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クロスロード  作者: 八尺瓊
第2章 シロヤギさんとクロヤギさんの復讐 上
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第8話 修羅場x3

 仁が気がついた時には、6時間目の授業が終わり、HRが終わってみんな帰りの支度をしていた。

 いつ自分の席に座り、どこを見て、何を聞いたか覚えていない。

 記憶にもない。

 こんな事は初めてだった。

 すべて、自動で作業されており、ノートを見れば自分の執筆でしっかり書いてある。

 

 (そうか、夢だったんだ!そう!そうに違いない!よし帰ろう!!)


 すごい勢いで帰り支度をすませ、立ち上がる。

 教室の扉を開けると、ちょっとはにかみながら、うれしそうにこっちに手を振る櫛田先輩がいた。

 猛烈に逃げたい。

 しかし、ここで逃げ出してどうにかなる問題ではない。

 意を決して、仁は戦う男の顔になる。


 「あや先輩」

 「ひろ・・・。仁君」


 おお、俺の名前覚えてくれたのかと、なぜか一瞬うれしくなった。

 周りからざわめきの声が聞こえる。

 上級生が、わざわざ教室の前で待っていたのだ。

 何事かと、しかもクラスで悪目立ちしている仁を待っている上級生にざわめきが大きくなっていく。


 (やばいな。ここは目立つ。)


 「先輩とりあえず・・・」

 「あや」

 「あや先輩。とりあえず移動しながら話をしましょう」

 「うん」


 すごいうれしそうに返事をして、仁の腕に自分の腕を絡ませてくる。

 ギョッとする顔をして仁は腕をはずそうとするが、やはり意外に力が強く外れないのでそのまま歩き始める。

 はたから見れば、恋人そのものである。

 噂が立つのは、やむをえないと急ぎ足になるが、櫛田先輩が嫌がるのでなかなか足を進めることができない。

 まるで見せ付けるかのように廊下を歩き、その姿に立ち止まる生徒にびっくりされた顔を向けられながら、玄関にある下駄箱の広場まで来る。

 どうしても、腕を放さないといけない場面になり、櫛田先輩の寂しそうな顔を見せられて、はぁとため息をつくと、まず自分の靴を履き替え、その後櫛田先輩の靴の履き替えを見ながらまたため息をつく。

 離れたがらない櫛田先輩をどうやってはがそうかと考えて歩く。

 校門まで歩くと急に声をかけられる。


 「その女なの?怖い人って」


 声をかけられたことが自分のことではないと思ったが、”怖い人”という単語で、声のするほうへ顔を向ける。

 あ、忘れてた。という顔になり、仁の背中は汗でびしょぬれになった。

 ダクトが約束どおり、待っていたのである。

 もう勘弁してくれーーーと走り去りたかったが後々の事が思い浮かび、どうにもできない。


 「あなたは?」


 櫛田先輩がダクトを見て、質問をする。

 抜群のプロポーションを誇るダクトを見て何も思わなかったわけではない。

 しかし、今自分のほうが”恋のパラメータ値”は優勢だと感じているし、ここで引き下がるわけにはいかない。

 立場をはっきりさせてさらに、優位に立たなければ。

 そう櫛田先輩の顔に書いてあった。

 彼女もまた、中学3年生自分を自制するにはまだまだ経験が足らなかった。

 しかも、相手は魅力的な女性のフェロモンを出している。

 攻めなければやられてしまうかもしれない。


 「私の名前は、エル=ダクト。彼の友人だ。で君は?人に名前を尋ねるときはまず自分からではなかったのかな?」


 雰囲気が大人の女性で、言われている内容が正論。

 悔しそうな顔をして、大きな声で櫛田先輩は名乗りを上げる。


 「私は櫛田 あやっていいます。今日、仁君の恋人になります!!」


 確定事項ではないし、そうはならないと仁は叫びたかったが、自分の腕にこめられた力強さが櫛田先輩の緊張を表していてなぜか否定できなかった。

 その仁の様子を見ていたダクトがすごいイラっとした顔をする。


 「あやと呼ぶが、とりあえず仁から離れてくれないか?」

 「なんでです?」

 「私がモヤモヤするからだ」


 鋭い殺気のようなものが櫛田先輩を突付くが、それでも離れようとしない。


 「いやです。仁君も私みたいな人がいいって言ってます」

 (いった覚えないし。)


 仁は心の中で突っ込みを入れた。


 「わかった・・・。仁、いまから会いに行くお前の”怖い人”にこの話をしてもいいのか?」


 背中にかいた汗が急に冷えるのを感じ、櫛田先輩の腕から離れる。

 それを見て、櫛田先輩の目が大きく見開かれる。

 ”怖い人”=恋人、彼女がいてると思ってくれているらしい。


 「仁君。彼女いたの・・?」


 櫛田先輩の声が震えていた。

 ああ、ここでいるって言えば彼女とはお別れだなっと感じ、”うそ”をつくことを決意する。


 「あや先輩。すみません。黙っていて」

 「いるの?いないの?私はそれを聞いているの」

 「いてます!」


 もう勢いに任せた言い方だった。


 「ふ~ん。いないんだ」


 簡単に仁の”うそ”を見破り、櫛田先輩に余裕がうまれる。

 自分がいてるって言っているのになぜ、こうも簡単に信じてくれないのか。


 「だってあなた”うそ”がへただもん」


 何がそんなにうれしいのか、すごい笑顔を向けられ仁も彼女の笑みをわかりかねる。

 櫛田先輩は、単純に仁に彼女がいない事がうれしいだけだった。

 ダクトはそんな二人を見ているとイライラが募る。

 つい声が出てしまった。


 「仁には”彼女”がいる。これから会いに行くんだ」


 ダクトの言葉に、櫛田先輩が反論する。


 「どうしてそんな見え透いた”うそ”をつくのですか?」

 「ではお前もついてくればいい。自分の目でみて確かめるんだな」

 「わかりました。ついていきます」


 勝手に二人で話しが進み気がついたら、自分の家に行くことになっていた。


 「じゃあ、行きますか」


 櫛田先輩がまた仁の右腕に自分の腕を絡ませ、歩きだそうとするが、ダクトが呼び止める。


 「ちょっと待て。仁に”彼女”がいてると言っているだろう」

 「それが何か?」

 「その腕を絡めているのをやめろ」

 「いやです」


 ダクトはむきーと声を出しそうになるが、歯を食いしばり我慢する。

 そしてすたすたと仁の左側に着くと、自分も仁の左腕に絡む。

 それを見て、じーとにらみつけてくる櫛田先輩をよそにダクトが言う。


 「なにか?」

 「いえ、別に」


 櫛田先輩も、もう何も言わず腕にもっと自分を密着させる。

 こうして左右から、女の子の密着攻めにあい、身動きが取れない仁はそのまま、されるがままに歩きだす。

 それを見ていた生徒達からはざわめきが濃くなったのは言うまでもない。

 仁はダクトに気になっている事を聞いた。

 

 「そういえば、ダクトさん」

 「ん?なに?仁」

 「よく”俺”だと分りましたね?」

 

 この少年の姿の仁とは初対面なはずなのだが、ダクトがすぐに声をかけてきたせいであまりに自然と流れでいままで聞きそびれてしまった。

 

 「そんな話ですか。好きになった男ぐらいすぐに判ると思いますよ。恋をするということは姿形でだけで判断するものではないよ思わない?あえて言うなら”魂”で判ったといっておくわ」

 「魂?」

 「オーラみたいなもので、私とあなたのオーラの波長はすごく合っていると思うの」

 「そんなのは迷信です」

 

 櫛田先輩とダクトがにらみ合いを始め、二人をどうにか抑えながら、自宅マンションまでたどり着く。

 自室の部屋の鍵をカバンから出すために、二人を腕からはずす。

 いがみ合わないか心配だったが、甘い香りが左右から消え、ようやく一息つく。

 ガチャっと扉を開けると、玄関で倒れている女の子二人がいた。

 左右の二人からきゃっと悲鳴があがる。

 仁は特に気にした様子もなく、倒れている二人に近づき声をかける。


 「大丈夫か?」

 「「お、おなかすいた」」

 「わかった。今作る」


 二人からかすれた声が重なって聞こえ、ちょっと噴出しそうになるが、そのまま家に上がり、ソファにカバンを置くと、まず倒れている二人を一人ずつソファに座らせ、玄関で放心状態の二人も家に上げる。

 放心状態の二人の前に麦茶を用意すると、そのまま台所に移動して、料理を始める。

 カレーを作り、へばっている二人の前に出す。

 カレーは一瞬で二人の胃袋に納まり、おかわりを催促される。

 待っていろと、台所へ向かおうとするが、別のところから、ぐ~~~と音が鳴る。 顔を赤らめる櫛田先輩に「いりますか?」と聞くと恥ずかしそうに頭を縦に振る。 それを横目で見ながら、ダクトは得意そうな顔をするが、彼女からもぐ~~と音が聞こえ、わかったと仁は台所へ向かう。

 その仁の背中をダクトは顔を下に向けて目だけで追う。

 4人全員にカレーが配られ、いっせいに食べ始める。

 何度もおかわりの為、台所に行ったりきたりし、仁がようやく落ち着けたときには、カレーと、電子ジャーの中が空っぽになったときだった。

 一息つくため、麦茶を全員で飲み、少し和みモードに入ったときエムが、話を切り出す。


 「さて、仁。このおなご達はいったい?」


 急に話を振られ麦茶を飲む直前だったので、思わず吹いてしまう。

 目の前にいた櫛田先輩が自分のカバンからハンカチを取り出し、顔を拭く。

 すみませんと謝りながら、タオルを差し出す。

 現在の席の配置は、ソファにエム、仁、ののんの順に座り、テーブルを挟んで前にダクト、櫛田先輩の順に座っている。

 仁のとなりでさっきからひっきりなしに”しゅらばにゃ~”と連呼が聞こえてくる。

 どうしたものかと思い、話を進めようとするが、エムが急に立ち上がり、自己紹介を始める。


 「そうじゃった。相手を知るにはまず自分から名乗るのが礼儀よの~。我は仁の”ともだち”である、一乃原 エムと申す。以後見知りおけ」


 腕を組みドドーーンとバックで音が流れそうな自己紹介に二人は少し飲まれる。

 なぜか次にののんが自己紹介を始める。


 「にゃ~のにゃまえは、雀 ののんにゃ。仁様はご主人にゃ」


 ののんもエムのマネをして腕を組んでアピールするが、バック音はちょちょーんとあまり迫力はなさそうである。

 ののんの迫力のなさに、櫛田先輩が気を取り直し、自己紹介を始める。


 「私、仁君の先輩で櫛田 あやっていいます。彼女候補です!」


 完全にドヤ顔で、エムに向かってアピールする。

 しかし、あまり効果がなさそうで、櫛田先輩はなぜって顔をする。

 最後に自己紹介をすることになったダクト。

 インパクトのある胸を突き出し、紹介を始める。


 「私の名前はエル=ダクト=ワン。人造人間です!」


 ののんと、櫛田先輩は大きく目を見開き”え?!”という顔をする。

 エムは人造人間??的な顔で、よくわかっていないようだった。


 「まず、仁よ。この女と”カノジョ”とはどういうことじゃ?確か好きになったもの同士が、一緒にいる”ともだち”の上位版だったと記憶しておるが?」


 仁の体から噴出す汗が止まらない。

 以前、あまりこちらの世界を知らないエムに、テレビドラマで簡単にこの国の一般的な考え方を教えた事がある。

 その中に”ともだち”や”恋人”の話をしたこともちらっとあった。

 ここで以外な助け舟を出したのは、ダクトだった。

 

 「あやは仁の”彼女”ではないです。あくまでも”候補になりたい”だけの女性です」

 「ほう。ではそういうおぬしはどうしてここにいる?」

 「仁の妻になりたいと思っております」

 「妻?ふ、笑わせおるわ。ずっとこれからも一緒に仁といるのは我じゃ。おぬしのようなぽっとでに仁をどうこうできるとおもおておるのか?」

 「しゅらばにゃ~。じゃあここは間を取ってにゃ~が仁の恋人になるのがいいと思うにゃ~」

 「部外者は黙っていろ」

 「部外者は黙っててください」

 「部外者は入ってこないで」

 

 ののんが3人から同じタイミングでお叱りを受ける。

 小さくなりながら仁のそばで成り行きを観察する。

 仁がエムに言い訳しようとするが、エム以外の2人に睨まれて、何もいえなくなる。

 しばらく3人の言い争いが続き、ある程度話が出尽くした所で、仁をどうするかという話になる。

 本人は黙って何も言えず小さくなりながらただ、現状を黙って聞いているしかなかった。

 そんな仁をよしよしとなだめるさっき部外者扱いされていた、ののんが一番幸せそうだった。


 「あなた自身一体何者なんですか?!」


 話の終盤、櫛田先輩から出た苦し紛れの一言だった。

 エムに押されて、いやエムと仁の間の雰囲気がすでに、”彼女”以上を感じさせる事に櫛田先輩とダクトは押されていた。

 そこで、エムと仁をひとつとして考えるやり方ではなく、エム自身と勝負しようとしたのである。


 「われか。悪魔じゃ」

 「あ、あくま?」

 「おぬしが考える悪魔のイメージでいいと思うぞ。われはその悪魔なのじゃ」

 「貴様!悪魔だったのか!?」


 ダクトが立ち上がり、攻撃態勢をとる。

 仁が割って入り、ダクトを止める。


 「ちょっと、待て。俺が魔法使いってわかるならその、しゅ、主人もいてるってわかるだろ?」

 「う~」


 ダクトは理解しているようだが、櫛田先輩はわかっていなさそうで、ただ悪魔と聞いて驚いてはいる。

 ダクトが座り直すと、櫛田先輩にわかるように仁が魔法使いについて説明する。

 ここで、櫛田先輩が仁争奪戦に脱落するかと思われたが、すごい興味深そうに聞き自分も魔法使いになれないのかと言い出した。

 櫛田先輩以外の全員でそれは思い留めさせ、血なまぐさい世界にわざわざ来ることはないという話になったが、仁の争奪自体はそれとこれとは違うという事になり、櫛田先輩のリタイヤはなくなった。


 「悪魔が目の前にいるということは、監視役が絶対に必要である。24時間365日見守らなければ」


 急にダクトが主張し始める。


 「しかし、監視官ってあなたではないのでしょ?」


 櫛田先輩が、確証を持って聞いてくる。

 口を歪ませて美人な顔がおかしな事になっているが、ダクトが決意を述べる。


 「上司に相談して、仁の監視役になる!」

 「無理しなくてもいいんじゃない?」

 「絶対になるもん」


 泣きそうな顔をするダクトを見て、監視官になるのは難しそうだとダクト以外は思うのだった。


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