第9話 共同生活
食卓には4人の女の子達が座って夕飯を食べている。
学校から帰って、ご飯を食べ、エムがまたおなかをすかせたので2度目の夕食。
すでにカレーはなく、ミートボールが入っている大盛ミートパスタを出すと、仁以外、全員がもくもくと食べる。
そんな様子を、仁はいつ噴火してもおかしくない火山だと思う。
魔王の娘 エム。
猫娘 ののん。
人造人間 ダクト。
妄想少女 あや。
一番噴火しやすそうなのは、あやだった。
エムは、自分が仁のそばにいる事は”当たり前”であり、仁の周りに女の子がまとわりついたとしても、表面上は気にした様子もなく、立場の優位性を疑うことはない。
ののんは、ご主人の交友関係に口を挟むなんて恐れ多いと思っており、飼ってもらっているのだから、ポジションは2番手3番手だろうがそこに”自分の居場所”があれば満足しているが、ただちょっとでもかまってほしいかな~とも思っている。
ダクトとあやに関しては少しかぶっている。
ダクトからすれば、いままでは、人造人間の自分は恋や愛を知らなくてもいいと思っていた。
今まで自分の体を見て欲求を膨れ上がらせた男性から何度も声をかけられていることあり、色恋は面倒だと感じていた。
しかし、仁と出会ってまず、何より、仁の顔が”表も裏”もダクトの中で超タイプであり、正直2度おいしい状態である。
初めは、仁を篭絡させる事がそれほど難しい事だとは思っていなかった。
ダクトの体に興味があるそぶりは見せるが、それだけで襲ってくる事がない仁に対して、すごく新鮮味を感じるし、勘違いなのだがそれが人造人間の自分でも大切にされていると思う部分になり、もうメロメロになっている。
何より彼の中にある、冷たさと、暖かさ、相反するこの2つの感情がうまく重なりあっている瞳に惹かれてしまっていた。
攻めるタイプのダクトに取って、ここまで知り合って(ご飯まで一緒に食べる中)おきながら、そこから進展がない事はありえない話であり、自慢のボディを生かしてどうやって攻めるかを模索していた。
あやもダクトと同じで、攻めるタイプである。
仁が魔法使いで、危険のある世界にいる事を知っている。
実際魔法を使った戦いを見ていないので、どこまで危ない世界かまだはっきりと理解していないが、それでも一緒にいたいし、魔法の世界はスリルがある、ラブロマンスもそこに含まれていると思うと、彼女からすれば命の危険より勝る、まさによだれ物なのである。
今まで読んできた小説の主人公の中で、特にお気に入りの”ひろと”が小説の中から飛び出してきたイメージぴったりの仁を手放すつもりなど微塵もない。
しかし、あやは独占欲が強く仁の中で1番でありたい、むしろ他の女の子はいらない。
寄り添って自分だけを見てほしいと強く願う部分があり、どうにかこの状況を”破壊”する方向で考えている。
まずは、共同生活を送っているエムと、ののんの立場をどうにか切り崩せないか? エムと仁の関係が一番厄介で、この二人こそ”運命の輪”という言葉が相応しいのではと思ってしまう。
それは絶対にありえないと心の中でつぶやくが、現状は”ほころび”が起きるのを待つしかない状況だとも理解している。
あやにとって、ののんは、自分が仁の中で一番になった後で、それとなく話しをつければののんはこの場から去っていくだろうと予測している。
ダクトに関しては、体だけの脳筋扱いで、やはりそう考えると仁と結ばれるのは自分だけだと考えている。
”破壊”をもたらすにも、今大きな声を上げて、3人を敵に回しても仁の中で印象が悪くなるのではないか?そんなことを考えると今はまだその時ではない。
あやの思考が一旦収まったところで、全員の食事も終わりを迎える。
もんもんとした現状で21時を迎える。
「そろそろ夜も遅いし、帰らなくても大丈夫ですか?」
あやがダクトを見て、そう切り出す。
この言葉を仁が言うのならまだわかるが、いかにもこの後に展開がありそうな空気にダクトも黙ってはいない。
「妄想娘こそ、家に帰らなくてもいいのか?」
「さっき友達の家に勉強会で泊まるっていったから大丈夫ですぅ~~。」
「その友達って誰だ?」
あやの顔が赤くなり、ちょっとした目線を仁に送る。
真冬なはずなのに気温が1℃ほど上昇した気がした仁は席を立ち俺お茶を入れてくると台所に逃げる。
「貴様のその計画性の無さ、ありえないな。仁は”嫌”がっているではないか?」 「あれは照れ隠しなんですぅ~。」
「ふ、どうみてもそうには見えなかったがな。」
ダクトとあやの会話を台所で聞きながら、ため息をつく。
まだ軽いジャブの応酬だが、巻き込まれるのはかなり精神的にきつい。
あの妄想娘のあやに、どんな言葉をかけても湾曲された解釈で話が届くと思うと頭が痛くなる。
ダクトは何とか説得すれば聞き入れてもらえそうだが、その説得がうまく思いつかない。
そこまで考えて、ある事を思い出す。
〔そういえば、事務所に行く話があったな。あれをうまく利用すれば。〕
お茶を持って食卓に戻ると、あやとダクトに仁は声をかける。
「俺さ、ちょっと用事があって、できれば今日は2人に帰ってほしいんだけど。」
エムとののんはすでにこの食卓にはおらず、エムはテレビの前でお笑い番組を見ながら大声で笑っている。
ののんは自分のベットの上で体を丸めながらよだれをたらしてすでに夢の中だった。
自由な住民の様子を見て、仁の言葉を切り裂く。
「用事ってなに?」
あやから刃物でも突きつけられたような口調で説明を求められて、額に汗をかきながら台所で考えていた答えをそのまま伝える。
「え~と、俺実はダンスを個人的にやっていて、それが事務所の関係者の人の目にとまって、近いうちにいかないと。それで練習もあるから、俺がいない間に家にあや先輩とダクトを置いておくのはちょっと。」
久々の長いセリフを湿らせたお茶のおかげで言い終えると、またお茶を飲む。
緊張した口調にはなっていなかったが、真剣な瞳で話を聞いてくるあやのプレッシャーに押されて、のどがからからになっていた。
そんな仁の気持ちとは裏腹に、あやが疑惑のまなざしを向けてくる。
「本当に?それを証明できるものってある?」
ポケットから財布を取り出し、中に入れていた豪堂寺の名刺を見せる。
「これってあの有名事務所の?!」
「妄想娘知っているのですか?」
「知らないんですか?!超有名プロダクションで、今までダンスユニットを多く排出して、今でも芸能界で活躍しているユニットばっかりなんですよ?!」
「世間に疎いもので。あまり芸能界に興味がないんです。私が今、興味があるのは・・・。」
ダクトに熱い視線を向けられて、顔を背ける仁。
もちろんそんなやり取りが気に入らないあやは、咳払いをして話を元に戻す。
「しかも、代表取締役の豪堂寺さんっていったら昔敏腕プロデューサーで、彼が手がけたユニットは必ず売れているすごい人です。けど今までスカウトしたって話は聞いた事ないですね。いつも事務所内にいる新人を使って上に駆け上がっていくサクセスストーリーが有名ですけどね。」
「じゃあ、だまされている可能性があるということか?」
ダクトの目が光る。
私の仁をだますなんて、ありえないということらしい。
「けどこればっかりは行ってみないと分らないですね。いついく予定?」
「今週末だけど。」
「じゃあついていくね。」
「え?」
「もちろん私もついていってあげましょう。」
「ええ??」
あれおかしい・・・?。
忙しくなるから、離れて下さい。というはずだったのだが、気がつけばさらに距離を縮めてくる。
しかも、この後に断りの話にもっていけば、必ずあやの湾曲理解で話を捻じ曲げられる。
どうすればいい?
仁は疲れていた。
今日一日で、かなりやつれた気分になっており、ここで言い争いをしてさらに精神をそぎ落とす可能性が高い、二人を帰らせるだけの勢いもなかった。
「わかりました。そのかわり今日は帰ってくれませんか?」
しかし疲れた思考で、口から出たナイスなセリフに俺ってすげーと思う。
「帰らない。だってもう親には泊まるっていったし。」
「妄想娘が帰らないなら、私も帰る必要はないな。泊まっていきます。それに私には魔王の娘を監視するという大義名分もありますし。うんうん。」
ああ、やっぱりと思う。
実は今日頼みの綱のあざみさんは旅行で帰ってこない。
今週末までには帰る予定になっており、それまでこの二人は居座るような気がする。
「お二人に用意する布団がないし。」
「じゃあ、仁君はあやと~一緒に暖めながら寝ればいいんじゃないかな?」
「妄想娘は黙っていろ。その役目はこのボディなら暖かいぞ。私がやってあげますが?」
もうどんな言い訳をしても、お泊り確定ですか・・・。と心の中でつぶやき仁はあきらめモードの中、風呂に入ってくると話をするとついて来そうにになる二人がお互いをけん制しあうことで、お背中流しますねという定番はなかった。
お風呂から上がると、エムがテレビの前でぴくぴくしており、おなかがすいたと主張してくる。
いつもなら、わかったと台所に向かう足は重くないのだが、寝てるののんはおいておいて後の2人もお夜食お願いしますと、催促してくるので、疲れて足が重くなるのを感じる。
それからあざみが帰ってくるまで、二人は泊まり続け、あやは必ず1日は一旦家に帰って泊まってから、学校に仁と腕を組みながら登校。
帰りも同じ状況で校門で待っているダクトにはさまれ、帰宅。
エムとののんは特に2人を気にした様子もなく、狭い寝室に4人が寝て、仁はソファで寝る。
2日目からすでに住民と同じくくつろぐ2人に、ただため息をつきなすがままになっている自分にどこで間違えたのかと何度も疑問を口にする。
あざみが帰ってきた日は少しもめた。
さすがに女子3人と1匹が同居し、その中に男子1人ではまずいと、話をしたのだが、逆に3人が3人見張っているから大丈夫とあやの説得にしぶしぶ顔を引き攣らせながら承諾する。
あやの親には連絡すると話があったのだが、そこはうまく切り抜けたようで、ダクトにいたっては何か手紙をあざみに渡してそれっきり特に話はなかった。
1匹に関しては3人もの女子を部屋に連れ込んでいる事で忘れられており、話すら出ていない。
事務所の挨拶が明日に決まり、ダクトとあやもついてくるとあざみに話をした仁は大所帯になったことを顔を見合わせて、苦笑していた。




