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29話 大苦戦。茜の下す決断

 【エリミネーター】の巨腕による攻撃は、たとえ広い城内であろうと脅威そのものだ。

 1発直撃すれば体が引きちぎられる事が目に見えるほどの攻撃を躱し、いなしながら反撃する私達だが、逸らされた巨腕が家具や壁を砕き、爪痕を残す光景に思わず息を呑む。

 そんな中、茜さんが熊のような【エリミネーター】の足をパイルバンカーで穿ち体勢を崩した隙に、ケリーに突撃した。



「足止めってどう言う事やッ! ここにお前らのボスがおるんとちゃうんかッ!」


「あははは! 厳重院先生がですか? 居ませんよ! ここにはねぇ!!」



 茜さんの攻撃をケリーは素手で掴み、顔を引き寄せそう言った。茜さんの馬鹿力を素手で……。

 あり得ない事だった。いくらケリーがイヴリース実験でウィザードになっていようが、この間対面した時には、あそこまでの力は備わってなかったはずだと記憶している。

 だが彼は、茜さんを振り回すように投げ飛ばした。

 まるで自分の力はお前を凌駕していると言ったように……。



「なんっちゅう力や……」


「ははっ! そうでしょうそうでしょうともッ! 私はついに至ったのですよッ! 数多のウィザードの精神に入り込み、その魔力の使い方……体の隅々を駆け巡る魔の奔流の一つ一つを体験し、私はより効率的に……より効果的に魔力を使用する事が出来るまでにねッ!」

 


 ケリーがモヤのような魔力塊を掌に集める。それは体の隅々まで行き渡っていき、やがて形を成していく。

 鎧だ。ケリーは魔力で、自分自身の新たな戦機として、武器ではなく鎧を構築してみせたのだ。



「これが私の新たな力ッ! 究極の戦機ィッ!」


「防具のどこが究極やねんッ! このどん亀がぁッ!」



 茜さんの叫びと同時に、【エリミネーター】の一体の頭を砕いた来栖さんが加勢し、共にケリーに向かう。

 二人の一撃なら、いかに強くなったであろうケリーでも耐えられるはずがない。

 ――そう考えたのだが……。



「おや? おやおやおやおや? おやぁ!?」



 2人の戦機を片手ずつ掴んだ。それも簡単に、木々から木の葉を摘むかのように。

 そしてそのまま2人の体を打ち付け、ぐるりとその場を回り放り投げる。

 ケリーは笑った。現代最強と呼ばれる茜さん、そして来栖さんを同時に圧倒するその力に。

 もはやこの場で自分に適うものはいないと確信し、高らかに笑った。

 そうこうしてる間に、茜さんと来栖さんが傷付け、頭部を砕いた【エリミネーター】が再生し、またも立ち塞がり、茜さんは舌打ちする。


 

「クソまずいで……また後手に回された……」


「先生……これはまさか――」


「ああ。恐らく奴ら、自衛官の中にもスパイを仕込んどったな! それもかなり上級士官の――」



 でなければ、この作戦を知り尽くしたような動きは取れないはずだ。つまり作戦考案段階で知られ、先に動かれたと言う事……。無駄足だ!



「おいクソボケ! お前らのボスはどこやッ! 言うてみぃ!」


「誰があなた達に話しますか! と言っても、あなたならだいたい察しがついているのでしょう?」



 ケリーが茜さんに距離を詰めて【エリミネーター】と連携して攻撃していく。片手に取り付けた無骨な戦機で必死に撃ち合うも、このままでは彼女が保たない。

 そう判断して、私は相手していた【エリミネーター】から光速で離れ、ケリーに不意打ちを掛ける。

 その一撃は彼のうなじ目掛けて振り翳された。



「とった!」


「見えてるのですよ。電光石火のウィザード」



 瞬間。ケリーの姿が目の前から消え、私の首に足蹴りが与えられた。ミシミシと魔力防御を貫通し、打撃の威力に骨が悲鳴を上げる。

 抗えば折れて死ぬ。そう一瞬で判断し、蹴られるままに吹っ飛ばされる。



「鈴!? くそっ!」



 お兄ちゃんの声が聞こえる。だが彼も、相対する【エリミネーター】を振り解くことができず、ただ悔しげな声を溢すことしかできない。

 茜さんはこの状況を、眉間に皺を寄せながら視線だけで把握しようと努める。


 

 【エリミネーター】を倒すまで、もしくは一時的に戦闘不能に出来るのは自分と来栖だけ――八重に柳は、他の子ら同様一撃で離脱できる力はない……なら――



「総員聞けぇ!」



 茜さんの叫びに、皆が戦いながら耳を傾けた。



「ウチらはまんまと奴らの柵に騙された! このままここで戦っても時間の無駄や……やから――」



 茜さんはパイルバンカーの杭をガコン! と押し込み、【エリミネーター】の鳩尾目掛けて穿つ!

 そして放たれた最大の一撃が、熊のような体を四散させ、再生する間も与えず絶命させた。



「やから! 部隊を二分するッ! ウチら――大人組はここでこのボケを撃滅ッ! 鈴芽ちゃんたち子供部隊は東京――国会議事堂まで行って、奴らの企みを断固阻止せぇ!」


「で、でもそれじゃ茜さん達が――」


「ウチらを舐めんなッ! これが――これだけが今この瞬間に取れる最善やッ! さっさと行かんかいダボ!」



 茜さんが来栖さんに視線を送る。来栖さんは茜さんの意図を察して、近くで戦っているアリスの援護に向かい――



「アリスちゃん! もう1発いける?」


「い、いけますけど……それじゃあ――」


「大丈夫! 私達は絶対に勝つわ……だからやって!」



 来栖さんが【エリミネーター】を戦機で殴り飛ばし追撃する。アリスは一瞬の逡巡ののち……覚悟を決めてドラグナートに魔力を注ぎ、解放する。



「あ、アリス! 駄目――」


「鈴、これは彼女達の覚悟なの。いくら大好きなあなたのお願いでも、それは聞けない。信じましょ? 彼女達、元祖タスクフォース0の実力を!」



 その言葉を聞いて、アカリとお兄ちゃんが頷き合った。

 そして――



「いくわよドラグナートッ!! 火力全開ッ! ドラゴン――」



 アリスは掲げる。その大火のように燃え上がる魔力の畝りを。

 その炎は一気に燃え上がり――



「ブレェェェェスッ!!!」



 城内一帯を砕き、燃やしながら、味方諸共【エリミネーター】を飲み込んだ。

 【エリミネーター】から解放されたお兄ちゃん、アカリは私の体を掴んだ。



「行くぞ! 俺達は託されたんだ!」


「せや……ここは耐えて国を守るんやッ!」


「でも――」


『ここはみんなの言う通りだ。行こう鈴芽ちゃん』



 この場で一番苦しいのは、間違いなく大樹だ。

 義理の妹……折角再会を果たすことが出来た家族を死地に残して離脱するのだ。

 それは、私がお兄ちゃんを置いて逃げるようなもの……。

 胸が張り裂けそうで、苦しく……耐え難い苦痛なはず。

 そんな大樹が、自分の感情を押し殺してそう言ったのだ。


 

『分かった……だったら行こう――東京に! ファンタジアとか言う、私達の平和に集る虫共をさっさと排除しちゃうんだからッ!』

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