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20話 どうしようか。

 部屋に入った二人が最初に目にしたのは、培養液の詰まった人一人は入ってしまえるほどの大きなポッドを前に眺める奏凍死塚と、研究員風の男の二人だ。

 カプセルの中には異形の腕、悪魔のように歪で黒く爪の生えた物が浮かんでいる。


 

 間違いなくあれは【エリミネーター】の体の一部だ。

 まずこの光景をアカリの胸に仕込んだ小型カメラが記録しただろうから、残る必要なものは、この場にある中で最も証拠として効果がありそうな代物を見つけ出す事になった。

 そんな二人をよそに、来宮先輩を掴む手を離して警備員の男が二人に駆け寄っていく。


 

「お疲れ様です。お話の通り、新たな社員をこの場に連れて来ました」


「おー。これはご苦労。これでイヴリース実験の作業効率が格段と向上するよ」


 

 よく見ると、周りにはいくつものパソコンが広がっていて、研究員風の男一人一人がパソコンに向き合いながら黙々と作業しているではないか。

 今の話からして、来宮先輩をあの中の一部にするつもりらしい。

 


「おや。そこの二人は見ない顔ですね」

 


 死塚がアリス達の方を見て、疑うように言いながら顔を覗かせてきた。

 直接顔を見られたらすぐにバレる。そう思い、アリスは顔を逸らしていく。

 


「ふ〜ん。君、なかなかシャイみたいですね。うんうん。臆病で実にいいと思いますよ」


「は、はぁ。どうも……」


 

 声を低くしてみたアリス。それでも素顔を見たいと顔を近づけてくる死塚に、アリスは心拍が上昇する。

 生きた心地がしない。まるで死神の鎌が首に触れているような気分だ。

 少しでも判断を間違えれば、待っているのは死だと……そう思わずにはいられなかった。


 

「ん〜。でも君の顔……どこかで見たような気が……」


 

 しないでほしい。

 アリスは必死に顔を背け続けたが、これ以上そのような真似をしていると正体を怪しまれてしまう。

 だからこそアカリは、この瞬間に何かしなければと、思考を走らせ。


 

「ああー!」


 

 少し前を歩いて、盛大に転んでみせた。

 ドシーンと思いの外騒音を巻き上げての転倒だったからか、この場に居た全員がアカリへと視線を向けることに成功する。


 

「何やってんだ。鈍臭い」


「す、すいません……装備が重くて……」


「仕方ないなぁ。ほら、つかまれ」


「ありがとうございます。えへへ」

 


 警備員の差し出された手を握って立ち上がるアカリ。

 その光景に死塚は呆れたように息を吐き、アリスへの興味は完全に失せたみたいだ。

 


「ひ弱で情けない……。こんな警備だったら、着けない方が良いと最初から私は言ってるのに……。まったく、策謀を張り巡らせる人は、いつも無駄な人員を割きたがる。理解しかねますね」

 


 ブツブツ言いながら死塚はアリスの前から背を向け、培養ポッドへと歩いていく。

 助かった……。そう思い、皆が見ていない隙にアリスはアカリに手を合わせる。

 


「ほら。次は気をつけるんだぞ」


「はい。ありがとうございます」


 

 警備員もアカリを立たせた後、来宮先輩を連れて、パソコン業務をする連中の元へ引き連れて行った。

 先輩は抵抗するのも無駄だと思っているらしく、トボトボと歩みを進める。

 絶対、後で助けるから……。


 

 二人は、そう近くない距離を保ちながら、さて……と周りに何かないか見渡す。

 パソコン業務をしている方は静かに作業しているのみで、これと言った資料や物品はなさそうだ。

 無駄な物を持ち込ませないようにしているのか、水分すら携帯していない。

 目もやつれていて、何時間ここで働かされていることやら……。もしかすると、帰宅もさせて貰えていないのかも。


 

 続いて培養ポッドの方だ。こっちはパソコン業務スペースとは違って、それなりに証拠になりそうな物が揃っていた。

 ポッドの中から抽出された培養液に、研究員が手に持つ何らかの資料。

 そして、手付かずの【エリミネーター】の素材。

 少し場が離れているが、あのどれかを手に入れることができれば、任務は達成間違いないだろう。


 

 問題は、どうやってあそこまで行って奪い取れるかだ。

 ここに死塚が居なければ、それも余裕だっただろう。

 だけど残念ながら、奴はここに健在で、物を奪おうと動けば、この首が切り落とされる、もしくは顔が潰される。そんな気しかしない。


 

 『どうする?』


 

 アリスは手元だけで小さくハンドサインをアカリに向けた。

 向こうも同じように困っていたのか、こちらに目を向けていて。

 


 『最悪、強行するしかないやろな。そうなったら、ウチとアリスのどっちかは、この世とはオサラバを覚悟せなあかんけど』


 

 まあ、そうなるわよね。ん?……

 アリスは研究員の資料に注目する。

 あれなら、上手くいけばリスクなしで奪い取れるのでは?

 そう考えた。

 こっちから奪い取りに向かうのが厳しいのであれば、あの研究員から持って来てもらう。

 そうだ、それだ。

 見た感じ、何の力もなさそうなメガネの男だ。

 モニタリングする以上、自身をイヴリース化させているとも思えない。じゃないと、ここに警備員を配置する意味はないからね。

 


 『アカリ。私にいい考えがあるんだけど。乗る?』


 『それ言う奴、大概やらかすけど……まぁ、言ってみぃ』


 『あそこにいる研究員。あいつから、こっちに来てもらって、何とか奪い取るのはどう?』


 

 アカリは「おっ?」と反応して、研究員の方を見る。

 確かにあれなら奪えそうだと思ったのか、少し頬が緩む。

 


 『確かにいい考えや。こっちから向こうに向かわずとも、証拠品を奪い取れる。さすが留学生やで!』


 『はいはい。なら、ここは私に任せてもらうわよ。さすがにハンドサインで、詳しい説明は難しいから』


 『あいよ。やったら、アリスがミスした時に備えとくわな?』


 『助かるわ……じゃあ』


 

 「始めるわよ」と最後にサインを残して、アリスは研究員へ行動を仕掛けることになる。

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