30話 内山田総理
現職内閣総理大臣、内山田一郎太は常に国民を第一に考え政策に打ち込んできた支持率の高い男だ。
アビスが国内で初めて出現した時は自衛隊を派遣し未知の外敵【エリミネーター】からの猛威を凌ぎ、ゲート開発に与野党の反対を押し切り着工を指示したほどだ。
故に政治家から敵意を向けられる事が多い。
だが、全ては国民の為と毎日のように投げかけられるヤジにも耐えられた。
そんな内山田はいつものように総理大臣公邸で、早くに起きて、今日の国会討論のために用意された資料をコーヒーを啜りながら見直していると、突然公邸内の電気が消えた。
驚いたも束の間、窓ガラスが割られ、扉を蹴破り内山田を警護していたSP達が正体不明の連中に制圧されていく。内山田はSP達の悲鳴と怒号から敵襲を受けている事を悟るが、ただただ地に伏し血を流していく彼等の姿を見つめる事しか出来なかった。
そんなSPでも敵わない襲撃者はウィザード部隊のようだ。公邸を戦機で強襲したらしく、彼女達は瞬く間に内山田の居る部屋に侵入し、拘束した。
拘束された内山田はウィザード達を睨むが、そんな彼女達を割ってこちらに迫る人物を見ては舌打ちをした。
「ご機嫌麗しゅう内山田総理……本日はお日柄もよく――」
「厳重院……貴様――なんの真似だこれは!」
ウィザード部隊の間を歩いてきたのはファンタジア当主厳重院昭弘だった。そんな彼は拘束され身動きが取れない内山田を見下ろし帽子を取りながら軽く会釈した。
「なんの真似とは? いやはやこれはご冗談が上手い。あなたは私がここに来る可能性を考慮していたと思うのだが?」
内山田は確かにここを襲撃される可能性を考慮していた。だからその前にと彼等、ファンタジアの拠点を特殊部隊に制圧させるように防衛大臣に依頼したはずなのだが――この展開は予想出来なかった。予定通りなら彼等は今、北海道で身柄を拘束されているはずだった。
そんな作戦を掻い潜りここまで攻めてきた――という事は。
「つまり、全て知っていたと言うわけか……この覗き魔め……。一体どこで作戦の話を聞きつけた!」
「人聞きの悪い事を言わないでいただきたい。私には知り合いが多いのですから顔が広いと言っていただきたいですな。まぁ、流石に今回は総理の一手が早く、危うく我々の準備が間に合わないかもと内心焦りはしましたがね」
「嫌味を……。で? 私を拘束して、新たな総理となってお前は何をするつもりだ! やはりアビスを利用した軍備拡大か!」
それは国会で厳重院達ファンタジア党員が訴えていた内容だ。内山田はその話を外交上不適切な政策と一蹴したのだが……。彼等はいつか痺れを切らし、このような武力で押し切ろうとしている事を想定していた。
そんな厳重院は内山田を指差し声を張り上げる。
「そうだ。我々はお前の甘い政策を完全に否定する! アビスは滅ぼすべき外敵? いやいや。馬鹿か? アビスこそ我が日本を大国にも劣らない強国へと成長させる物だとなぜ気付かない!」
「朝から声を張り上げるな、うるさいぞ。厳重院よ、今の時代なぜ我が国が強国になる必要があるというのだ。戦争はとうの昔に終わっただろう。今は世界と足並みをそろえる時代だと言うのに……貴様はいつまでそんな馬鹿げた妄想に囚われてるんだ」
「妄想だと? これは現実の話だ。核に頼らない新たな抑止力を持てるのだぞ? それも核よりも強力で未知の力をだ! これを使わずになにが平和だ、何が安保だ!」
「だから他国へ戦争を仕掛けると? 勝てると? 馬鹿馬鹿しい……それが妄想だと言うのになぜ気付かん。大体そんな事をしても他国にもアビスはあるのだからいずれ敗戦するとなぜ気付かない」
「敗戦はあり得んよ。我々はずっと前からアビス……ひいては【エリミネーター】の研究に実験を重ねて実用化までに至ったのだからな。これは他国よりも早く、我々が一歩先を行った証拠だ。技術大国が成せる技だ!」
「そんなくだらない事のために技術大国という言葉を使って欲しくはないのだがな……」
内山田がそう吐き捨てると、厳重院は「もういい……時間の無駄だ」と呟きこの場を去ろうと身を翻す。
内山田も厳重院と分かり合うつもりなどなかった。話はいつも平行線だからだ。
そんな厳重院は、そうだと微笑み内山田に振り返る。
「お前が今何を言おうがもう直ぐ私が新首相に成り代わる。今までこの国を繋いでくれた事だけは感謝しておくとしよう。内山田総理」
厳重院は、はっはっはと笑いこの場を去っていく。
残された内山田はウィザード部隊に囲まれながら、これから起こるであろう事態に対策を練ろうとするが。
自衛隊、警察の話では国民の大半がファンタジアを支持し始めたようだし、仮にこの場を切り抜けたとしても、暴動が起きる事は分かりきっている。
それにまずはこの拘束から抜け出し、国会に顔を出す必要があるのだが――
頼みの自衛隊には連絡を取れそうにもない。
内山田はただ指を咥えてこれから起こる事態を眺める事しか出来ず悔しい思いだった。
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