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23話 オペレーション・イマジナリー・ブレイク

『まだこのニュースやってんのな〜』



 大樹が呆れるほどに、テレビではずっと親愛製薬社長の急逝が報じられている。ニュースが終わったと思えば、芸能人などが出演するワイドショーでも同様だ。

 いつもはおふざけ満載のくせして、こういう時だけ嫌な憶測が飛び交っている。



『にしてもこの死の意味する事は多分……』


『そうね。ファンタジアの当主もあの会社に来てたし、死塚も居た事から察するに』



 奴らに始末されたという事だろう。それはアリスとアカリの侵入を許し、証拠を押さえられたか、もしくは用済みになったかのどちらかのはず。

 こんな状況になったというのに、親愛製薬は業務を停止する事なく、今日も変わらず社員達が出社している光景がテレビに映っている。



「鈴。もう起きてたのか」


「お兄ちゃん。おはよ」


「ああ。おはようっと……」



 寝巻き姿でテーブルの定位置に座り、大きな欠伸をするお兄ちゃん。

 そんなお兄ちゃんに、私は眠気覚ましに一杯のコーヒーを入れて持っていった。



「さんきゅ〜。あちち」



 ズズズっとコーヒーを啜りながら、お兄ちゃんもニュースに目をやる。



「まだこのニュースやってんのか……。他にもっと報じることがあるだろうに。市民の混乱とか、ファンタジアの問題発言とかさ〜」



 お兄ちゃんがそう言うのも頷ける。今の日本は、ファンタジア党員による催眠効果での市民の混乱。それに関連して暴行を受けた人々が病院に搬送され、どこも満床。ファンタジア当主・厳重院昭弘の発言。

 どれもネタにするには十分なはずだが、なぜか一切報じる様子がない。



「あれじゃない? このニュースを大々的に出しておいて、裏でコソコソしてる事を隠してるとか」


「あー。それはありそうだな〜」



 そんな談笑をしていると、スマホに連絡が入った。

 メールだったらしく、画面を操作して内容を確認してみると。



「お兄ちゃん。どうやら今日中に動くことになるみたいよ」


「お。マジか。早いな」



 画面には来栖さんから『本日22:00よりオペレーション・イマジナリーブレイク開始』と共に、集合場所の座標まで示されていた。



「オペレーション・イマジナリーブレイク……幻想の破壊か」


「内容はチラッと昨日聞いたけど、ここに詳細がないあたり、あのままやるみたいね」



 昨日、基地で親愛製薬での出来事を報告した後に、仮の作戦をみんなで考えたのだ。

 それも、アリスたちがとってきた証拠があれば武力介入の許可はすぐに下りるだろうと判断してのことだ。

 ちなみに証拠品を持って上に掛け合ったのは、来栖さんと茜さんの二人だ。

 かたや歴戦のウィザードなのだから、説得力も相まってこのスピード可決だろう。



「22:00って事は夜戦になるな。鈴。お前、野戦の経験は?」


「ちゃんとした夜戦はないわね。夜の銭湯なら、私たちの実家との戦いが当てはまるけど……」


「ババア達のか? あれは夜は夜でもアビス攻略作戦だから、また勝手が違うだろ」


「ですよね〜」



 あの時は【エリミネーター】の相手が殆どだったから、夜戦には当てはまらないのだろう。

 その代わり、今回は対人戦だ。皮肉なものだと思う。

 全人類が【エリミネーター】の脅威に力を合わせて立ち向かわないといけない状況なのに、未だこうして人間同士いがみ合っているなんて。



「となると、夜戦について軽く説明が必要だな。俺が学校で習った程度の知識だけど、聞くか?」


「うん。聞く聞く。私だけじゃなく、もしかしたら大樹にも体を動かしてもらう事にもなりそうだしね」


「あ〜。あれか? 死塚対策で動きを撹乱させるやつ」


「そうそう、それそれ〜」



 あれは大樹が勝手に動いたものだったけど、効果はテキメンだった。だったら今回も同じように戦えば、無敵だと思われた死塚にも隙を作り出すことができるはず。

 そう思ってお兄ちゃんの説明に耳を傾けるのだが――



『やっべ〜。俺、お兄ちゃんが何言ってんのか、さっぱり分かんないんですけど……』



 と大樹は嘆いていた。それもそのはず、彼は生前ただのサラリーマンであって、ウィザードでも自衛官でもないのだ。そんな人間に夜戦の基本や専門用語を羅列されると、頭がこんがらがるのも仕方のないこと。

 だから私は、お兄ちゃんの説明を頭の中で大樹にも分かるように、図やイラストをイメージさせてやる。

 これで幾らかほど、大樹にも飲み込めるようになるはず。



『お〜。こりゃいいね〜。なるほど、こうやってイラストにしてもらえると随分と分かりやすいや。わがままを言えば、アニメにしてくれるとより分かりやすいんだけどなぁ』


「馬鹿言わないでよ! こうやって絵を想像するだけでもしんどいのよ! 贅沢言わないの!」



 ダンッ! とテーブルを叩き立ち上がると、悠長に説明していたお兄ちゃんも驚き、口を止めた。



「おいおい。なにいきなりキレてんだよ……って、大樹さんか」


「そうよ! まったくこいつったら、お兄ちゃんの話が難しくて理解できないって言うからさ。私が、そんな馬鹿な大樹にも分かるように絵でイメージしてたのに、『アニメにしてくれるとありがたい』とか言っちゃってさ。どんだけ頭の中で想像しながら説明するのが難しいか、分かってんのって話よっ!」



 ふんっ! と椅子に座り、コーヒーの入った熱々のカップを手に取って飲み干す。

 そんな馬鹿でも頼りにしなければいけない。

 口では散々こんな事を言いつつも、私は要望通りアニメーションをイメージして夜戦について説明してあげた。

 果たしてこれが大樹にうまく伝わっているのかどうか。

 それが分かるのは、いよいよ作戦を決行した時だろう。


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