011・回復の力2
太陽の光を吸収する。
熱い。
熱い何かが全身を流れていく。
内側に、力が湧き上がる。
(――よし)
僕は、足元に落ちていた拳大の石を拾った。
グッ
うん、軽い。
視線を上げる。
ガッ ギィン ドォン
3人の女冒険者は、黒い竜との戦闘に集中している。
灰色のフードの人物も、その竜の負傷を治して3人を苦しめることに夢中になっている。
誰も、僕に気づいてない。
――今だ。
僕は短い右腕を振り被り、左足を前に踏み出す。
タン
それを軸に、腰を回転。
石を握った右腕を、
「えい!」
と、前に振り抜いた。
ボッ
投げられた石は砲弾となり、フードの人物の腹部に命中する。
ドパァン
布が裂け、貫通。
腹部に大穴が空き、向こう側の景色が見えた。
(やった)
僕は、拳を握る。
フードの人物は口を大きく開け、驚きの表情だ。
ケホッ
真っ黒な液体が――血液が吐き出される。
奴が、僕を見る。
頭の上に葉っぱを生やし、まるで天使の輪のように輝かせる僕の姿を。
――目が、合う。
赤い血のような目玉だ。
その眼球に、驚き、納得、悔しさ、諦め……そんな感情が宿る。
そして、笑う。
奴は斜めに傾き、地面に倒れた。
ボフッ
(……あれ?)
でも、残されたのは灰色のローブのみで肉体はなく、代わりに黒い煙が空へと消えていく。
……倒した?
それとも、逃げられたのかな?
(ん~、わからないね)
でも、一泡吹かせたのは確か。
そして、この場からいなくなったのも。
だから、
「ねぇ! コイツ、再生しなくなったわ!」
「今が好機です!」
「ティナ、パル、攻撃を集中じゃ!」
と、3人の声がする。
戦場を見れば、
(うん、負傷がそのままだ)
黒い竜は攻撃を受けるたびに傷を負い、それは2度と治ることはなくなっていた。
予想通り。
それを確かめた僕は、
シュッ
頭の葉っぱをしまう。
それから再び倒木の陰に隠れ、3人を見守った。
…………。
…………。
…………。
やがて、10分後、
「――炎帝・魔爪斬!」
ザキュン
王国最強の『金印の冒険者』が戦斧から放った巨大な炎の爪が、黒い竜の太い首を切断したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
(おお、竜殺しだ~)
凄い凄い。
感動した僕は、息をつく3人の方へと駆けていく。
タッ タッ
彼女たちも気づく。
「シーナ、無事でしたか」
「うん」
心配してくれるクレティーナさん。
僕は頷き、
「クレティーナさんたち強いんだね、とっても格好良かったよ」
「ふふ、ありがとうございます」
サラッ
彼女の白い手が、僕の髪を撫でる。
(えへへ)
その心地好さに、僕も笑う。
赤毛のレオナックさんは、そんな僕らを一瞥し、それから地面に落ちている灰色のローブを確認する。
少し眉を寄せ、
「――逃げられたか」
と、低く呟いた。
クレティーナさんも「そうですね」と頷く。
その時、
「イテテ……」
と、紫髪の少女が呟いた。
見ると、左足を軽く引き摺っている。
(え、パルシュナ?)
大人2人も気づき、
「大丈夫か?」
「パル、1度、座ってください」
「うん……」
強がることもなく、彼女は地面に座る。
(あ……)
見たら、少女の左足首は、靴下や靴が焼け焦げ、その下の皮膚は火傷で真っ赤に爛れていた。
大人たちも顔をしかめる。
「竜の火炎吐息か」
「障壁が弱かったのですね」
「うぅ、ちっくしょ~、魔力、練り切れなかったわぁ……うぐぐ」
少女も悔しそうだ。
(あわわ、痛そう……)
いや、よく見たら、3人とも顔や腕など、あちこちに軽い火傷や切り傷、打ち身の痣などがあるじゃないか。
これが、竜殺しの代償かぁ……。
僕も顔をしかめ、
(あ)
と、思い出した。
「あの、全員、向こう向いててもらえる?」
「は?」
「何じゃ、急に?」
「あ……シーナ、まさか」
2人は怪訝な顔をし、クレティーナさんだけが気づいてくれる。
僕は笑い、
「うん、やってみる」
と、頷く。
彼女は嬉しそうに笑う。
そして、
「レオ、パル。シーナの言う通りに」
「姉上?」
「ふむ?」
「そして、目を閉じるのです。ほら、早く」
「わ、わかったわよ」
「ふむ、よかろう」
と、3人全員、僕に背中を向ける。
(うん)
僕も頷き、
ニュッ
再び、頭から葉っぱを生やした。
太陽光、吸収。
2枚の葉っぱが神々しく輝き始め、全身に熱い力が流れる。
それを手に集め、
ピトッ
(――治れ)
同世代の少女の背に触れた。
ビクッ
「え、何?」
肩が震え、戸惑う声がする。
10秒ほどで、
(よし、次)
と、今度は赤毛のお姉さんの背中にタッチ。
ピクン
「む……」
彼女も小さく反応する。
でも、それ以上は動かず、無言でいる。
(よし、最後)
長い緑髪の流れる背中に、自分の小さな手を当てる。
ピクッ
「ん……」
彼女も、小さく呻く。
でも、信頼した様子で背中を預けてくれる。
それが地味に嬉しい。
やがて、僕は彼女からも手を離し、
シュッ
素早く、頭の葉っぱを引っ込めた。
(ふぅ)
と、一息。
それから、聞く。
「どう?」
「どうって……え、足、治ってるんだけど?」
少女は、自分の足首を見て、目を丸くしている。
(ふふふっ)
僕は笑う。
大人2人も、自分の身体を動かし、
「ふむ、治っておるの」
「さすがですね、シーナ」
1人は感心したように呟き、1人は優しく笑う。
僕も、
「よかった」
と、笑い返した。
赤毛の美女が僕を見る。
「回復魔法とは違うようじゃが……そなた、何をした?」
「えっと、秘密」
「…………」
ギロッ
(う……め、目力が強い)
うぅ……。
「し、正直に言うと、僕にも原理はわかってないんだ。でも、治せるから治したくて……それじゃ駄目?」
「…………。ふむ」
彼女は考え込む。
すると、
「レオ」
「む?」
「もう1度言いますが、シーナは私の命の恩人です」
「…………」
「信じてはもらえませんか?」
と、もう1人のお姉さんが擁護してくれる。
(ク、クレティーナさ~ん)
本当、いい人。
僕、この人、好き!
彼女の言葉に、レオナックさんも息を吐く。
僕を眺め、
「まぁ、善性の存在なのは認めよう」
と、言った。
疑いの視線も弱まる。
ホッ
安堵していると、
(ん?)
ふと、少女とパチッと目が合った。
お互い、無言。
と、姉が妹に言う。
「パル。シーナに礼を」
「……ぐっ」
パルシュナは、歯軋りした。
何だ何だ?
怪我を治した恩人様に、お礼の一言も云えないのかね?
(んん~?)
僕の視線に、
「……い、や」
「え?」
「やっぱ、嫌よ! だって、私、頼んでないもの! だから、絶対、アンタに礼なんて言うもんですか!」
プイッ
と、そっぽを向く。
僕は唖然。
少女の姉は「パル」と叱る顔になる。
でも、少女は頑なだ。
顔を赤くし、涙目になりながらも唇を結んでいる。
が、頑固~。
(…………)
でも、いいか。
僕は息を吐く。
「うん、わかった」
「え?」
「シーナ」
姉妹が僕を見る。
僕は苦笑し、
「考えたら、あの黒い竜を倒してくれたのはパルシュナたちだし、僕も助けられてるから。だから、今回はお相子にしよう」
「アンタ……」
「どう、パルシュナ?」
「…………。わかったわ」
彼女は頷いた。
不敵に笑い、
「お互い、貸し借りなしね?」
「うん」
グッ
僕らは握手する。
そんな僕らに、クレティーナさんは唖然とする。
彼女が困ったように赤毛の美女の方を見ると、レオナックさんも苦笑を浮かべていた。
クシャクシャ
赤毛の髪をかき、
「――まぁ、今は信じるとするかの」
と、呟いた。




