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22話 終わらない悪行

 厳重院昭弘は親愛製薬本社の最上階フロアにある社長室へ向かっている途中だった。

 その途中に凄まじい揺れと轟音、その後にサイレンが鳴り響いた事に「ふむ」と腕を組んでいた。



「厳重院先生、地震です! どうか姿勢を低く――」


「問題ない。それにこれは地震ではないようだしな」



 単発の衝撃から厳重院はそう判断し、側付きの秘書にそう言った。秘書は「そうなんですか?」と情けない声を出しながらホッと息を吐いている。

 

「で、では今の揺れは一体……」


「はっはっは。それは君、決まってるじゃないか。侵入者だよ」


「し、侵入者!? それは不味いのでは!?」


「ああ、非常にな。だが問題ない。我々の計画はすでに8割達成しているのだしな。ここで警察ないしは自衛隊連中に気付かれたりしてももう遅い。あとは洗脳された国民に真意を問い、あの無能な総理を椅子から下ろすだけだ」


「ですが……」


「それでも不安かね?」


「はい。もし証拠を押さえられたりでもしていたら、8割計画を進めていたとしても覆る可能性があるんじゃ……」



 確かに普通はそうだろう。犯罪に手を染め、脱獄させた囚人と手を組み、国民を洗脳して自分の思った方向に煽動している。

 もはや国家転覆と言っていい。

 だが厳重院はそんなものは大した問題ではないと考えている。 



「君、私の秘書になってどれくらいかね?」


「い、一年と三ヶ月です……」


「ほう。意外と長いな。だがそう長く勤めておいて私のやり方が全く分かっていないようだ……。はっきり言って残念で仕方ないよ」



 秘書は「申し訳ありません!」と深く頭を下げる。

 自分の無能さ故に首を切られるのが嫌だからだ。

 秘書とはいえ政界での実力者である厳重院の秘書になれたのだ。ここで厳重院から学びを得て、ゆくゆくは自分も政界に進出する。

 そのための足掛かりであり、また給料も良い。こんなことで無能と捨てられるわけにはいかないと必死だった。



「一つ、君に言っておこう」


「はい?」



 秘書は深く下げた頭を上げて厳重院の顔を見上げる。

 そこにあった彼の目は自分を全く見ておらず真っ直ぐ。どこでもない虚空を眺めていた。

 自分などまるで眼中にもないように……。



「何かを成すためには、たとえこの身を滅ぼす可能性があるリスクがあろうとも、臆する事は許されんのだ。そうでなければ国民を……国を動かすことはできないのだからな」


「は、はぁ……」



 それだけ言って、厳重院は先にある親愛製薬社長室へと向かい始めた。

 秘書は厳重院の考えが理解できなかったが、とりあえず相槌は打った。そして慌てて荷物を手に持ち直し、その後に続く。



「だが、問題が起こったのは確かなようだし、その確認とこれからの問題には目を向けんとな」


「そうですね。そうですよね! さすが先生です」



 そうしてたどり着いた社長室の扉を秘書が開けて中に入ると、慌てた様子で青ざめる社長の姿があった。

 それはこの会社にスパイが侵入したことを知ったからか、それともこれから厳重院に何かされるか分かってのことか……そのどちらかだろう。


――――――――――――――――――――――


「ウチら4人、ただいま帰投しました!」



 桜場自衛隊駐屯地、タスクフォース0隊員の滞在する部屋に、私たちはアカリの力強い声と共に帰投した。



「ご苦労様〜。どう? 収穫はあったのかしら」



 来栖さんがニコニコと微笑みながら聞いてきた。アリスとアカリは互いに頷き合って、親愛製薬で手に入れた資料を机の上に提出する。

 そして遅れてお兄ちゃんは機材で録音・記録した音声データと映像を提出する。



「ウチらからはこの資料を、ゆっきーからは記録データを提出します」


「はいは〜い。ちょっと確認するわね〜」



 そう言って後ろに控えていた柳先生にUSBメモリを手渡す。そして柳先生は別室へ……恐らく確認しに向かうのだろう。

 残された来栖さんは資料を手に持ち、パラパラと内容を確認していく。



「みんなお疲れ様。はいこれ、お茶よ」


「「「「ありがとうございます」」」」



 八重さんがお盆を持って私たちに温かいお茶を入れてくれた。私たちはそれを受け取り飲んではホッと一息吐く。

 さっきまで緊迫した状況にいたからだろうか。このあったかいお茶が体に染みるように、心和らいでいく。



「で? 向こうで何があったの?」


「はい。まず映像からなんですけど、親愛製薬は昇進と称して有能な社員を隠しフロアに送って、さっきの資料にある研究を強要してました。それも家族を人質に取るような汚い手を使って……」



 私は機材から見た映像そのままを伝えた。

 八重さんは少し驚いたものの、「それぐらいするか……」と納得していた。



「大きな会社だものね。人員にフロアの確保……今聞いた話ができるだけの力はあるし、よく考えれば不思議じゃないわね。で? どうやら脱出にかなり手間取ったらしいけど……」



 私たちの服の汚れを見て八重さんはそう思ったのだろう。

 私は埃にまみれ、アリスとアカリは土汚れにドラグナートの魔力で焼け焦げた服の香ばしい匂いが漂っている。

 まあ一目で分かるぐらいには何かがあったと思わせる風貌だった。



「その資料を手に入れるためとはいえ、死塚の目を盗むことは叶いませんでしたわ。だからかなり強引に脱出を……」


「なるほど。やっぱり奏凍死塚本人もそこに居たのね」 


「はい。すんません。ウチらの手際が悪いばっかりに」



 アカリとアリスの2人が頭を下げた。それを見て八重さんは「そう頭を下げないで」と笑って促した。

 来栖さんも資料の確認が終わったのか、机の上に資料をばさっと置いて2人に顔を上げるように言った。



「こうして決定的な証拠も手に入ったことだし、そう悲観することないわよ? あなたたちのおかげで強制捜査に踏み込む準備も整ったのだから〜」


「ならこれで、奴らの悪行もおしまい――」


「にはならないでしょうね〜」



 私の希望ある発言に水を刺すように来栖さんが言った。



「なんでですか!? こうして音声も映像も証拠だってあるのに!」


「そうね〜。確かにこれは決定的な証拠ではあるわ。でも今の奴らは、警察、私達を相手にする事になったとしても止まることはないわ。そうじゃないと国民の洗脳に死塚の脱獄を考えないでしょうし」


「つまり……証拠を押さえられたとしても、まだ何かしようとしてるってことですか?」



 お兄ちゃんがそう聞くと、来栖さんが頷いた。



「まあね〜。その点に関しては私達も想定してたから何も感じないけどね。さっきも言ったけど強制捜査には踏み込めるようになったから、これで正面からぶつかることが出来る大義名分は得たってことよ」


「なら今までのは、その大義名分を得る為の作戦だったってことですか」



 そうだと来栖さんは頷いた。

 心境的には思うところがあるけど、そう簡単にこの規模の事件が解決する訳もなく、納得してしまった。

 そんな時、来栖さんの仕事用スマホの着信音が鳴った。

 彼女は通話に出るとしばらく頷き――



「なんですって!? 親愛製薬社長が亡くなった!?」



 ガタッと立ち上がりそう言った。

 その内容はこの場にいた私達ですら驚いてしまうほどだった。

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