8#到着
翌朝。目が覚めると、食卓には焼きたてのパンと目玉焼き、そして見たこともないフルーツが並べられていた。
どれも素朴だが、昨晩の食事同様に心まで満たされる味だった。
「もう行くのか?」
支度を終えた俺を見送ろうと、ライオットが玄関までついてくる。
「あぁ。俺も早く探し物を見つけたくなったからな」
「目的のある旅なんだな……ちなみに、どこに向かうつもりだ?」
ライオットの問いに、俺は一瞬言葉に詰まった。
「……考えてなかった」
正直にそう答えると、ライオットは肩をすくめて呆れたように笑った。
「トールさんは変わってるな。ここから南にデカイ都市がある。そこに行ってみたらどうだ?」
「そうだな……行く宛てもなかったし、そこに向かってみるよ」
「歩きなら昼過ぎには辿り着けると思うぞ」
ライオットは安心したように頷き、続けて言った。
「都市には俺の息子も住んでるんだ。もし会えたらよろしく頼むよ」
「あぁ、わかった。本当に世話になったな」
「なにお互い様だ」
俺は最後にもう一度ライオットに一礼し、朝日を背に受けて道を歩き出した。
目的地も決まった。
腹は満たされ、天気も上々だ。
昨晩の不安が嘘のように、今の俺の足取りは驚くほど軽い。夜の帳が下りる前に、あの都市まで辿り着こう。
……もっとも、その肝心な都市の名前を聞き忘れたという些細な事実は、あえて胸の中にしまっておくことにした。
都市の門をくぐり抜けた瞬間、俺は思わず立ち尽くしてしまった。
「すごいな……」
都市は喧騒に包まれていた。
その規模は、かつて俺たちが再召喚されたあの王城に匹敵するほどだ。
だが、それ以上に圧倒されたのは往来する馬車の数だった。
大通りを埋め尽くすように、ひっきりなしに馬車が通り過ぎていく。
昔はこれほどまでに馬車が溢れる光景など見かけなかったはずだ。
人々の生活が、大きく進化していることを肌で感じる。
まずは冒険者ギルドとやらを探さねばならない。
背に腹は代えられないし、何より金がなければ、この広い都市で腰を据えて「探し物」をすることさえままならないからな。
俺は混雑する大通りへと足を踏み入れた。
並び立つ商店にはそれぞれ看板が掲げられているが、残念なことに文字の細部までは完璧に読み取れない。
記憶の奥底にある知識を総動員して、なんとか意味を推測しながら歩を進める。
しばらく歩くと、二本の剣が交叉した意匠が描かれた看板が目に入った。
直感だが、ここが目的の場所だろう。
冒険者ギルド特有の、どこか荒っぽいけれど活気に満ちた空気が入り口から漏れ出している。
ギルドの扉を潜ると、そこは喧騒と活気に満ちていた。
左手には雑多に並べられたテーブルと椅子。奥には事務的な仕事を行う受け付けカウンター。
右手には所狭しと依頼書が貼られた掲示板がある。
俺は真っ直ぐに受け付けへと歩み寄った。
そこに座っていたのは、この場の荒っぽさとは対照的な、快活そうな若い女性だった。
「ここは冒険者ギルドでいいのかな?」
俺が尋ねると、彼女は事務的だが温かみのある笑みを浮かべて頷いた。
「はい。間違いありません」
「仕事をしたいんだが、どうすればいい?」
彼女は手元で開いていた分厚い台帳をパタリと閉じ、俺の顔をまじまじと見つめた。その眼差しには、旅慣れた者を見るプロの鑑定眼のようなものが宿っている。
「初めての方ですね。まずは登録からになります」
要するに、身分証明のようなものか。
「他のギルドで登録されたことはありますか?」
「無いな」
「でしたら新規登録となりますので、ランクは一番下のFランクからとなりますが、よろしいでしょうか?」
「あぁ。それで頼む」
「では、銀貨1枚を登録料としてお願いします」
彼女は再び、商売人らしいにこやかな笑みを浮かべて俺に手を差し出した。




