016・クォレンの街
(おお~、人がいっぱいだ)
門の先は、大通りとなっていた。
道の端には街路樹が並び、正面奥には神殿らしき建物も見える。
左右にも家々が並ぶ。
多分、商店かな?
多くの人が出入りし、また通りをたくさんの人と車両が埋めている――凄い、本当に異世界の街だ。
多くは、平民らしい格好。
だけど、中には剣や鎧の騎士風の人や、杖とローブの魔法使いっぽい人も歩いてる。
(へ~、へ~、へ~)
キョロキョロ
僕の視線は忙しい。
そんな僕に、クレティーナさんは優しい眼差しである。
トットッ
人波の中を、3頭の竜も行く。
意外とぶつからない。
視線も高いので、通りの先までよく見えるんだけど、
(葉っぱが生えてる人、いないね?)
人間8割、エルフ、獣人、ドワーフなどが2割、でも、僕のように頭に葉っぱがある人は0人だった。
むぅ……。
やはり、異端なのか?
人前で過ごす時は、隠しておいた方が良さそうだと判断する。
……少し寂しい。
その時、
「なんか、お腹空いたわ~」
と、パルシュナが言う。
全員、彼女を見る。
「王都行く前に、先に食べてかない? 『転移の門』も予約の時間かかるしさ」
「ふむ」
「シーナもお腹が空きましたか?」
え?
不意に言われ、驚く。
クレティーナさんはいつも、僕を気遣ってくれる。
(ええと……)
答えに迷う。
正直、少し空いてる。
今日は携帯食だけだし、水を食べれたのも1回だけだから。
でも、
(僕、文無しだよね)
多分、また奢られてしまう。
人として、それでいいのか……と思う。
だから迷うんだけど、
ギロッ
紫の髪の少女が僕を睨んでいた。
『――〈空いた〉と言え!』
声なき声の脅迫が聞こえる。
……あ、はい。
「ええと……少し空いたかも」
「では、食事にしましょう。――レオ、構いませんね?」
「……ティナ、おぬしな?」
「やったわ、賛成多数! 4人中3人が言ってるのよ、もう決まりね!」
言い切る少女。
姉妹の様子に、リーダーのレオナックさんは嘆息する。
「仕方あるまい」
と、同意した。
民主主義に敗北したようである。
(なんか、ごめんなさい)
賛同者の1人として、少し申し訳ない。
でも、彼女は気を取り直したように、
「あい、わかった。じゃが、先に『王都行き』の予約を取るぞ。飯を食うはそのあとじゃ」
「は~い!」
「ええ、わかりました」
「あ、うん」
僕も、素直に頷く。
そのあとも、3頭の竜は通りを行く。
街の中心部へと向かい、やがて、役場のような建物の前で停まると、
「しばし待て」
と、レオナックさんが1人竜を降り、建物に入っていく。
結構、人の出入りも多い。
僕は、後ろのお姉さんに聞く。
「ここは?」
「王国の『転移門管理局』ですね。『転移の門』は1日12回と、その回数と時間、転移人数が決まっているので予約が必要なんです」
「へ~、そうなんだ」
「金額も、そこそこ高額です」
「…………」
借金、追加決定。
(が、がんばって返そう)
そんな決意をしながら待つこと、約20分、赤毛の美女が戻ってきた。
でも、その美貌は渋い。
姉妹も気づく。
「レオ?」
「どったの?」
「うむ、今日は転移希望者が多くての。明日の朝1でしか、予約が取れなんだわ」
「まぁ」
「そなの?」
「仕方ない、今日はクォレンに泊まるかの」
と、言う。
え……お泊まり?
◇◇◇◇◇◇◇
急な宿泊宣言に、姉妹は喜んだ。
僕はともかく、女冒険者の3人は、数日間、森の調査を行っていたらしいんだ。
当然、お風呂も入れない。
全員、濡れタオルで身体を拭くぐらいで、
「お風呂! 絶対、お風呂のある宿にしましょ!」
「ですね」
妹の要求に、姉も頷く。
レオナックさんも苦笑し、「そうじゃな」と同意していた。
(ん~?)
クンクン
匂いはあるけど、別に嫌な感じはしないよ?
むしろ、いい匂い。
まぁ、僕の感想より彼女たち本人の納得の方が大事だろうし、何も言わないけどね。
で、宿屋へと移動する。
15分ほどで到着。
3階建てぐらいの三角屋根の建物だ。
結構、大きい。
店舗前の看板には、簡略化されたベッドと食事の絵が描かれている。
(う~ん、高そう)
宿内に入る。
受付で、中年のお姉様が「いらっしゃい」と出迎えた。
4人の代表で、レオナックさんが部屋が空いているか、食事と風呂があるか確認してくれる。
で、宿代も判明。
「1泊200リドだよ」
とのこと。
(ふむ?)
僕は、隣の1番仲良しなお姉さんに訊ねた。
「あの、クレティーナさん」
「はい?」
「1リドって、どれくらいの価値?」
「え?」
驚きの表情。
聞こえていた妹も「うわ、世間知らず」とか言ってる。
(悪かったね)
まだ転生したてなんだよ、僕。
でも、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥――正直、少し恥ずかしいけど、今の内に教えてもらわなきゃ。
お姉さんは頷き、
「そうですね……大体、1~3リドでパンが1つ買えるぐらいでしょうか」
「へ~?」
なるほど?
(多分、1リド100円ぐらいかな?)
多少、差異はあるだろうけど、それぐらいの感覚でいいと思う。
つまり……え?
(1泊2万円!?)
た、高い。
無一文の僕は慌てる。
「あ、あの、僕、外で野宿しようかな」
「え?」
「は?」
「だって、お金ないし、1人男だし、お高いし……」
と、後退る。
ガシッ
(わっ?)
クレティーナさんに手首を掴まれた。
少し怖い顔で、
「何を馬鹿なことを」
「う……」
「シーナ。私たちが貴方1人を野宿させるなど、そんな薄情な女たちに見えますか?」
「で、でも」
僕は答えに詰まる。
妹の方は「私は、シーナが野宿でもいいけど~」と呟き、姉に睨まれる。
そして、お姉さんはまた僕を見る。
胸に手を当て、
「貴方が助けてくれた私の命は、そんなに安くはありません。どうか、このクレティーナをもっと信じてはもらえませんか?」
と、真剣な眼差しだ。
(……クレティーナさん)
いい人だ。
だから、信頼はしてる。
でも、僕、槍を投げただけだし、助けた実感、あまりないんだよね。
だから、申し訳なくて。
と、その時、レオナックさんが戻ってくる。
「どうした? 何を揉めておる?」
「あ……」
「レオ。それが、シーナが野宿すると言い出して」
「ふむ?」
と、彼女は目を丸くする。
クレティーナさんと僕は、事情を説明。
赤毛の美女は頷き、
「そうか。ならば、こうしよう。――シーナ、手を出せ」
「え? うん」
「ほれ」
ジャラッ
出した手に10枚、硬貨が渡された。
(え?)
僕は目を丸くする。
「1000リドじゃ」
「は?」
「仲間の命を助けてくれた礼と思え。宿代なども、そこから出すが良い」
「いや、でも」
こんなにもらえないよ!?
僕の反応に、
「たわけ」
と、赤毛の美女はピシャリと言う。
(うっ?)
「今回の件、クレティーナが1人欠けていれば、あの使役された黒竜は倒せなかったかもしれぬ」
「…………」
「必然、調査クエストも失敗じゃ」
「…………」
「での? 今回のクエスト報酬は10万だったのじゃ」
「じ……っ!?」
10万って、つまり、1000万円!?
(ひぇっ)
息を飲む僕に、言う。
「つまり、そなたは10万の損害を防いだ。1000リド程度の礼は当然であろう?」
「う、でも」
「ああ、傷を治した礼もあるの。ほれ」
ジャラッ
(わっ?)
更に10枚、追加された。
ち、ちょっと~?
焦る僕に、
「これ以上、何か言うなら、更に追加するぞ」
と、笑う。
何、その脅迫?
でも、クレティーナさんは『うんうん』と頷いている。
妹の方は、
「勿体なぁ……」
と、呆れていたけれど。
僕は無言。
(本当にいいの?)
と、赤毛のお姉さんの美貌を見上げる。
気づいた彼女は、
ポン
僕の頭を軽く叩いた。
「正当な報酬じゃ。このレオナック・オルンが『金印』の称号にかけ保証するぞ」
「……うん」
僕も頷いた。
生きるには、お金がいる。
(今後の生活基盤を築くにしても、最低限、先立つものは必要になるよね?)
だから、今は、
「――あの、ありがとう」
ペコッ
3人に頭を下げる。
年上2人は鷹揚に頷き、少女は「ま、好きにしたら」と軽く言う。
(みんな、優しいね)
約20万円。
大事に使おう。
でも、やっぱりもらい過ぎな気がするから、その分、きちんと3人に恩返ししていこう。
(うん、がんばるぞ)
そう心に誓い、
ギュッ
手の中を硬貨を、僕は握り締めた。




