18話 まるでスパイ映画のように
ガキィィィン!!
そんな音が通路の方から聞こえてきた。
地下フロアを警備していた二人の男が首を傾げながら通路の扉の方へ歩みを進める。
「なんだ今の音は? 何かが壊れたような……」
「壊れるも何も向こう側には何もないはずだろ? 天井にはレーザーしか取り付けてないし、小型のが落ちたとしても今の音はデカすぎる」
「なら考えられるのは一つだな」
「ああ」
「「また業者か……」」
二人は決してふざけているわけではない。
このフロアは社内の一部の人間にしか知られていないような場所だし、入るにも専用の手段が必要だ。
故に、侵入者など一度たりとも現れたこともなかった。
逆に多くこの場に訪れたのは、【エリミネーター】の素材を運搬する闇の業者ぐらいだ。
今の騒音も業者が素材のコンテナを落としたのだろうと考えたのだ。
「全く。素材は丁寧に扱えと何度言わせれば良いんだ」
「まあまあ。落ち着けって。とりあえずは素材の運搬を引き継ぐとしようじゃないか。あんな扱いの雑な連中に貴重な素材を台無しにされては困るからな」
「それもそうだな」
一人がパネルを操作して扉を開く。業者が入っていると思われたのだが……。そこには誰もいなかった。まっすぐ伸びた白い通路。そして奥にエレベーターの扉が見えるのみ。
「あれ? 誰もいないぞ? なら今の音は――」
「おいおいどうしたってんだよ」
一人の様子が気になって残ったもう一人が扉を潜る。
二人の警備員は通路の周りを確認してさっきの物音の正体を探るが――
シュタッとその二人の背後にアリスとアカリが天井から降りてきて腕で首を絞めた。
「ぐっ! う、うぅ…………」
「なに……もの……」
ドサ……
二人の警備員は完全に意識を消失させ床に倒れ込んだ。
「いやぁ。まさかこんな上手くいくなんてな〜」
「ええ。雪也の助言もなかなかなものだったわね」
そう。こちらから開けない扉を開けて中に入るためには中から開けてもらうしかない。そう考えた結果雪也は言ったのだ「物音を鳴らして中の警備員を呼び寄せよう」と。
最初こそ何をそんな馬鹿げた作戦に引っ掛かるバカが居るもんか……。
そう思っていたが、まさかこうまで上手くいくなんて……。
「人間あんまり深く考えすぎるのも良くないっちゅうこっちゃな」
「みたいね〜」
言いながら二人は気絶させた警備員の服を脱がしてその身につけていた装備を拝借する事にした。
サイズは男用だった故ブカブカだが、まあ裾を折りたたんで誤魔化せばパッと見た感じバレることはないだろう。
「で、この二人どうする?」
「ん〜」
『そんなの中の暗い場所に閉じ込めときゃ良いのよ。あ! ちゃんと口と手足は拘束してね』
とインカムから鈴芽の声が聞こえた。
これじゃ本当にスパイ映画のワンシーンみたいだと二人は内心笑いながら伸びた二人を引きずって扉の向こう側へ入っていく。
幸いすぐ近くにトイレがあった。男子トイレと女子トイレ……。男子トイレは個室が少ない分すぐに見つかると思い、二人は女子トイレの個室へ運び個室へ詰め込んだ。それもちゃんと口にテープを貼り付けて、奪った装備の中にあった手錠で手足を拘束してだ。
「これでよしっと。じゃあ先を急ぎましょ」
「せやな。ここからどこに向かえばええんやろ。鈴芽ちゃん、ゆっきー? モニタリングできとるか?」
『うん。問題なくカメラは動いてるわよ。でもマップはやっぱダメね。二人がどこに居るかはわからない。ごめんけど、私たちからのサポートは期待しないで。その代わり、エレベーターからそっちに向かう連中の監視はしておくから』
「おっけー。ならそっちは任せるわな〜。っちゅうわけで。アリスこっからはウチらの勘だけが頼りやで」
「ええ。慎重に進むとしましょ」
そうして二人は奥の廊下、左右にいくつもあるスライド式の扉を進んでいった。
このどこかに死塚がいる。そう思うと緊張が高まる。
アルカトラズでは先生を含めた五人で相手しても圧倒されたのだ。学生の未熟者の自分達が今相対したらどうなるかは言わずもがな分かるだろう。
そんな中で、二人は扉の前で警備員らしく警戒するように周りを見ては中から聞こえる微かな声に耳を傾けた。
何分ここは静かだったので、中の声はよく聞こえる。
だが目的の奴のものではない。証拠としては見ておいた方がいいのだろうが、無駄に怪しまれる行動は避けるべきだろう。二人はそう考え、あくまで目的の存在の把握に努める事にした。
死塚の声は嫌と言うほど覚えている。聞き間違えるはずがない。ゆっくり、着実に一つ一つの扉の前で足を止めては中の声を確認する。
中には何も聞こえない部屋もあったり、他の警備員とすれ違う場面に遭遇した。
心臓が跳ね上がる思いだったが、堪え兵制を装ってやり過ごすことができた。
そう言うところは戦闘学生らしく学校で学んでいて良かったと思わされる。
そうして聞き耳を立て続けること数十分。
いよいよ最後の部屋の前にたった二人は耳を澄ませる。
『ふぅん。これがイヴリース実験の完成系ねぇ』
『はい。この強化プログラムを受ければ男だろうが子供だろうがたちまちウィザード適正に目覚めるのですよ。どうです素晴らしいでしょう?』
『いいえ全く。そんなものなくとも私はすでに魔力がありますし、欲しいとも思いませんよ』
『そうですか……つまらない方ですね』
居た。この声は間違いない死塚だ。
どうやら中で誰か男の人と話をしてるみたいだけど……
アカリはこの声が鈴芽達にも聞こえるようにカメラを扉の近くに持っていった。
そしてここで無闇に音を立てるわけにはいかない。
そう考え学校で学んだハンドサインを使って二人は会話をする事にした。
『ちゃんと録音できてる?』
『問題あらへん。バッチしや! ある程度録音したら撤収するで? ええな?』
『了解』
本当、戦闘学校様様である。
あの学校がなければこうしてハンドサインを使う機会もなかっただろう。正直二人はハンドサインなんか【エリミネーター】相手に使う場面があるのか理解に苦しんでいたのだが、こうして役に立った事で痛感する。
なるほど。ウィザードは対人の仕事も請け負うことがあるのだと。
そうして二人は必要な情報が漏れるまでジッと聞き耳をたてるのだった。
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