↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/89

27#約束?

パチパチと薪が爆ぜる音に包まれながら、俺たちは火を囲み、ルーベが作ってくれた料理に舌鼓を打っていた。


香ばしく焼かれた肉に柔らかいパン、そして温かいスープ。


野営とは思えないほど豪華な献立だ。


山賊のような荒々しい出で立ちとは裏腹に、ルーベの作る料理は驚くほど繊細な味付けが施されていた。


リュウとミズキ、そしてルーベの三人は賑やかに笑い合いながら食事を進めている。


その傍らで、大柄なソーマが静かに黙々と口を動かしている姿は、何とも対照的で可笑しかった。


まともな温かい食事を口にするのはいつ以来だろうか。


俺もミーナも、久々の温もりに思わず感嘆の息を漏らしていた。


そんな和やかな食事の最中、サキから「シンが見つかった」と報告が入った。


俺とミーナはすぐさまサキの元へ駆けつけた。シンは先のゲッコウとは違い、サキからの通信に大きな疑いを抱くこともなく、対話はいたってスムーズに進んだ。


どうやら俺たちがいる小屋からそう遠くない場所に潜んでいたようで、明日の朝にはこちらへ合流できるとのことだった。


隣でミーナが心底安堵したように胸を撫で下ろす。


それを見て、俺の胸の支えもふっと軽くなった。


ただ結果を待つだけの時間は、どうやら俺にとってもミーナにとっても性に合わないらしい。


「ご飯を食べながらでいいから、残りの二人のことを教えなさいよね」


どこか疲労を滲ませた表情で、サキが火の周りへと歩み寄り、腰を下ろした。


すかさずルーベが立ち上がり、手際よくサキの分の食事を用意して差し出す。


その流れるような動きに、この旅における二人の明確な上下関係が見えて、俺はぼんやりとそれを眺めていた。


「それで、残りの二人の魔力属性は何なの?」


「残りは二人とも単一属性だ。ロゼ……ロゼッタは『火』で、俺たちと同じ召喚者のゴウは『雷』だな」


「あ、雷はダメ。探知自体はできても、魔力量や深い情報までは判別しきれないから探せない」


「……そうなのか? 俺はそういうの感じたことはないが……」


「そこはあんたが異常なのよ。魔力の質から性格まで読み取るなんて、普通はあり得ないの」


サキはビシッと俺の鼻先に指を突きつけてきた。俺は苦笑いしながら顔をしかめる。


「そうか……なら、まずはロゼッタの方を頼めるか?」


ゴウの探知が難しいのは惜しいが、あいつの規格外の強さを思えば、早々にどこかでくたばるようなタマではないはずだ。


「……大体どのあたりにいそうか、心当たりはないの? 単一属性だけで大陸全土から探すのは、正直かなり骨が折れるのよ」


「……そうだな。ローズバラン大陸の西側を中心に探してほしい」


キャシュから聞いた転移の法則を思い返し、俺はそう提案した。


「わかったわ。でも、ちゃんとご飯を食べ終わってからね。これ、本当に神経をすり減らすのよ」


受け取った料理に軽く感謝を述べると、サキは静かに食事へと意識を向け始めた。


やがて食事も終わり、片付けの刻を迎える。


すっかり陽は落ち、各自が夜を迎える準備を始めていた。


小屋の中は女性陣に譲り、俺たち男組は馬車や外で夜を明かすことになった。


小屋を後にする間際、サキの張り詰めた横顔が視界に入る。


焦ったところで事態が好転するわけではないと分かってはいても、胸の奥で急きたてるような焦燥がくすぶっていた。


サキには悪いが、今夜は先に休ませてもらうとしよう。


ふと荷台へ目を向けると、リュウが既に豪快ないびきをかいて眠りこけていた。


周囲への遠慮など欠片もないその図々しさに、不思議と心が落ち着いていく。


俺は慣れ親しんだ冷たい大地の感覚に身をゆだね、大きな木の根元に腰を下ろすと、吸い込まれるように眠りへと落ちていった。




日の出と共に自然と目を覚ました。


最近は夜になると魔王の魔力が漂うため夜間に休み、日の出と共にその影響が弱まるリズムに合わせて行動していたからだろう。


俺は立ち上がると、凝り固まった身体を大きく伸ばした。


周りを見渡すとソーマもルーベもまだ寝ているようだ。


水でも飲もうかと馬車の荷台に近づいていると、小屋からミーナが出てきた。


「おはよ。よく寝られたか?」


「あんまり……なんでだろ……」


まだ眠そうな目を擦りながら、ミーナは俺の隣に立ち、コップの水を飲んだ。


荷台の奥からはリュウのイビキが聞こえる。


「トールも飲む?」


「俺も貰おうかな」


木のカップをミーナから受け取ろうとしたその時、後ろの木の影から気配を感じた。


俺は即座に腰のシルラの柄へ手をかけ、振り返る。


「……やっと着いた。久しぶりだね、ミーナ」


そこには、柔らかな笑顔を浮かべるシンが立っていた。


「シン!」


ミーナが弾かれたようにシンの元へと駆け寄る。俺もその後を追った。


「無事でよかった……!まぁ、シンなら大丈夫だって分かってたけど!」


嬉しそうな顔をするミーナ。あんなに不安がっていたことは黙っておくことにした。


「すまないね……ミーナもトールさんも、無事で何よりだよ」


「あぁ……シンもよく耐えたな」


「……まぁ、無傷とはいかないけれどね……」


どこか困ったような笑みを浮かべるシンに、ミーナの表情が動揺へと変わる。


「感動のご対面ね。よかったじゃない」


大きな欠伸をしながら、サキが小屋から顔を出した。


銀髪がボサボサになっているのは寝起きだからだろう。


「……サキさんですね。ありがとうございます、ここまで案内していただいて」


そう言うと、シンは丁寧に深く頭を下げた。


「別にお礼を言われるようなことはしてないわよ」


両手をひらひらと振りながら返すサキは、寝起きとはいえ相変わらずの通常運転だった。


「それで……ゲッコウは見つかったのかい?」


辺りを見回しながら、シンがその名を口にする。


「……見つかったんだけど……怪我か何かで動けないみたいで……」


「そうか……」


シンは視線を落とし、何かを深く考え込んでいるようだった。


「トールさん……すまないが俺はここでリタイアだ」


「……ゲッコウを助けに行くためか?」


「それもあるんだけどね……」


シンは腰の剣を静かに引き抜いて見せた。


「もう、剣が使い物にならないんだ。こんなあり合わせの剣で魔王を倒せるとは思えないからね……ゲッコウを助けたら、一度アルカライズ王国まで戻るよ」


「そうか……」


柔らかな笑みを浮かべてはいるものの、その表情の奥には拭いきれない悔しさが滲み出ていた。


「ミーナ……君はどうする?」


「私は……」


問いかけられたミーナは、小さく顔を伏せた。葛藤しているようなその横顔を、俺は黙ってじっと見つめていた。


「……行っておいで。まぁ、お互い元いたパーティーに戻るだけのことだ」


「……そうね……」


顔を上げたミーナは、どこか切なげに軽く微笑んだ。


元々はたまたま同じ場所に転移されて、成り行きで一緒にいただけの俺たちだ。


けれど、二人で過ごした時間が長すぎたせいか、今や別々のパーティーだったという事実すら実感として湧いてこなかった。


「……ねぇ……トール」


「……どうした?」


ミーナは自身の首から下げていたネックレスに手をやり、ゆっくりと外した。


「これ、貸してあげるわ」


「……これ……ユミル教のものか?」


受け取ったネックレスの先端には、素朴な木彫りの十字架のような装飾があしらわれていた。


「そう。私の手作りよ。……貸すだけなんだからね。絶対に返しに来なさいよ」


「……いや、そんな大切なものなら受け取れないって」


「いいから!……黙って持っていなさい!」


ムッとした表情で言い張る顔がなんだか無性におかしくて、俺はつい吹き出してしまった。


「な、なに笑ってるのよ……」


「なんでもない。わかった、ありがたく借りておくよ。魔王を討伐したら、必ずまた会いにいく」


「……約束だからね」


そう言って、ミーナは愛おしそうに笑顔を返してくれた。


「少し準備してくるわね。シンは休んでいて」


「あぁ……すまないね。少し眠らせてもらうよ。準備ができたら起こしてくれ」


シンはそう言い残すと、木の根元に腰を下ろし、静かに目をつむった。ミーナが慌ただしく小屋へと戻っていくのを見送っていると、隣にいたサキが小声で話しかけてきた。


「……あんた……イトューヒの王女様はどうするのよ?」


「……なんでそれを知っている?」


「私、情報通なんで。それで? そんな人がいるのにいいわけ? 他所で彼女作っちゃって」


「俺とミーナは、そんなんじゃないよ」


「……ほんと、あんたのそういう無自覚なところって昔から変わらないわよね。まぁ、私には知ったこっちゃないけど」


呆れたように言い捨てると、サキは踵を返して小屋の中へと戻っていった。


サキに突っ込まれるまで、不思議とリアの存在が頭から抜け落ちていた。


いや、忘れようとしていたのかもしれない。


会えない日々の中、ただひたすらに相手を想い続けるのは、あまりにも辛すぎたから。


さっさと魔王を討伐して、イトューヒに戻りたい。


一刻も早く、リアに会いたい。


けれど今は、リアに会えない切なさよりも、ミーナと重ねてきた旅がここで終わってしまうことへの寂しさが、胸を深く締め付けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。