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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

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21#惚気?

「助かるよ。この村には若いもんがおらんからね」


飯を恵んでくれたおばあちゃん……ブレンダが座る横で、俺は大量の薪を次々と叩き割っていた。


飯のお礼にとお金を渡そうとブレンダを尋ねたのだが、彼女は頑なに受け取ってくれなかった。


それなら何か手伝えることは無いかと聞くと、薪を割ってくれと言うので、先程から薪割りに精を出しているというわけだ。


割っている最中、他の村人からも頼まれ、気付けば尋常ではない量の薪を割り続けていた。


安請け合いはするものでは無いと反省しつつも、無心で薪を割っていく作業は意外にも楽しかった。


「あんた凄い働くんやね。どこの所属なんや?」


薪を割り続ける俺の近くに座っているブレンダの不意の質問に、俺は心の中でドキリとした。


魔王軍だと名乗っていた手前、こういう質問が飛んでくること自体は予測していた。


だが、完全に油断していたタイミングでの問いかけに、どうしても動揺が走る。


「……ナギさんの下で働いてます」


「ナギさんかい。珍しいんやな」


ブレンダの顔が少し驚きの表情に変わる。


ナギという名前を出したのは、以前ロゼとの会話の中で出てきた名前を覚えており、それが咄嗟に口を突いて出ただけで、深い意図はなかった。


「珍しい」という発言からして、マズい名前を出してしまったかもしれないと内心で焦りが浮かぶ。


「だからあんた、そんな凄い魔力してんのやね。納得やわ」


「……俺の魔力、わかるんですか?」


「抑えてるのわかるよ。ナギさんとおんなじや」


魔力を抑えていることを指摘されたのは、この異世界に再召喚されてから初めてのことだった。


ローズバラン大陸の人間は魔力の偽装を見破れるのか?いや、ロゼには見破られなかったのだから、それは違うはずだ。


「確かにそうですね」


たぶん、このナギという人物も普段から魔力を抑えている人なのだろう。


そして、抑えている魔力特有の何かが、彼女には分かる方法があるのかもしれない。


正直なところ詳しく知りたかったが、これ以上下手に踏み込んでボロを出すのは避けたかったため、俺はそれ以上の言葉を静かに飲み込んだ。


薪を割る作業に戻り、最後の薪を割った頃には空が夕暮れ色に染まり始めていた。汗だくの俺は斧を地面に置くと、その場に座り込んだ。


「ほんとありがとうな。村中の家の薪割り、やってもらって」


「いえ。俺たちこそ食事を助けてもらいましたから」


「一晩泊まるんやろ? またご飯持っていくから食べりや」


「ありがとうございます」


俺は立ち上がり、ブレンダに深くお辞儀をした。


「あんたら、結婚して何年なんや?」


結婚……あぁ、ミーナのことか。


おばあちゃんに夫婦だと勘違いさせたまんまだったことを思い出した。今更夫婦じゃないと訂正するのも面倒だ。


「まだ二年くらいです」


嘘ついて申し訳無いと思いながらも、めちゃくちゃ適当に答えた。


「そんなもんなんか。もっと長い付き合いに見えたわ」


ブレンダさんごめん。二年どころか、まだ出会って一週間くらいなんだ。


「お兄ちゃんはあの子のどこに惚れたんや?」


いたずらっぽく尋ねてくるブレンダ。


惚れたところと聞かれても、そもそも惚れていないので回答に困った。


ふと、遠い場所にいるリアの顔が頭に浮かぶ。


「……笑顔と、芯の強いところ。あと優しいところ。顔が可愛いってところも好きです」


「お兄ちゃん、すごい惚気(のろ)けるんやね」


ブレンダは声を上げて楽しそうに笑っていた。


リアの好きなところを言い出したら、完全に止まらなくなっていた。


もう少しで「王女なのに偉そうじゃないところ」なんて言って、話をややこしくするところだった。危ない危ない。


ふと後ろで、何か硬いものが倒れる音が響いた。


振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたミーナが立っていた。


足元には倒れた杖が少し跳ね、コロコロと転がっている。


「な、な、え……あの……私……」


「少しは休めたか?」


額の汗を拭いながらミーナに尋ねた。


彼女は無言のまま、コクコクと小さく頷いている。


「またご飯持っていくから、ゆっくり休みなね」


ブレンダはそう言うと、満足そうにゆっくりと歩きだした。


「俺はちょっと汗を流してから家に戻るよ。今晩泊めてもらって、明日の朝に出発しよう」


再びコクコクと無言で首を縦に振るミーナ。


何か言おうと口をパクパクと動かしたが、結局何も言わずに転がった杖を拾い上げ、来た道を引き返していった。


明らかに挙動がおかしかったミーナを横目に、村の井戸まで移動した俺は、自分の身体に冷たい水を豪快にぶっ掛けて汗を流した。


風呂に入りたいという願いは日に日に強くなるばかりだが、こればかりは仕方がない。


上の服を脱いで水を固く絞る。


ある程度乾いたところで再び袖を通し、ミーナの待つ家へと向かって歩いた。


そこでふと気がついた。


ミーナに、リアの好きなところを語っているのを聞かれてしまったのか。


だからあんな顔をさせてしまったのかと少し気恥ずかしくもなったが、聞かれてしまったものは仕方がない。


今の俺には、あの家へと戻る以外の選択肢は無いのだから。


俺は服を乾かしたかったのと、若干の気まずさから道草を食いながら家に戻った。


家のドアをゆっくり開けると、壁にもたれてちょこんと座っているミーナが目に入った。


ミーナも口をきっと結んで、じっとこちらを見つめている。


こういう時は先手必勝だ。


俺はミーナの向かい側に座り、自分から話しかけた。


「ごめん、さっきの気にしなくていいから」


「……気にしてない……」


ボソッと呟くミーナ。


「まぁ、恥ずかしいけど……本心だから。あんまり口に出して言うことじゃないんだけどな」


俺はリアの顔を思い出しながら、気恥ずかしさを漂わせた顔で言い繕った。


「ほ、本心って……あ、あんたほんと……なに……」


ミーナが言葉を言い淀んでいると、家のドアがコンコンとノックされ、ブレンダが簡単な飯と水を再び持ってきてくれた。


「薪割りしてくれたお礼に肉も付けたよ。ゆっくり食べなね」


「ありがとうございます!」


パンだけでも嬉しかったが、肉が食えるのは実に有難かった。


頂きますと手を合わせ、食べようとしたその時、ふわりと昨日感じた膨大な魔力が漂い始めるのが分かった。


夕暮れから夜に変わり始める時間帯。

そういえば、昨日もこの時間帯だった。


「やっぱり魔王様の魔力は凄いですね」


俺はブレンダに向けて何気なく言ってみた。


その発言にミーナは少し驚きの目を向けたが、すぐに感情を押し殺した。


正直、かなり当てずっぽうだ。ハズれたら、また適当に取り繕うつもりだった。


「そうやな。魔王様の魔力を生きているうちに肌で感じられるとは思わなんだわ」


嬉しそうに語るブレンダは、ゆっくり休みなねと言い残し、一歩一歩踏みしめるようにして家から出ていった。


やはり、この魔力の元は魔王で間違いないようだ。


ということは、恐らくいると言われていた城からここまで……歩いて約二週間掛かる距離でも、認識出来る魔力というわけか。


やはり規格外の存在だ。


ふと前を見ると、ミーナが軽く身体を震わせている。


そこまで圧迫感のある強い魔力では無いのだが、『聖』の魔力しか持っていないミーナからすると、直接肌に伝わる『魔』の気配には思うところがあるのかもしれない。


俺はお盆を持ち、ミーナの隣へと移動した。


俺が立ち上がった際にビクッと身体を震わせたミーナを見ると、本当にこの魔力が苦手なのだと伝わってくる。


俺は『聖』の魔力だけを少しだけ解放した。


周囲に漂う『魔』の気配を打ち消すように、じわりと温かな光が広がっていく。


「飯、食おうぜ」


「……ありがとう……」


小さな声のお礼と共に、俺たちは静かに飯を食べ始めた。


こうして隣同士で並んで飯を食べていると、どうしてもロゼの姿が思い出される。


酒場のカウンターで並んでビールを呑んでいる時の顔。


美味そうに肉を頬張っていた顔。


楽しそうに話しながら、無邪気に笑っていた顔。


ここに来てからも、幾度となく魔力探知を張り巡らせてロゼの魔力を探してはいたのだが、一向に見つかる気配は無かった。


頼むから無事でいてほしい。


その願いがどうか叶うようにと、俺は名も知らぬ神に祈りを捧げながら、再び目の前の食事へと意識を戻した。

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