013・女たちの会話
(今の声、パルシュナかな)
どうやらテントの外で、3人で会話しているみたいだ。
しかも、話題は僕らしい。
う、う~ん……。
気になった僕は、少々、聞き耳を立てる。
僕が眠っていると思っているらしく、美女たちと美少女の会話は続く。
レオナックさんの声が、
「確かにの」
「まぁ、レオまで……」
呆れ気味に応じたのは、クレティーナさんだろう。
その妹の声が言う。
「だって、記憶喪失よ? 絶対、嘘じゃない」
「記憶障害は、見た目ではわかりませんよ」
「でも、こんな森に、あんな子供が1人でいるなんて不自然よ! 私は裏があると思ってるわ」
「裏ですか?」
「そ。……実は、擬態した魔物とか」
ドキッ
頭に『葉っぱ』を隠してる僕は、内心、動揺しちゃう。
でも、
「ないですね」
「ないの」
と、大人2人は即否定。
少女の「うぐぅ……」と悔しそうな声がする。
「我も最初は疑ったが……そうした『人』に擬態する魔物特有の気配がない。むしろ、聖職者に近い清浄な気配がするの」
「それに、彼は私を助けたのですよ?」
「……うぅ」
「まぁ、魔物は人を助けぬな」
「ええ」
「でも、怪しいわよ! なんか、隠してる!」
パルシュナは反発。
(それは、正解)
テント内で、僕も頷く。
「そこは、否定せん」
「はい」
(あら?)
お姉さん2人も同意した。
少女も驚いた気配がする。
「あの小僧は、何かを隠しておる。それは確かじゃ」
「なら……!」
「じゃが、我は、それを自分の身を守るためじゃと判断しておる。悪性の類ではなかろう」
「身を守るため……?」
キョトンとした声。
姉が言う。
「シーナは常識に疎い。彼は『護国の神樹』も知りませんでした」
「はぁっ!? や、やっぱ怪しいわ!」
「はい」
頷き、
「ですが、生活の苦しい辺境の村では、世の中を知らぬ者は多いでしょう。そして、そうした村の中には、幼い子供を聖なる森に供える風習がある村もあるのですよ」
「供え……」
「口減らし、あるいは、神への生贄」
「…………」
「シーナも、そうした1人ではないかと」
「……マジで?」
姉の沈痛な声に、妹も小声になる。
ええと、
(僕、そんな風に思われてたの?)
さすがに、びっくり。
クレティーナさんが、僕に優しい訳だ。
赤毛の美女が、
「なるほど、人間不信か」
と、呟く。
「はい。だから、私たちに色々隠したがるのでは、と」
「ふむ」
「うぅ~っ」
「それと、シーナは何か不思議な力を持っているようです。パルや私たちを治したのも、その力の一端でしょう」
ドキッ
僕、また緊張。
レオナックさんも同意する。
「そうじゃの。しかも、神殿の神官共が使う『回復魔法』とは違う系統の魔法のようじゃ。もっと原始的な、癒しの力そのものに思えるの」
「何、それ……? マジ、何者なの」
「わからぬ」
「アイツ、やっぱ怪しいわ」
少女は繰り返す。
姉が「パル」と呼ぶ。
「人間不信のシーナにとって、その力は隠したいものでしょう。ですが、それでも彼は貴方の足の火傷を治したのですよ?」
「あ……」
「その意味を考えて」
「…………」
妹は沈黙する。
赤毛の美女は頷き、
「アレが、善良な性質なのは間違いあるまい」
「はい」
「……ちぇ~」
姉は頷き、妹は不満そう。
数秒の沈黙。
(…………)
なんか全員、僕のいるテントを見てる気がする。
僕は息を殺しちゃう。
やがて、
「何にせよ、子供を1人、森に放置しておく訳にもいくまい。王都フィーンドリアまでは保護し、一緒に連れてやろうではないか」
「はぁ、仕方ないわね」
パルシュナも同意する。
小声で「足の借り、返したいし」と呟く。
姉の方も、
「あの子は、私の命の恩人です。ええ、その分の恩返しもしなければ」
と、微笑む気配。
(……うん)
3人に、僕は疑われていた。
でも、そんな怪しい僕のことを受け入れ、彼女たちは森の外まで連れて行ってくれると言う。
少し……泣ける。
突然の異世界転移。
(頭に葉っぱもあるし、1人ぼっちの異邦人だと思ってたんだけどなぁ……)
胸が熱い。
目から汗が出る。
ゴシゴシ
慌てて擦り、
(ん、寝よ)
3人に顔を合わせるのも恥ずかしく、強く目を瞑る。
――信じてくれて、ありがとう。
心の中で呟き、
バサッ
照れ臭くなった僕は、頭まで毛布を被る。
そして、
ぐぅ……
と、再び眠りに落ちた。




