパーティーに加え、クエスト中に指導すれば問題ないでしょう」
「そなた、正気か?」
「ええ」
頷くクレティーナさん。
仲間の美女を見返し、
「クエスト難度は高いですが、レオがいるのです」
「…………」
「まさか、『金印』の称号を持つレオナック・オルンその人が、少年1人加わっただけで失敗するようなこともないでしょう?」
「ティナ、おぬしな……」
「では、シーナを見捨てますか?」
「ぬ……」
「ふふ、レオはそういう人です」
クレティーナさんは笑う。
どこか懐かしそうな表情は、7年前を思い出しているのかもしれない。
その赤毛の美女は、
「はぁぁ」
と、嘆息した。
「頑固な奴め」
「はい」
「わかった。シーナの指導は我も手伝うとしよう。そなたの命の恩人じゃからの」
「ええ、ありがとう、レオ」
苦笑し、認めるレオナックさんに、7年前、その指導を受けた彼女も嬉しそうだ。
僕は、目を瞬く。
(なんか、どんどん決まっちゃった)
少々、呆気だよ。
と、クレティーナさんが僕を見る。
微笑み、
「では、そういうことで」
「あ、うん」
僕は頷き、
「ありがとう。クレティーナ先生、これからよろしくお願いします!」
バッ
深く頭を下げた。
彼女は驚いた顔をする。
「せ、先生……」
呟き、なぜか白い美貌の頬が赤くなっていく。
(???)
どうしたの?
そんな彼女にレオナックさんは苦笑し、嘆息する。
「まぁ、良いか」
と、呟いた。
そんな中、
「ふがぁ~……すぴぴ~」
1人、何も知らない少女は、元気な寝息を室内に響かせていた。




