第12話 猫ふたたび
抱きついてきたののんは、安心したのかそのまま気を失う。
仕方なく、陣はののんを背負い、家に帰るとベットにののんを寝かせ、死んだように寝るののんに人生で初他人に気を使いながら、彼女の様子を見ていた。
ののんは普通の人間の姿をしており、”魔力”が足りないのか猫娘の姿ではない。 夢で彼女のことは知っているが、それ以上のことは何も知らない。
(コロセ。オカセ、クッテシマエ)
(ソノオンナハキケンダ。コロセ)
負の感情が湧いたわけでもない。
むしろ、ののんが”ここに”いることに安心感を覚える。
しかし、”あいつらの声”が聞こえる。
なぜだ?なぜこんなにののんに”こいつら”は不安をかられているんだ?
陣は自問自答をするがその答えは返ってこない。
ギュ~~~~~。
目を覚まさないののんから、おなかの音が鳴る。
陣は立ち上がると、弱っていそうなののんに、お粥を作って用意する。
人生初の料理。
味見はしたが、そんなに悪くない。
1Kの8畳ほどの部屋の中央に、置いてあるテーブルにお粥を運ぶと、そのにおいに勢いよくののんが飛び起き、目を輝かせながら、陣を見て食べていいのかと目で訴えてくる。
「食べていいぞ」
「いただきますにゃ~」
一口分、レンゲで掬い口に運んだののんはあちーーーーー!と大声で反応する。
それを見て、くくく、腹を抱えて笑う陣を気にした様子無く次の粥にトライし、ふーふーと冷ましながら口に入れていく。
(イマスグソイツヲコロセ)
(コロセ、コロセ)
頭に鳴り響く、”あいつらの声”に耳を傾けることなく、ただうれしそうに自分の作った食事を口に入れていくののんを飽きずに見続ける陣。
「なんにゃ?惚れたかにゃ?」
じっと見続ける陣を変に思い声をかけるののんの顔に右手の人差し指を頬に当て、感触を確かめるようにぷにぷにと押す。
「にゃにするにゃ~?!」
「俺はお前が知っている”ジン”ではない」
「?」
一瞬何を言っているのかわからないようなしぐさをしたののんだが、陣を良く見て疑問を覚える。
なぜジンは変身した姿のままなのか?
なぜこの部屋はこんなにも生活観がないのか?
なぜこんなにも”ジンの物質としての情報量”が少ないのか?
エム、ダクト、あやはどうなったのか?
「あなたは”ジン”ではないのですか?」
いつもの猫娘口調ではなく丁寧に話しを聞いてくるののんの質問に、陣も答えをもっているわけではなかった。
「俺は”一之宮 陣”それ以上でもそれ以下の存在でもないはずだ」
「私の知っている”ジン”と同じ名前ですが、名前の漢字が少し違うようですね」 「お前は俺が知っているののんか?」
「どういうことです?」
陣は自分が見ていた夢の話をした。
「あなたがどうして、その夢を見たのかはわかりませんが、その夢に出てくる”ののん”は私です」
「そうか」
「私からも質問していいですか?」
陣は何も言わず首を縦に振る。
「私たちは”黒の薔薇”という組織に襲われて、ばらばらになってしまいました。あなたは”黒の薔薇”の人なのでしょうか?」
「そうだが、俺はお前の敵ではない」
陣が言っていることは信用できると感じた。
彼が組織の人間で敵なら、自分はこの部屋にいるはずがない。
しかし、自分がかくまわれている現状がいまいちつかめず質問に困る。
「ののん、襲われた時の話をしてくれないか?まだそこまで”夢”を見ていない」 「そうですね。”ジン”の話をしましょうか」
ののんは、陣が見た夢の続きを話始める。
結局あの後5人で暮らすことになった”ジンたち”は、ジンの事務所オーディションなどイベントがあった中でも幸せに暮らしていた。
しかし”ジン”が中学2年生の冬に”黒の薔薇”を名乗る組織に、”ジン”は協力を求められる。
雰囲気が怪しかったこともあり、”ジン”は協力を断ると今度は実力行使で、”ジン”の周りの人たちを傷つけ、ののんは、”ジン”の助けもあってなんとか逃げ出す。
”ジン”に関わった人たちの消息は不明。
一般人であったあやに関しても、同じで消息は不明。
一緒に住んでいたマンションはあるのだが、誰も住んでいる様子はない。
”黒の薔薇”を調べようとするが、逆に組織の人間に追われて必死に逃げているうちに、時が立ち、気がつけば公園で倒れていた。
初めは特に考えも無く聞いていた陣だったが、いつの間にか、”これから自分はどうするべき”なのかを考えていた。
このままののんを、”黒の薔薇”に引き渡すことも考えたが、すぐにその考えは消えた。
では逆に組織と対峙して何かアクションを起こすべきなのか?
それにしては情報が少なすぎる。
組織に所属するとはいえ、あまりにも興味がなかった為、陣は組織内部の事情を知らない。
(まずはそこからか)
自分の考えをまとめると、動く為の情報収集が必要だと感じた陣はののんを見て、とりあえずここにいろと言う。
「俺は組織の人間だが、ののんを引き渡すようなことはしない。安心しろとはいえないがここにいろ。守ってやる」
「”ジン”だけど”ジン”じゃないだね」
「俺をあいつと一緒に考えるな。俺は俺だ」
「そうだね。陣は陣だもんね」
ののんの言葉になぜか涙が出てきた。
初めて世界から肯定された気分になった。
今までずっと不安で仕方なかった。
どんなにメディアで活躍して認知度が上がっても、満たされない何か。
誰一人肯定してくれていないのではないか?陣という存在を。
と考えると怖くて仕方なかった。
強烈な自己否定を今まで繰り返してきた。
この世界の住人ではない自分は死ぬべきだと。
誰からも愛されない存在。
だから、知らずのうちに智子に対して異常な執着心があったのではないだろうか? 何をしても怒らない自分を愛してくれる存在を見つけるために。
しかし、目の前の、ののんは自分をしっかり見て存在を感じてくれている。
芸能人”ジェイ”ではない本当の”陣”を。
気がつけばののんを抱きしめていた。
びっくりした顔の、ののんだったが、両手を陣の背中に伸ばし、抱きしめ返す。
何かされるかとドキドキしたののんだったが、急に陣が重くなり”重い!”と思いながら陣の顔を見ると、疲れたように眠る陣がいた。




