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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

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31#解除?

御者台に乗りながら流れる景色を横目に、馬車は門へと進んでいた。


隣のルーベが手綱を握り馬車を操っているので、俺は辺りの警戒に集中している。


サキの話では、壁の南側は比較的敵の配置が薄いようだ。


ミーナと進んでいた時も、グレートとの戦闘以外はまともな戦闘と呼べるものは無かった。


ただ北側はかなり敵が配置されている気配があるらしく、壁を超えてからが本格的な敵の本拠地に乗り込む戦いになるだろうとのことだった。


キャシュが守っていた門から北側に入り、転移門を目指すパーティーは俺、サキ、ルーベ、ミズキの四人に決まった。


キャシュと顔見知りの俺と、奴隷の刻印を解除できるサキの同行は確定として、比較的戦闘に不慣れな二人を選んだ形だ。


そして残りの四人で壁を壊し、敵の目を引きつける陽動部隊となる。


リュウを含めロゼもゴウもゴリゴリの攻撃特化だ。

そこをうまくソーマが防御役として守ってくれると踏んだ構成だった。


「転移門って、そんなどこにでもあるものなのか?」


俺は隣で巧みに馬車を操っているルーベに話しかけた。


「いえ、かなり珍しいと思いますぜ。転移門自体が過去の遺物と呼ばれてて、今の技術じゃ作ることが出来ないとかなんとか」


「へー……確かに転移魔法自体、聞かないもんな」


ふと疑問に思った。


あのリルラベーラが使用してきた、俺らを強制的に転移させる魔法だか何だか分からない力は一体何だったのだろうか……


思案しているとルーベが口を開いた。


「ローズバラン大陸の地理は俺も詳しくは知りませんがね、大陸内を移動する転移門なら他の大陸にもいくつか存在するみたいですぜ。だいたいは各王国が厳重に管理していて警備も厳しいんで、俺みたいな奴は使ったことありませんがね」


「ふーん……ってことは、別の大陸へ行くための転移門もあるってことか?」


「一つだけ確認が取れてるって話を聞いたことがありますね。確か、メギドレイブン大陸とヘイルレンドット大陸を結ぶ転移門だった……と思いますぜ」


「便利な門があるもんだな……」


「……あっはっは! 今のは門と、ある『もん』のところをかけたんですかね! さすがリュウの旦那の連れだ!」


……いや、全然さすがではないし、もし狙って言っていたとしたら若干恥ずかしいくらいだ。


なんとなくルーベの目が本気で笑っていないところを見ると、ただのお世辞なのだろうが……こいつもしかしたら、リュウの無茶ぶりに相当気を使っている毎日を送っているのかもしれないな。


俺は馬車の荷台の方をチラリと振り返って確認した。


サキはいつも持ち歩いている魔導書を黙々と読み込んでいるし、ミズキはぼーっと荷台から外の景色を覗き込んでいる。


荷台の空気は、どこか重苦しく沈み込んでいるようだった。


今から敵の本拠地に乗り込むのだから、ワイワイ楽しく会話してくれとまでは言えないが……


俺は重苦しい雰囲気を振り払うように、正面へと視線を戻した。


「トールの旦那。そろそろ着きますぜ」


ルーベの言葉と同時に、前方にはっきりと門の影が見えてきた。


「ルーベ。少し離れた位置で馬車を止めてくれ。敵だと誤解されて、いきなり攻撃されたくないからな」


「……へい」


攻撃された時の光景でも想像したのか、ルーベは軽く体を震わせて頷いた。


俺の指示通り、ルーベは門の前に佇む人影がギリギリ判別できる位置で馬車を滑り込ませるように停めてくれた。


「じゃあ、まずは俺が先に行く。話がまとまったら合図を送るよ」


「わかったわ。ルーベ、しっかり見張っておいてね」


「へい」


荷台からのサキの淡々とした返事を聞き届けると、俺は馬車から地面へと降り立ち、門前を目指して歩き出した。


距離が縮まるにつれて、門の前に立つ二つの人影がキャシュとタシであることがはっきりとしてくる。


特にタシの丸みを帯びた独特のシルエットは、遠くからでも実によく目立つ。


周囲に他の気配がないことを警戒しつつ、さらに足を進めていった。


「なんだ、本当にトールじゃないか。仲間は見つかったのか?」


相変わらず整った顔立ちをしたキャシュは、俺の姿を視界に収めると、警戒して構えていた剣の先を静かに地面へと下ろした。


「姉御、言ったじゃないですか。トールさんだと思うから攻撃しない方がいいって」


「馬車ごと突っ込んで来られる前に、一瞬で叩き斬るつもりだったが……まあ、大事にならなくてよかったよ」


恐ろしいセリフを事もなげに口にするキャシュは、爽やかな笑みを浮かべていた。


世間一般で言う『ギャップ萌え』というのは、こういうのを指すのかもしれない。


その隣では、タシが丸いパンを齧りながら呆れたように軽くため息をついていた。


「それで、今日は一体どうしたんだ? 前にも言ったはずだが、ここを通すわけにはいかんぞ?」


「通せないのは『奴隷の刻印』で縛られているからだろ。そいつを解除できる奴を連れてきたんだよ」


俺のその言葉を聞いた瞬間、隣のタシはパンを喉に詰まらせて猛烈にむせ返り始めた。


「気持ちは嬉しいが、そんな方法は存在しない」


ニコリと微笑むキャシュ。


「え?……いや、そんなはずは無い。あいつはそんな嘘をつくような奴じゃない」


俺は後ろに停車している馬車へと視線を向けた。


こちらからまだ合図を送っていないため、馬車は先ほどから微動だにせず佇んでいる。


ふと俺の中で、暗い疑惑がよぎった。


もしサキが口にした『奴隷の刻印を解除できる』という言葉が、ただのブラフだったとしたら。


門番が一人しかいないという情報を俺から聞き出したサキは、強行突破でも苦もなく通れると踏んで、俺を誘導してここまで案内させたのだろうか。


「その話は、トールが連れてきたという仲間から聞いたのか?」


キャシュの持つ剣の切っ先が、わずかに地面から浮き上がった。


その鋭い殺気を察知してか、隣のタシが一歩後ろへ腰を引いたような気がした。


俺自身、サキの真意を測りかねている。


あいつの考えることは正直読めない。読めないのであれば……信じるしかない。


「待て、キャシュ。こちらに攻撃の意思は無い」


俺はゆっくりとした動作で腰の二振りの刀を帯刀ベルトから外し、地面へと静かに置いた。


「信じてくれ、としか言えん」


「まだ見ぬトールの仲間を、か?」


「いや、俺をだ」


ゆっくりと体を起こし、まっすぐに見据える俺を、キャシュはじっと見つめ返してきた。


「本当に面白い男だな、トールは」


凛とした表情の隙間から、キャシュはくすりと笑みを覗かせた。


「わかった、いいだろう。信じるよ」


「……いいんですか、姉御!? もし敵の罠だったら……」


「いいさ。いずれ大規模な戦争になれば、遅かれ早かれ死ぬ可能性が高いんだ。それなら、この男に賭けてみようじゃないか」


そう言うと、キャシュは迷いなく剣を鞘へと収めた。


それを見届けた俺は後ろを振り返り、遠くに見える小さな馬車へ向けて大きく手を振った。


こちらの意図を察したように、馬車がゆっくりと近づいてくる。


少し離れた位置に停車すると、荷台からサキとミズキが降りてきた。


ルーベも御者台から飛び降り、馬の鼻面を撫でて落ち着かせている。


スタスタとこちらへ歩み寄ってくるサキの顔立ちは、どこまでも涼しげだった。


「あなたが門番のキャシュね。それとお供のタシ」


「誰がお供だ!俺は四番隊隊員の……」


「わかったわかった。私はメギドレイブンのサキ。トールから話は聞いているかしら?」


騒ぎ立てるタシを右手のジェスチャーで軽くあしらいながら、サキは淡々と会話を進めた。


「それで、どこまで話は聞いているの?」


「私の『奴隷の刻印』を解除してくれると聞いている」


「そう。じゃあ話は早いわね。刻印がある場所を見せて」


軽くそう口にすると、サキは一歩キャシュへと歩み寄った。


「待て。そちらの目的はここを通るだけか?」


近づくサキに対し、キャシュは片手を上げて制した。


「それもあるけれど、私が奴隷の刻印を解除できるという事実を作ること。そして、私が魔王討伐を果たしたという証人作りのためね」


「サキはメギドレイブンの貴族なのか?」


「今は違うわ。じきになると思うけれど」


「なるほど……確かにそんな偉業を打ち立てれば、貴族などいくらでも名乗れるな」


キャシュは愉しそうに笑った。


俺には貴族という言葉自体、あまり耳馴染みがなかった。


サキが住んでいるというメギドレイブン大陸にはそういう制度があるのだろう。


やはり大陸が違えば文化も異なってくるようだ。


「それで、もし失敗した場合はどうなる? 私は死ぬのか?」


「大丈夫。失敗なんてしないから。ほら、見せて」


自信の塊のような言葉だった。


サキがここまで言い切るのであれば、俺たちを騙して強行突破するような企みなど最初から考えていなかったのだろう。


俺は胸の内で深く安堵した。


「……ここだ」


キャシュは胸元をはだけさせ、そこに刻まれた刻印を露出させた。


サキは近づいてそれをじっくりと観察すると、ゆっくりと右手をキャシュの首元へ添えた。


それと同時に左手をローブのポケットへと滑り込ませる。


次の瞬間、静まり返った場にサキの朗々とした詠唱だけが響き始めた。


その言葉の意味は俺には理解できなかった。

途切れ途切れに耳へ届く音の中に、知っている単語らしきものはひとつも存在しない。


サキの後ろに立つミズキも、キャシュの横にいるタシも、息を呑んで緊張した面持ちを浮かべている。


それとは対照的に、当事者であるキャシュだけは薄らと軽い笑みを浮かべたまま、目の前のサキを興味深そうに観察していた。


サキが突っ込んでいた左手のポケットから、淡い光を放つ。


その光がゆっくりと収束していくと、サキは右手をキャシュの首元からそっと離した。


「はい、終わったわよ。自分でも違いが分かるでしょう?」


「……刻印が、消えている。それに、私を縛りつけていた忌々しい魔力の気配も感じない。驚いたな……本当に解除できたのか」


キャシュは自身の右手を見つめ、確かめるように何度も掌を開閉させていた。


「当たり前でしょう。嘘なんてつく必要がないじゃない」


サキは呆れたように軽くため息をついた。


そして、地面に置かれたままの俺のシルラとカルラへ視線を落とすと、そのままジッと俺の顔を見つめてきた。


「……トール、もしかしてあんた……私が嘘をついて相手を騙し、無理やりここを通るつもりだとでも思っていたんじゃないでしょうね?」


「……若干、思ってた」


「はぁ……なんで私がそんな面倒くさいことする必要があるのよ」


「サキは何考えてるか分かんないところあるし……一応な」


「その時は事前にちゃんと言うわよ!まったく私をなんだと思ってるのよ、あんたは……」


俺たちのやり取りをポカンと口を開けて見つめているタシの顔は、実に間抜けだった。


「私はリュウに連絡してくるから。連絡が終わったら北へ向かうわよ。それまでにキャシュとお別れの挨拶でも済ませておきなさい」


サキはそう吐き捨てると、スタスタとルーベの待つ馬車の方へと歩き去っていった。


後ろに控えていたミズキも、アタフタと焦りながらキャシュとタシにペコリと頭を下げ、急いでサキの後を追っていく。


「これほどの偉業を成し遂げておいて、あの涼しい顔か。やはりトールの仲間も実に面白いな」


「そんなに凄いことなのか?奴隷の刻印を解除できるっていうのは」


俺は褒められているのか何なのかよく分からない感想を耳にしながら、地面のシルラとカルラを拾い上げ、帯刀ベルトへと収めた。


「凄いなんてものじゃない。これひとつで世界が変わるぞ」


キャシュの声に、確かな力がこもっていた。


ずっと飄々と余裕を崩さなかったキャシュにしては実に珍しい。


サキのしたことがそれほど決定的な大事件なのだと、俺もようやく実感が湧いてきた。


「トールさんの仲間……そしてサキ……トールさん、もしかして……」


何かに勘づいたようにハッとした表情を浮かべ、タシが俺を凝視してくる。


「大賢者のサキ……!?」


「伝記にそう書いてあるらしいな。あれが本人だ」


俺は腰に差したシルラとカルラの納まりを確かめながら答えた。


「またとんでもない仲間を連れてきたものだな。本当に退屈させないよ、トールは」


愉快そうに笑うキャシュと、目を丸くしてサキの去っていった方角を二度見しているタシの対照的な顔がおかしくて、俺もつい笑ってしまった。


「ほんと、頼りになる奴だよ」


俺はそう呟き、後ろで通信魔法の準備をしているであろうサキの背中を見遣った。


しかし、この世界におけるリュウとサキの名前はこれほど人に衝撃を与えるというのに、俺の名前を聞いてもイマイチピンと来ないのは一体どういうことだろうか。


一抹の切なさと悲しさを覚えつつ、俺はキャシュの顔を見つめて言った。


「……ちなみに言っておくが、俺も伝説の一人だからな」


その自己主張を聞いた瞬間、キャシュは今日一番の声をあげて笑った。

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