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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

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28#発見?

俺はぼんやりと空を見上げていた。今日も晴天だ。稀に白い雲が通り過ぎるくらいで、日差しを遮るものはほとんど無い。


ミーナがシンと共にゲッコウの救出に向かった朝から時間が経ち、そろそろ日も傾き始め、もうすぐ夕方を迎えようとしている。


何もする気が起きなかった俺は、ずっと木陰でぼーっと過ごしていた。


サキは朝から小屋の中に籠もり、ロゼを探し続けてくれていた。


けれど、まだ声もかけられていないところを見ると、発見には至っていないのだろう。


ルーベとソーマは買い出しに行くと言って出かけていった。


リュウは気づいたらいなくなっていた。

まぁ、あの自由人に何もせずここでじっと待機していろという方が無理な話だ。


ミズキは少し離れた木陰で黙々と本を読んでいる。


召喚されてからそこまで日数も経っていないはずだが、この世界の文字が読めるというのは純粋に驚きだった。


俺もゲッコウの救出に同行するべきだったのかもしれない、という思いが頭をよぎる。


……いや、そうなるとロゼを探すのを諦めるということになる。


そんな選択肢は有り得ない。


朝からずっと、そんな答えの出ない葛藤が頭の中をぐるぐると駆け回っていた。


「トール、起きてる?」


サキの声がすぐ耳元で聞こえた。


いつの間にか目と鼻の先に立っていたことに、俺は全く気づけていなかった。


慌てて立ち上がる。


「どうした。ロゼが見つかったのか?」


「……今、五人まで候補を絞り込んだわ。実際に話しかけてみないと分からないけれどね」


「五人か……」


単一属性の『火』だけでそこまで絞り込めただけでも、神懸かり的なことだ。


「今から一人ずつ話しかけてみるけれど、何か一発で本人だって特定できるキーワードみたいなものってある?」


その問いかけに、俺は少し思考を巡らせた。


一発で分かるキーワード……ロゼが絶対に反応する言葉……


「……『肉汁酒場でビール呑みたい』だ」


「……はぁ? なにそれ……まぁ、いいわ……」


サキはとてつもなく怪訝そうな表情を浮かべたが、追及はせず、再び魔法を展開するために静かに魔力を練り上げ始めた。


「……ねぇ。もし見つからなかった時は、あんたどうするのよ?」


不意にサキの魔力の高まりが途切れた。


「その時はすまないが、魔王討伐に俺は付き合えない」


「……あんた、過保護過ぎない? そのロゼッタって子は、元々こっちの世界の人なんでしょ?」


「それでもだ。悪いが、これだけは譲れない」


お互いの視線が正面からぶつかり合う。


サキの言いたいことも理屈も痛いほど分かるが、ロゼの捜索を諦める気は毛頭無かった。


「……わかったわよ。それじゃあ、やっていくわね……」


サキは溜息をひとつ吐くと、再び魔力を練り上げ、理解の及ばない通信魔法の詠唱を開始した。


「……ロゼッタさん? 肉汁酒場でビール呑みたいわね…………」


サキが静かに呟く。


その後、重苦しい無言の時間が流れた。


返事が無いのだろうか。


それとも全くの別人だったのか。


無意識のうちに拳へ力が入る。焦りで全身の筋肉が強張っていくのを自覚した。


「……違うわね、別人だわ。次いくわよ」


サキの冷静な声が静寂を破る。


どうしても落胆を顔から消し去ることができない。


いや、大丈夫だ。まだ一人目だ。


あと四人も候補がいるんだ、俺は必死で自分に言い聞かせるように、そう心の中で繰り返した。


二人目……三人目……四人目……。


サキの淡々とした無機質な確認作業が静かに重なっていく。


けれど、差し出された答えは非情だった。


四人目まで確認しても、その中にロゼの反応は一切なかった。


残るは最後の一人。


俺は強く目を閉じ、心の中で必死に祈りを捧げた。


頼む、頼むからロゼであってくれ。


サキの独り言のような、どこか他人事な確認の声が静寂に響く。


そして、それすらも、最後の一人も終わりを迎えた。


「……違うわね。残念だけど見つからないわ」


「そう……か……」


「もう諦めたら?」


刃のように冷徹なその言葉に、不思議と怒りは湧いてこなかった。


サキという人間はこういう奴だ。


けれど、どんな言葉を投げかけられようと、俺の答えが変わることはない。


「約束は一人につき24時間だったはずだ。今日の朝から探し始めたとしても、まだ時間は残っている」


「……そうだったわね。わかったわよ」


サキは大袈裟に両手を広げ、大きな溜め息をひとつ吐き捨てると、そっけなく小屋の中へと戻っていった。


サキの言いたいことは分かる。

痛いほど理解できている。


特別戦力として期待しているわけでもない人間を捜索させられているサキにとって、ロゼやゴウを探す時間など無駄でしかないのだ。


けれど、理解できるということと納得することは別だ。


俺には、俺が絶対に譲れない大切なものがある。


もし明日の朝を迎えても見つからなければ、俺は魔王討伐など投げ打ってでも、自分の手でロゼとゴウを捜しに行く。


無意識のうちに強く握りしめていた拳を、そっと解いた。


「……トールさん」


「……ミズキ。どうかしたか?」


振り返ると、いつの間にかミズキがすぐ側に佇んでいた。


「いえ……あまりにも思い詰めた顔をされていたので……」


「ごめんな、何でもないんだ。ただ……早く仲間が見つかってくれればと思ってな」


俺は上手く作れているか分からない笑みをミズキに向け、逃げ込むように再び横になった。


気を使って声をかけてくれたミズキの優しさはありがたかったが、今の俺には誰かと会話を交わす余裕すら残されていなかった。


頭の中はぐちゃぐちゃに掻き乱され、収まりのつかない感情と最悪の思考がグルグルと渦を巻いている。


両目を固く閉じても心の波風が収まるわけではないが、冷たい暗闇に浸っている方がいくらかマシだった。


魔王討伐を決意し、ロゼを旅に連れ出すと決めたあの時、こうなる可能性だって考えていたはずなのだ。


自分の見通しの甘さと無力さに、つくづく嫌気がさす。


心の中で自分自身へ延々と悪態をつき続けるうちに、泥のような微睡みの中へ意識がぼやけて沈んでいった。




ふと自分が眠っていたことに気付いた。


日は暮れだし、オレンジ色に染まる景色と周囲に漂い始めた魔王の魔力が、かなりの時間眠ってしまっていたことを告げていた。


「なんだ、起きたのか?」


まだ重い瞼を擦っていると、隣で逆立ちしながら腕立て伏せをしているリュウと目が合った。


「……悪い、寝てた」


「別にいいだろ。どうせやることもねーしな……っと」


器用に逆さ腕立てを続けながら、リュウは軽々と会話に応じる。


俺はその姿をぼーっと見つめていた。


「トール……お前、サキとなんか言い合ったろ? あいつ、さっきまでめちゃくちゃ機嫌悪かったぞ」


「……さっさと魔王討伐に行こうぜって話でな」


「昔から……お前らは……よく言い合ってた……もんな……っと」


ピタリと動きを止めると、リュウは身軽な動作で着地し、立ち上がった。


「俺は『知らねー』で押し通して話すら聞かねーから言い合いになんかならねーけどな。あっはっは!」


豪快に笑うリュウを見ていると、一人で深刻に悩んでいたことがなんだか途端にバカバカしく思えてきた。


「トールが付き合ってた、ルカだっけ? あの子とサキが言い合ってた時も、ルカ本人は早々に折れてたのに、トールだけ折れずにずっと突っかかってただろ」


「……そうだったっけ?」


サキと衝突することが多かったのは覚えているが、具体的に何を言い合っていたかまでは記憶が薄い。


まさかこんなことまでこいつが覚えているとは思わなかった。


「お前にとって大切なものなんだろ? なら、自分が納得するまで好きにやりゃいいじゃん」


ニッと屈託なく笑うリュウの顔は、昔と何ひとつ変わっていないように見えた。


「……そうだな。せっかくの異世界だ……好きにやらせてもらうか」


その笑顔に引きずられるように、俺の唇からも自然と笑みがこぼれた。


――その時だった。小屋の奥からサキの盛大な爆笑声が響き渡った。


一瞬何が起きたのか理解できなかったが、弾かれたように小屋の中へ駆け込み、サキの元へと突進した。


「どうした!? 何かあったのか!?」


目元に浮かんだ涙を指で拭いながら、未だにお腹を抱えて笑っているサキが口を開く。


「この子、めちゃくちゃ面白いじゃない……なによ? あんた『おっさん』って呼ばれてるの?」


その言葉を聞いた瞬間、ドクンと心臓が跳ね上がった。ロゼだ。


「見つかったのか!? 無事なのか!?」


「ちょっと慌てないでよ、無事よ無事……はー、可笑しくてお腹痛い……」


サキはまだ涙目になりながら笑い転げている。


無事だった。本当に見つかったのだ。胸の奥で、歓喜の感情が爆発するように渦を巻いた。


「ちなみにもうひとつ朗報。ゴウとかいうもう一人の仲間も一緒みたいよ」


「そうか……あいつも、無事だったか……!」


ついさっきまで全身を支配していた重く暗い焦燥感は跡形もなく吹き飛び、アドレナリンが駆け巡り、歓喜で激しく震えていた。


俺は無意識のうちに強く拳を握りしめていた。35歳のおじさんが人目も憚らず、気付けば力いっぱいガッツポーズを掲げていた。

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