25#新旧?
「そろそろかしらね……」
小屋の中をウロウロとしているミーナの顔は少し不安そうだ。初対面からだと分からないくらいの不安の色が見える。
「大丈夫だって。気のいいやつらだから。他の召喚者はわからないが……」
俺は小屋の壁に背中を預けながら答えた。
かなり迷ったがサキの連絡が度々あり、なんとか小屋にまで辿り着けた。
先ほどあともう少しでサキたちも到着すると連絡が来てから、ずっとミーナはソワソワしっぱなしだった。
仲間が見つかるかもしれない期待と、伝説の人に会う緊張が入り交じっているのだろう。
「お。もうかなり近くまで来てるな。そろそろ到着するぞ」
俺の魔力探知に五人の魔力反応があった。
そのうちの二人は間違いなくサキとリュウの魔力だ。
「……うん。よし……挨拶して……そして……」
ミーナは立ち止まることをやめて、会った時のシミュレーションをしているようだ。
何やら一人でブツブツ呟いている。
「お待たせ。久しぶりね、トール」
入り口からの声に俺は顔を向けた。再召喚された時と同じ顔がそこにはあった。
が、長い髪の色が銀髪になっている。確か茶色だったような気もしていたが……。
「久しぶりだな、サキ。……ってかなんだその髪の色?」
その質問の答えが返ってくる前に、サキの後ろから一人の男が飛び出してきた。
「おぉ!トール久しぶり!なんだ元気そうじゃねぇか!」
金色の短髪に似合う豪快な笑顔を浮かべ、リュウが小屋に飛び込んできた。
「リュウ!当たり前だろ、俺が簡単に死ぬかよ!」
俺はリュウが差し出した手をハイタッチで返した。
こんなやり取りも懐かしい。もうあれから20年だが、中身はお互いガキのままなのかもしれない。
「なになに?あ、そっちがミーナちゃん?トールの彼女か?」
リュウは強引に俺と肩を組み、矢継ぎ早に質問してきた。
「絶対サキに適当なこと言われたんだろそれ……仲間のミーナだよ」
「よ、よろしくお願いします!」
ミーナは真剣な眼差しで軽く一礼をしてから手を差し出した。
「よろしくな!俺はリュウ。姓はねぇ!」
ミーナはガシッと掴まれた手にビクリとしながらも、リュウの笑顔を見てどこか落ち着いたようだ。
「ちょっとあんたら、後ろがつかえてんのよ。入り口で挨拶してんじゃないわよ」
「あ!ごめんなさい……」
サキの冷静な言葉でハッと気づいたように、ミーナは小屋の奥までスタスタと移動した。
ぞろぞろと残りの三人が入ってくる。
ゴウと同い年くらいだろうか、若そうな女の子がメガネ越しにこちらを伺っている。黒髪をポニーテールに結んでいる。
山賊のような出で立ちの、眼帯をした片目の男。
そして最後に俺より年上に見える、身体がかなりごつい男。177cmある俺が少し見上げるくらいだ。かなり大きい。
「トール!紹介する、こいつら……」
「待ってリュウ。ちょっと急いでんの、私から先に挨拶させて。大丈夫、私の挨拶のあとは時間たっぷりあるから」
「へいへい、お好きにどーぞ……」
途中で言葉を止められたリュウは大袈裟に肩をすくめて見せたあと、ドカッと小屋のど真ん中に座り込んだ。
「じゃあ改めて……初めましてミーナ。トールから聞いてると思うけど、私がサキ。よろしくね」
「ミーナ・ミル・ライムです。よろしくお願いします!」
しっかりとした言葉と表情で挨拶するミーナを見て安心した。
「残りの自己紹介の前に、まずは行方不明の四人の魔力属性を教えて」
「……それだけでわかるんですか!?」
ミーナの恐る恐る尋ねる声に、サキは軽く頷いた。
「わかるわよ。でも時間はかかるわ。同じような魔力属性の人なんてゴロゴロいるんだもの。だからトールみたいに珍しい魔力の仲間から探す」
「珍しい魔力属性か……」
俺はミーナと目を合わせた。ロゼもゴウも単一属性だ。
それこそゴロゴロと存在する為、探すのに時間がかかりそうだ。
「それならゲッコウね。あの人四属性持ちだから珍しいと思うわ」
ミーナの言葉に俺も頷いた。
「四属性ね……それで属性は?」
「火、水、雷、土。この四つよ」
「わかった……じゃあ私はこのゲッコウって人を探すから、あとは適当に自己紹介の続きをしといて」
サキは軽く手を振り、小屋の隅へと歩き出した。
「あ……一つ言っておくわ」
くるりと振り返ったサキの目は鋭かった。
「今から24時間以内に見つからなかったら次の人を探す。それでいいわね?」
「……それでいい。頼む」
俺はゆっくりと答えた。
ミーナの不安そうな目がこちらを見つめている。
きっとサキのことを冷めた人間だと少し思っているんだろう。
他にも思うところが色々あるとは思うが、サキの発言は正当なものだ。
死んでいたら見つからない。
恐らくミーナは希望的な観測からか、それを理解しきれていない。
「……大丈夫。すぐ見つかるさ……サキに任せとけばいい」
俺はミーナの肩を軽く叩き、落ち着かせた。
「……そうね……」
ミーナの笑顔には少し元気が無かった。
サキは部屋の隅で座り込み、魔力探知に集中するかのごとく目を閉じた。その瞬間の魔力の広がり方にミーナは息をのんだ。
「……な?頼りになりそうだろ?」
「……うん」
先程よりも自然に笑うミーナに少し安心した。あとは俺達に出来るのは祈ることだけだ。
「……なりそうじゃなくてなるのよ……集中させて」
サキは目を閉じたままそう呟くと、また集中するため深く深く自分の世界へと潜っていった。
「そうだなすまんすまん」
俺は軽く言葉を返しリュウ達の方を見た。
「それで残りはみんなリュウの仲間なのか?」
俺の言葉にリュウは大きく伸びをして立ち上がった。
「いや違う。俺の連れはこいつだけだ。な!ルーベ!」
そう言うと眼帯の男の肩をガシッと掴んだ。
明らかに肩を組まれた瞬間ビクッと体を震わせていた。
「だ、旦那……そろそろ自分がとてつもなく強くて俺は弱いってこと把握してくださいよ……」
ルーベと呼ばれた男は情けない笑顔をリュウに見せている。
「俺はトールだ。こっちはミーナ。よろしくなルーベ」
「へ、へい……よろしくお願いします……しかしこりゃまたえらい有名人が……」
チラリとルーベの目がミーナを見た。
「ん?知り合いか?」
「いえ……知らない……と思うけど……どこかで会ったかしら?」
ミーナの問いかけにルーベは首が取れるんじゃないかと思うほど首を横に振った。
「い、いえいえ!初対面ですぜ!間違いなく!そうですとも!」
明らかに狼狽しているルーベを俺もミーナも不思議そうに見詰めていた。
「そんでこっちの二人が召喚者だ。結構強いぞ」
まだルーベと肩を組みながら横に立っていたメガネの女の子とごつい男を顎でさした。
「よろしくな。俺はトール、俺も召喚者だ。こっちのミーナは違うけどな」
俺の言葉にミーナは二人に向き直るとペコリと頭を下げた。
「相馬 武臣だ」
ごつい男は低く落ち着いた声で手を差し出してきた。
「よろしくなソーマさん」
差し出された手を握り返した。
見た目通りのゴツゴツとした手から重厚な魔力を感じる。
「……さんはいらない。歳もそんなに変わらん」
「……そうか。じゃあソーマよろしくな。俺も気軽にトールと呼んでくれ」
……そんなに変わらんのか?ほんとか?見た目だけでいくと40歳超えてると思ったが……いやこれは失礼になる心の内に秘めておこう。
「一ノ瀬……瑞希です……」
ソーマと手を離したタイミングで隣のメガネの女の子が声を発した。
「ミズキよろしくな。こっちはミーナだ」
「よろしくねミズキさん」
ミーナはニコリと微笑んだ。
その笑顔にミズキはぎこちなく笑顔を返している。
あまりのぎこちなさに何か不穏な空気を感じたが、ミズキはそれ以上喋ることはなく、そのまま黙ってしまった。
ただ人見知りが強いだけなんだろう。そう思うことにした。
「しかし、またなんで魔王討伐なんてしようと思ったんだよ。リュウも一度断ってるだろ?」
俺はリュウの方に向き直り尋ねた。
「俺はノリだな。やりたい放題やってたらサキから連絡がきて、暇だから来た」
「暇だから……」
唖然としたが、昔からリュウはこういうヤツだった。
明確な目的があるから動くのではなく、己の感情と直感だけで生きている男なのだ。
過去の魔王討伐でも、助けられた回数と同じくらい振り回された覚えがある。
「……まぁ、リュウはいいや……二人は召喚された国からの依頼で魔王討伐に来たのか?」
俺はソーマとミズキに同じことを聞いてみた。
何気ない質問だったのだが、それを聞いたミズキはみるみるうちに表情を歪ませ、しまいにはボロボロと涙を流して泣き出してしまった。
「う……うちに……帰りたい……」
両手で顔を覆いながらむせび泣くミズキ。
俺は助けを求める視線をミーナに送ったが、彼女も軽く首を横に振るばかりで、解決策を見出せていないようだった。
「ご、ごめん……なんか悪いこと聞いたみたいだな……」
「……俺が話そう」
隣のソーマがミズキを宥めるように肩を軽く叩きながら、重々しく口を開いた。
「俺たち二人は、召喚された国から魔王討伐を強制されている」
まぁ、それはある程度は仕方ない。
勝手にこちらの世界へ召喚された段階で、見知らぬ世界のために魔王を倒せと言われること自体、無理強いもいいところだ。
過去の俺たちも、右も左も分からないまま魔王討伐の旅へ放り出されたことをふと思い出した。
「『奴隷の刻印』を打ち込まれてな」
「……え?」
思わず耳を疑ったが、ソーマの真剣な眼差しを見れば、聞き間違いでも冗談でもないことが分かった。
「ミーナ……そんなこと、あり得るのか?」
キャシュの件で、奴隷の刻印は世界で固く禁止されている禁呪だと聞いていた。
「……ありえないわ。どこの国の話ですか!?」
「ヘイルレンドット大陸のラングレングだ」
「……なおさらありえないわ。大国よ。ヘイルレンドット大陸の中でも一番大きな国じゃない……」
ミーナの目は、二人を疑っているというよりは、大国が禁呪に手を出しているという恐ろしい事態の可能性をあれこれと思案しているようだった。
「ミーナちゃん、こいつらの奴隷の話はマジだぞ。サキが直接確認してる」
リュウの補足の言葉を聞き、ミーナはさらに深く眉をひそめて考え込んでしまった。
「だ、だから……サキさんと出会えて……助けてくれるって……奴隷の刻印を外してくれるって……」
ポロポロと涙を零しながら、ミズキは懸命に自分たちの状況を説明しようとしていた。
その痛々しい姿に、俺は胸が締め付けられるような思いがした。
「……そんなことが可能なの!?」
驚愕の混じったミーナの声が小屋の中に響く。
「大丈夫だ。サキは適当なことを言うようなやつじゃねぇよ。あとで直接聞いてみな」
リュウは会話の途中で飽きてしまったのか、ふぁーっと大きな欠伸を噛み殺していた。
「あぁ、あとで詳しく聞いてみるよ」
俺はリュウに言葉を返しながら、ミーナへと視線を遣った。
目が合ったミーナは何も言わなかったが、考えていることは同じはずだ。
もし本当にその刻印を解除できるのであれば、あの一番西の門をずっと守らされているキャシュの奴隷の刻印だって外してやれる。
そうなれば、キャシュを縛り付けている呪縛が解けるだけでなく、俺たちも比較的安全に『壁』の北側へと侵入するルートが確保できるかもしれない。
チラリと視線を向けた先では、サキが相変わらず深く集中した状態を維持していた。
いや、先ほどよりもさらに研ぎ澄まされた膨大な魔力が静かに波打っている。
早く見つかってくれ……ゲッコウさえ見つかれば、次はシン、そしてロゼとゴウへと捜索は進んでいくはずだ。
逸る気持ちを抑え込むように、俺は無意識のうちに強く握りしめていた拳をそっと開いた。
焦ってみたところで、今の自分に何もできないことくらい分かっている。
その無力さを責めるのにもいい加減飽きた。
今はただ、サキが力を貸してくれているのだ。過去に何度も危機を救ってくれたあのサキが。
今この瞬間だけは、その無責任な希望にこの身を委ねよう。
そう心に決めた。




