第11話 混沌
学校が終わり、事務所でのダンスレッスンを終えた陣は、”本職”の仕事の為、夜の闇の中、都会のビルの屋上で一人化け物と戦っていた。
目の前にいるのは、犬のような形をした似て非なるモノ。
過去にいたとされるサーベルタイガーのように犬歯が長く、そして鋭い。
体の大きさは中型犬クラスではあるが筋肉の着き方が以上で毛並みの上からでもわかる。
目の前にいるのは悪魔と、妖魔が融合した新しい種類の化け物”陰魔”と呼ばれるもので、実は”黒の薔薇”が研究し、誕生させた化け物である。
研究施設から抜け出し、それを”黒の薔薇”配下の者達が追っていたのだが、全滅。
全員殺されてしまい、後始末の為、”力持ち”の”D”メンバーに依頼が飛んできたのである。
陣以外のほかの二人は、テレビの収録の為、この場にはいない。
少し離れたビルの屋上で、陣を見つめるように智子が見守っている。
彼女は遠目からでも、望遠鏡を覗いているように鮮明に戦いが見えており、陣に余裕がある事を確信し、まだ何もしていない。
陣は小石ほどのローズクォーツを握りこむと、何か呪文を唱え、握りこんだ拳に紫色をしたオーラが宿る。
それと同時に体に強化魔法を使っているのか、人間の目では視認できないほどの動きで”陰魔”と殴り合っていた。
彼が着ている服はボロボロになっているが、肉体的には傷一つついておらず、”陰魔”は殴り飛ばされるたびに体から負のオーラが抜けていく。
一発殴ると陣はズボンのポケットからローズクォーツを取り出し、握りこむ。
ローズクォーツは呪文が唱え終われば浄化する力を陣に吸い取られて砂となってそのまま捨てられる。
肉体強化の魔法は、ローズクォーツとは別の術式から発生させており、この呪文の媒介となるモノはどこに身に着けているのかわからない。
すでに戦い始めて30分が経過し、陣は汗一つかいていないのに対し、”陰魔”はすでにところどころ皮はめくれ、皮膚は焼け爛れたようになっており、対峙した当初の牙は二本とも折れていた。
「そろそろ、終わりだ。」
ローズクォーツを3個握りこむと、今までとは違う呪文を唱え、体全体がオーラで包み込まれると、”陰魔”でも捕らえきれない速度で顔面を殴りつけ、”陰魔”の頭が胴体から千切れ飛ぶ。
吹き荒れる血飛沫にかかることなく高速移動でよけると胸ポケットにしまってあったガラケーが鳴る。
ため息をつきながら携帯を手にし、受話器を取る。
「もしも・・」
「一ノ宮君!殺しちゃダメっていったじゃない!」
案の定、電話の主は智子だった。
陣が言い切る前に、怒った口調で剣幕をまくし立てられる。
「捕縛か、殺してもいいって話だったはずだが?」
「あれだけ弱らせていたんだから、第1指令の捕縛ができたはずでしょ!それと私は殺しちゃダメっていった」
「俺は面倒だから殺したんだ、何か言いたいことあるのか?」
「言いたいことだらけです!」
それから10分、智子に電話ごしに小言を言われながら合流し、さらに10分あれやこれやと言われ続けた。
(面倒だからこいつも殺してしまうか)
陣の心の声に続けるように、脳内で聞いたこともない、気持ち悪い声が響いてくる。
(ソウダ、ソレガイイ)
(オレタチデ、コロシテヤレバイイ)
(オンナノ、ニクヲヨコセ)
さっきの”陰魔”との戦いで”力”と使いすぎたらしい。
心に湧く”イラ着いた負の感情”が波となって心を蝕んでいく。
必死に抑えているが、陣の顔はポーカーフェイスで何事もないように振る舞う。
そんなことを気がつけず、智子は陣が聞いてないように思える。
「もうちゃんと聞いてる!」
怒った智子の顔を見て、陣は急に智子に顔を近づけるとそのまま唇を奪う。
「?!」
驚いた智子は一瞬何をされたかわからない顔をしていたが、さらに唇を押し付けてくる陣を跳ね飛ばし、唇を右手で押さえる。
「な、なにするのよ馬鹿!」
「むしょうにお前の唇を吸ってみたくなった」
「ば、馬鹿じゃないの!それ犯罪よ!」
「訴えたところで、俺に”法”は関係ない」
黒の薔薇に所属している陣たちにとって、国家の法は、”議員”に手を出さない限り執行されない。
パァン!と頬が叩かれる。
「わ、私じゃなかったら刺されて殺されるんだから!」
そのまま、智子がその場を走り去っていく。
叩かれた右頬はジンジンと痛んだが、さっきまでの負の感情が落ち着いた。
(しかし、唇を奪っただけで刺されるのか、確かにそんな世の中かもしれないな)
だが陣ほどのイケメンに迫られて、拒める女性がどれほどいているのかわからない。
しかも、国民的ダンスユニット”D”のメンバー。
陣自身はそんな考えに至らないほど、”D”に固執してはいない。
あくまで生きていく手段であって、人生をささげるほどではないと考えている。
(俺の人生とは何なのか・・・)
(ワレラヤミトオナジヨ)
いい加減、”こいつら”との縁を切りたいと思っている。
毎回、小さな負の感情でも陣の心に入り込んできて、負の感情を増幅してくる。
押さえ込むの為の、気晴らしをするために本屋など、適当に町を徘徊するのだが、すでに時は夜中の3時。
開いているショップは限られてくる。
適当にぶらつくかと、家路に向かって歩いていると、空から白い雪が降ってくるのを眺め、こんな雪の日の話を夢で見た事があると公園の横を通りすぎようとすると、公園中央に人が倒れていた。
公園をただ横切るだけだったはずなのに、”微量の魔力”を感知し、横を向くと人が倒れていたのである。
ポケットに手を突っ込み、ローズクォーツを握りこむ。
警戒しつつ倒れている人に近づき、その顔を見ると、見覚えのある顔だった。
直接見て覚えていたわけではない。
夢で見たことがある。
(こいつは確か・・)
倒れていた人がかすかに動き、陣を見ると、かすれた声で見知った顔を見たように声を出す。
「ジ、ジンにゃ?」
その顔は夢で出てきた猫娘の女の子。
「ののんか?」
夢で名前を知っていたが、彼女の名前を呼んだ時、自分が思っているより滑らかだった。
「ジンにゃ!」
涙を流しながら抱きついてくるののんと口にした女の子を抱きとめると、今までに味わったことのない懐かしさ、いとおしさなどが湧いてきて、陣もしっかりと抱きとめていた。




