第10話 夢
真っ黒い世界。
よく見れば薄っすら光が差し込み、周りを確認する事ができる。
遮光カーテンのおかげでその暗闇を演出できており、それ以外に光を取り入れる窓などもなく、一人の男性がベットに寝ていた。
部屋の中は、ほぼモノがなく、あるのは彼が寝ているベット、冷蔵庫、テーブルだけで、クローゼットがこの部屋のどこかにあるのだろうか?衣服に関するものは見当たらない。
トイレ、台所などは完備されており、生活をするだけなら問題はなさそうだが、娯楽に繋がるようなモノは部屋の中には確認できていない。
旧タイプの携帯電話通称ガラケーが頭の上に置かれており、朝の7時になった途端アラームが鳴る。
携帯のアラームを消して、男性が体を起こしそのまま台所にいくと顔を洗って、身なりを整えると冷蔵庫から、ドリンクビンを取り出し、蓋を開けると一気に飲み干す。
暗闇の中、的確に場所を覚えているのか、なんの迷いもなく移動し、部屋の壁の扉をあけると服が並んでおり、学生服に手を伸ばす。
学生服を着ると、玄関に置かれたカバンを手に家を出る。
学生であるなら当たり前の行動を取っているはずなのだが、彼にとってはこの行為に違和感を感じる。
何かが足りない。
何かが違う。
この世界全部に違和感を感じる。
いや違う。
自分という存在”一之宮 陣”が間違って存在しているように思える。
陣は1年ぐらい前の記憶ははっきりしているのだが、それ以前の記憶が薄っすらとしており、覚えていない部分も多い。
歳は16歳で、市内にある私立の高校に通っている。
有名な芸能事務所に所属し、”D”というダンスユニットのリーダーをやっている。
裏では、悪魔を処理する国家組織の一角”黒の薔薇”に所属し、悪魔を処理する為の研究、実験、結果を確認する為のデータ収集を行っている。
”黒の薔薇”に所属する研究所長の笹川という男に3回ほど体をいじくられて”調整”を受けている。
調整を施した本人はその”調整”すら記憶から消したと思っているようだが、陣ははっきりと覚えていた。
かなり胸糞の悪い映像が記憶として残っているせいで、あまり思い出したくない。 この話を笹川にすれば、さらに体をいじくられてしまうし、面倒なことになりそうだと、”調整”されたように振る舞い、今は笹川の指示で裏の仕事を行っている。
これまで数多くの悪魔と戦ってきた。
強い悪魔を捕縛するたびに”調整”を行い、そのたびに精神的に強いストレスを感じ、負の感情の爆発が時々発作的に起こるようになった。
陣と、ケイの調整方法は違うようで、陣は捕まえた悪魔の魔力を”繋げて”増幅していく方法を取っているようだった。
ケイがどうやって”調整”されているかはわからない。
陣に施されている詳しい”調整”については笹川から聞けるはずもなく、”調整”されている記憶から自分で推測した。
よく”調整”に耐えれていると陣は思っていた。
複数の悪魔から魔力を”繋げられる”事に驚きだが、その器になれる事に驚いている。
悪魔の魔力を”繋げた”ことにより、奴らが行ってきた記憶の一部と負の感情が陣の夢、記憶とつながり、普通の人間ならとっくに精神に異常をきたして暴走しているか、自爆している。
それぐらい強いストレスを感じているはずなのに、適度な運動と、少しの負のオーラの発散だけで足りている。
しかし、最近少しずつだが、コントロールが難しいと思う事がある。
(悪魔と自分、どちらが化け物かわからないな。)
心の中で、自虐をつぶやき陣は駅で電車を待っている。
その様子を女子学生、OLなどの女性から熱い視線を送られているが、特に気にした様子もなく、思考の奥に入り込んで周りの雑踏などは聞こえてこない。
本人は気にしていないようだが、ダンスユニット”D”はこの国ではかなり有名な存在で、変装もせず外を気軽に出歩けるような存在ではないのだが、陣がかもし出す、負のオーラがファン達を近づけさせない。
しかし、そんな孤高の存在が逆に女性ファンから受けており、”ミステリアスな陣”を演出して、人気は高い。
陣の思考は、半年前から見るようになった悪魔とは別の奇妙な夢を考えるだけでいっぱいだった。
自分よりも少し年下の少年。
悪魔と契約して、身体を変化させる能力に目覚め、その変身した姿は、今の自分と瓜二つ。
しかし、陣はこいつは”俺”じゃないとはっきりわかっていた。
彼のことを考えると、イライラが募る。
もし、彼と会ったらどうしたいのか?
殺したいのか?
いや、違う。
俺は・・・。
答えが出そうになったときに電車がやってきて、通勤ラッシュにもまれながら、陣は必死に周りの人間を殴り飛ばしたい感情を押さえつける。
駅からおりて、10分歩くと後ろから声をかけられる。
「ジェイ」
振り向かなくても声だけで誰かわかるが、反射的に振り向くとそこにはケイが手を振りながら走って向かってくる。
「おはよう。この間はすまない。少し不機嫌な気分だった」
「気にしてねーよ。それより、今晩さ遊びにいかね?」
「今日は事務所で練習があるだろう?」
「さぼり決めるに決まってるジャン」
「それはだめだ。社長に迷惑をかけるわけにはいかない」
「まじめだね~」
軽く笑みを浮かべて、学校に入るときゃ~と黄色い声援を受ける。
それに元気よく(ケイはそういう元気キャラで売っている)答えながら、こいつ心の中では罵詈雑言を吐いているんだろうなと思いながら下駄箱までいく。
あけると手紙がばらばらばらと落ちて、はぁ~ため息を吐きながら落ちた手紙と中に残っている手紙をすべて拾いあげたところで女の子から声をかけられる。
「一ノ宮君」
「智子か」
「名前で呼ばないでよ。みんなが勘違いしちゃうじゃない」
「勘違い?」
「・・・まぁいいけど。それより今日の午後からの予定」
目の前でスケジュール帳を取り出して読み上げているのは陣専属のマネージャーで同じクラスの筒川 智子。
容姿は身長はそこまで高くもなくセミロングの黒髪で、胸はかなり控えめ、顔は陣の好みの範囲には入るが、美人とかではない。
少し釣り目で、出来る女言い換えれば少しキツイ女に周りの生徒からは思われている。
しかし陣から見れば、声色は確かに厳しい部分があるが、ものすごい気を使ってくれる女性だと知っている。
その間違いを正す為に言いふらしていくほど、陣は社交的ではないし、友人関係も多くない。
「今、失礼なことを考えているんでしょ」
「ほう、よくわかったな」
「マジ最低だよね。一ノ宮君。私以外の女の子にはそれなりに対応するのに」
「なんだ焼きもちを焼いているのか?」
「な、な、な、何言ってるのよ!」
「声がでけーよ」
俺と智子が軽く会話をしているとケイが割り込んでくる。
そこにさらに低い声男の声でケイに話しかけてくる。
「ケイ」
智子の横に並ぶ男子生徒がいた。
筒川 功治。
智子の兄で、俺達の学年より一つ上。
智子と同じ黒髪で几帳面に整えられており、身長は175cmほど体格はかなり筋肉質なほうだが、顔だけ見ればインテリ寄りなイメージが強い。
雑なケイに、根気欲着いているケイの専属マネージャーである。
「げ、出た」
「昨日はなぜ、練習をサボったのか詳しく聞くからちょっとこい」
「ぎゃーーー。助けてくれジェーーイ」
功治にそのまま襟首をつかまれ、ケイはひきづられるように消えていく。
筒川兄妹は”黒の薔薇”にも所属しており、マネージャーでありながら、陣達”D”の”監視者”でもある。
”監視者”というのは陣がそう感じているだけで、面と向かって言われたわけじゃない。
”調整者”である陣に常に”視線”を送ってくる存在で、いかなる時も”視線”を送ってくる。
何度か殺してやろうかと思ったが、彼女がいれば楽な部分もある。
ギブ&テイクの天秤がまだ、負に傾いていないので生かしているが、陣の邪魔になるならその時はこの手で殺してやろうと思っている。
(違うこれは俺の感情ではない。俺は智子を殺したいなんて思っていない)
(イヤ、ソレハチガウ、コロシタイト、カンガエテイル)
(チガミタイ、コロソウ)
頭の中に、自分じゃない声が響き、急に胸が苦しくなり、その場に手を着く。
「一ノ宮君!」
智子が駆け寄って心配して陣の肩に手をかける。
(シンパイシテイルフリダケダ。ソイツハテキダ)
(ダカラ、コロソウ、コロソウ)
体からあふれ出す負のオーラが湧き上がりそうになるが、心臓を強く叩くと気を取り直した。
「もう大丈夫だ」
「顔真っ青だよ」
「ありがとう。大丈夫だ。心配をかけた」
「・・・」
陣は智子が急に抱きしめてくると驚いたが、気持ちが落ち着き、先ほどまでの負の感情が消えていくのを感じた。
「智子」
「なに?」
「みんな見てるぞ」
「あ!」
登校中の女子がヒソヒソと話を立てて、男子生徒からは嫉妬の目をむけられ、これだから芸能人はとか言われている。
この場で携帯で写メを取られないのは、陣達を撮ると退学になるからだ。
以前馬鹿な連中が、写メを撮って退学になった事がある。
事務所からの圧力というより”黒の薔薇”からの圧力が大きかったんだろう。
「もう!一ノ宮君が悪いんだからね」
「そういうことにしておいてやるから離れろ」
智子の体が離れると、なぜかすごく寂しい気分になった。




