7話 暗雲立ち込める状況
とりあえず、お兄ちゃんをこのままにしておくのもどうかと思い、俺は茜に連絡を入れることにしたのだが、お兄ちゃんの症状はどうやら街中だけでなく全国的に見られていると返され、一度病院に搬送する運びとなった。
救急ではないから茜の車を待って向かう事にし、今はそんな自衛隊専用の病院に押しかけた形だ。
今、お兄ちゃんをMRI検査に入れたところだ。
検査が終わるまで俺は待合室で家で起こった事、お兄ちゃんが俺たちの正体と世界の真実に気づいたことを話した。
「あっちゃ〜。かなり気をつけてたつもりやったんやけど、あんたと再会して気が緩んでもたんやろな〜。すまんすまん」
「お前のせいだけじゃないって。どっかで俺達の話を聞かれてたんだろうし、俺の責任でもあるわけだからな」
「そうは言うけど、鈴芽ちゃんにはえらい迷惑をかけてもた事に変わりはないやろ。鈴芽ちゃんはなんて?」
「ちょいまち……」
俺は意識の中にいる鈴芽ちゃんと変わる事にした。
俺と鈴芽ちゃんはいつでも話せるし、こういう大事な話は直接向き合ってやったほうがいいでしょ?
鈴芽ちゃんもこれには納得してくれたようで、すんなりと意識が入れ替わっていく。
「茜さん……」
「その感じ。大樹と入れ替わったんやな」
「はい……。話は中で聞きました。あの! あまり考えすぎないでください。私もお兄ちゃんに隠して知らないうちに傷つけてたのも事実なんですから」
「って言ってもな〜。ウチらの気の緩みが事の発端なんやし……」
「なら今回はみんなの責任という事にしましょう。ね?」
「そう鈴芽ちゃんが言うなら……」
今はそれよりも聞きたいことが。電話で聞いたお兄ちゃんと同じ症状の人たちが溢れかえっているって言ってたけど。
「それより電話の話って――」
「あ〜。情緒がおかしくなったっちゅう人らのこっちゃな? せやねん。なんやみんな気が狂ったように暴れ出したり、デモを起こしたりし始めてな〜。さっきちょい調べたんやけど、どうやらファンタジアの奴らが全国で演説し始めたみたいなんやけど……」
そう言って茜さんがチラリと待合室から見える受付窓口の方に顔を向けると。
「俺はイカれてない! お前らの方がどうかしてるってなぜ気づかない! アビスを資源に無駄な戦いが終わらせることができるんだぞ!?」
さっきからチラホラとは聞こえてはいたけど、ファンタジアの熱狂的な支持者が怒鳴りあげてる。
いや、目の色がおかしい。あれはお兄ちゃんと同じような――
「あんな奴らがどこにでもおる状態なんや」
「それってつまり――」
「お察しの通り、奴らが動き出したっちゅうわけやな。あかん……動きがないからって甘く見積もりすぎたわ。奴らが堂々と洗脳演説を始めるなんてなぁ」
困ったように息を吐く茜さん。
それも仕方ないはず。だって下っ端党員にまでイヴリースの被験者にし始めるなんて思いもしなかっただろうしね。素材的にも金銭的にも。
お金は持ってたにしても、【エリミネーター】の素材の方はそう簡単に手に入らないはず。
実験を行うためには雑魚の素材よりも主レベルの強い個体のものじゃないと……。そうなると奴らもどこかのアビスの主を確保してて下っ端を強化できるほどの供給がある? それしか考えられないんだけど。
「まあ色々考えられることやけど、こないなってしまったらウチら早急に動く必要がある」
「ですね……」
これ以上後手に回ると手に負えないのは明白。
そうなると昨日沙織さんが言ってた話を詰めていく必要がある。
「幸いにもあんたの兄ちゃんは軽い症状やったみたいやし、目が覚め次第ここを出てみんなに召集をかけなあかんけど……」
「それよりもお兄ちゃんにどう説明するかって事ですよね」
「そういうこっちゃな……はぁ……」
話は結局振り出しに戻るってわけね。
「分かりました。ならお兄ちゃんが目覚めたら私から話します」
「ええんか? ウチも付き添った方が――」
「いいえ。そうなると今のお兄ちゃんの状態的に不安を煽るだけかもですし……。ここは私に任せてください。それに私には大樹っていう大人もついてる事ですしね」
『となるとどこからどうやって説明したもんやら。本の世界を柔らかく聞き入れてもらうために明るく説明? いやそれだとふざけすぎて逆効果かも――そうなると……』
うんうん。早速大樹の奴、頭を悩ませ始めたみたい。
こういう時に頼りになる大人は助かるのよね。
と言っても相当自信ないみたいだけど……。
「ほな。ならあんたらにここは任せるわ」
「茜さん?」
茜さんは席を立ち上がった。
「ウチは先に基地に戻って来栖ちゃん達と作戦を詰めとくわな。あんたらが帰ってきたら速攻で動き出せるようにアカリとアリスちゃんも呼び出しとくから、雪也の事は鈴芽ちゃんにお願いするわ。ごめんやけど、じゃあ――」
「分かりました。そっちはよろしくお願いします」
そう言って頷いた茜さんは病院を出て行った。
近くにある時計を見ると夜の21時を回ったところだ。
お兄ちゃんが搬送されてから2時間は経った辺りだけど……。
「九条さーん。九条雪也さんのご家族さーん」
『おっ。噂をすればなんとやら』
『ええ。お兄ちゃんが起きたみたいね』
いよいよお兄ちゃんに全てを話す時が来た。いや来てしまった。まだ心の準備は整っていないけど、話すしかない。
こんな荒唐無稽な話を信じてくれるか不安しかないけど……。
そうして私は受付に向かってからお兄ちゃんのいる病室へ向かうのだった。
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