015・門前の一幕
草原を走り、街道に出る。
(おお、土の道だ)
多少、轍もあるけれど、森の地面に比べたら凹凸もなく安定感がある。
お尻が楽ぅ~。
しばらく進むと、街を囲む壁が近づく。
石積みの頑丈そうな壁だ。
高さは5メートル以上で、街道と接する部分に巨大な門がある。
門前には、たくさんの旅人と馬車、あるいは竜が牽く車両が並び、どうやら街に入る審査か手続きがあるみたいだった。
僕らの竜も並ぶ。
ドキドキ
(初めての異世界の人の街だ)
期待値が高い。
周囲を見ると、
(あ……あの人、耳が長い?)
え、まさか……?
ドキン
心臓が跳ねる。
「ク、クレティーナさん?」
「はい?」
「あの並んでいる人……もしかして、エルフ様ですか?」
「え……様?」
「…………」
「ええと、はい、そうですね」
と、肯定される。
(や、やっぱり~!)
異世界の象徴的存在、ある意味、転生したら会いたかったナンバー1の方々だ。
うわ、本当美形~。
こう繊細な感じで、芸術品を見てる気分だよ。
目を輝かせる僕に、
「もしかして、エルフに会うのは初めてですか?」
「うん!」
「まぁ……」
「噂では知ってたけど、美人だね」
「…………」
彼女は、数秒、沈黙する。
自分の胸の辺りを不思議そうに触ると、
「そう、ですね」
と、頷いた。
パルシュナが「アンタって本当、田舎者ねぇ」と呆れたように言う。
(悪かったね?)
姉が「こら」と妹を叱る。
よく見ると、
「あ、あの人、耳と尻尾がある。獣人さん!? あっちの背の低いガッチリした髭の人は、もしや、ドワーフさん!?」
「…………」
「…………」
「うはぁ、凄いなぁ……!」
興奮する僕。
姉妹は顔を見合わせる。
赤毛の美女が苦笑し、
「あまりジロジロ見ると失礼じゃ。程々にの、シーナ」
「あ、うん」
確かに、そうだね。
(でも、僕、感動だよ)
前世では、空想の存在。
実在しないはずの人種――その人たちが今、目の前で生きている。
ああ……異世界。
なんか、僕、泣きそう。
そんな僕を、クレティーナさんが見つめる。
「…………」
息を吐くと、
ナデナデ
優しく笑いながら、僕の頭を撫でたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
約30分後、手続きの番が来た。
3人のリーダーのレオナックさんが代表して、門兵と話して手続きをしてくれる。
「冒険者か」
「うむ。これが通行許可の書類じゃ」
「確認する。……むっ、人数が合わぬな」
「ああ、あの小僧は森で保護した子供での。入街料は別に支払うぞ」
「ふむ、そうか」
チャリン
硬貨を渡す赤毛のお姉さん。
(…………)
街に入るのに、お金が要るんだ?
僕は慌てて、
「あ、あの、いつか必ず返すからね?」
と、隣のクレティーナさんに言っておく。
彼女は目を丸くする。
「まぁ、別に構いませんよ。シーナは私の命の恩人ですし、これぐらい――」
「だ、駄目だよ」
お金の貸し借りって大事なことだから。
僕の様子に、
「シーナは真面目ですね」
と、彼女は苦笑する。
妹の方は「じゃあ、利子、た~っぷり付けて返してもらいましょ?」と楽しげに笑う。
(ぐ……き、君って子は……)
その間にも、手続きは進む。
「では、証明の冒険者印を示せ」
「よかろう」
頷くレオナックさん。
右手を出し、
パアッ
(!?)
その手の甲に、黄金色に輝く光の紋章が浮かび上がった。
な、何あれ?
僕は目を見開いてしまう。
気づいて、
「冒険者印です」
と、クレティーナさん。
(冒険者印?)
彼女は、自分の右手の甲を見せ、
ポウッ
(!)
レオナックさんと同様、光輝く紋章を浮かび上がらせた。
ただし、こちらは銀色。
「冒険者は登録した際に、ギルドから魔法の紋章を授かります。色はランクを示し、偽装できぬ身分証ともなります」
「へぇぇ~」
思わず、見入っちゃう。
(凄い綺麗……)
これも、異世界技術か。
僕は、少女を見る。
「じゃあ、パルシュナも?」
「そりゃ、あるわよ」
ポウッ
幼い右手に、純白の光の紋章が灯る。
おお~、
「格好いいね!」
「…………。ふふん、そ~お?」
得意げな少女。
鼻を高くする妹に、姉は苦笑する。
そして、レオナックさんの方は、黄金の紋章を見た門兵や周りの人が驚きの表情を浮かべていた。
「金色!?」
「まさか、金印の……?」
「凄いわ。あの人、炎帝のレオ様よ!」
「マジかよ……」
と、ざわめいている。
(へぇ……?)
凄い反応。
さすが、王国最強の冒険者の1人。
(前にパルシュナが言っていたように、レオナックさん、本当に有名人なんだね)
僕も驚いちゃう。
門兵も態度を改め、
「こ、これは失礼しました」
「構わぬ」
「手続きの問題は何もありません。どうぞ、お通りください」
ビシッ
門兵全員、敬礼だ。
赤毛の美女は「うむ」と鷹揚に頷き、僕らを振り返る。
ドキッ
彼女は、
「許可が出た。皆、行くぞ」
「あ、う、うん」
「はい」
「はいよ~」
竜の手綱を引き、近づく。
タン
豊かな赤髪をなびかせ、レオナックさんは華麗に乗竜する。
と、僕を見て、
「どうした、シーナ?」
「あ……」
「我の顔に、何かついておるか?」
「う、ううん」
僕は首を振る。
そして、
「その、レオナックさんって凄い人なんだね? 周りの人の反応見てたけど、僕、なんか驚いちゃったよ」
「ふっ……そうか」
彼女は、苦笑する。
姉妹は顔を見合わせ、妹が「今更~?」と呆れる。
(本当、今更だよね)
僕も笑う。
そんな年少組のやり取りに、クレティーナさんも微笑む。
やがて、赤毛の美女は前を向き、
「――よし、では行くぞ」
と、自分の竜を歩かせる。
僕らの竜もあとに続く。
3頭の竜は石壁の門を潜り抜け、そして、僕ら4人は『クォレンの街』へと入ったんだ。




