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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

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11#S級?

「緊張するなー……怖くないかな……どんな人らなのかな……」


ロゼは御者台で手綱を握りながら、ニコニコと顔を綻ばせてずっと一人で喋り続けている。


最初のうちは俺も相槌を打っていたのだが、余程楽しみなのか会話の内容が何度もループしていた。


流石に三回目となる同じ心配事への返事は諦め、俺は呆れた顔を悟られないよう、ロゼの隣で静かに前を見つめていた。


「もうそろそろ着きます?」


荷台の方から、ゴウが呑気な声をあげた。


昨日酒場で酒を呑んで以来、魔力の抑え方のコツを掴んだのか、全身から無駄な力みがすっかり消えている。


魔力の制御自体はまだまだ雑だが、街でのんびりと人と会話できるくらいにまでなってくれたのは実に有難いことだった。


「あともうちょいだな!」


ロゼはゴウの質問に元気いっぱいの声で返した。


道中、俺がこの時代に再召喚された初日に助けてもらった、ライオット夫妻の住む農村の近くを通り過ぎた。


時間があれば顔を見せるだけでも挨拶にいきたかったが、ロゼの逸る気持ちに水を差すわけにもいかず、また今度にしようと今回は諦めることにした。


ロゼの会話のループが5回目に入った頃、ようやく目指すアルカライズ王国の巨大な城壁が見えてきた。


こうやってよくよく全体を眺めると、かなり大きい。


デカイ都市の活気あふれる雑多さとはまた違った厳かな雰囲気があり、イトューヒ王国とも異なる重厚で厳格な空気感に満ちていた。


ロゼは馬車のスピードを少し落とし、現在再建中で強固に補強されているボロボロの門をくぐった。


「なんでこんなボロボロなんだろうな?」


ロゼは不思議そうに周囲の傷ついた門を見上げている。


「……ナンデダロウナ」


俺は再召喚された当日に起こした大立ち回りの光景を思い出していた。


リュウの放った凄まじい拳によって大崩壊したあの門を、巡り巡って再び通ることになるとは思いもしなかった。


街の中は、デカイ都市のように馬車の往来が激しいわけではなかったが、街並みの賑やかさは比較にならないほどだった。


至る所に店が立ち並び、大通りから少し目を向けると、細い小道の先にも数々の魅力的な店がひしめき合っているのが窺える。


なるほど、これが大都会というやつか。


デカイ都市でしばらく過ごしたからこそ、この街の規格外な規模がよく分かった。


ロゼは慣れた手つきで馬車をゆっくりと走らせると、街の馬車預かり所へと入っていった。


中の青年に何かを手際よく伝えると、俺たちはロゼを先頭にしてアルカライズ王国の冒険者ギルドへと向かった。


「アルカライズ王国にはよく来るのか?」


「たまーにだな。馬車の護衛とかで西や東の大陸に行く時は、必ずここに寄るくらいだよ」


確かデカイ都市はアルカライズ王国より南にある。


そしてそれよりさらに南に位置するのが、リアのいるイトューヒ王国のある大陸だ。


俺は頼りない記憶と乏しい土地勘で頭の中に地図を描こうとしてみたが、全くピンとこなかった。


そのまま歩いて少し進むと、大きな広場に面した一際目立つ巨大な冒険者ギルドへと辿り着いた。


イトューヒ王国の冒険者ギルドも十分な大きさだったが、ここはそれをさらに上回る規模を誇っている。


「いくぞ……」


ロゼが緊張を押し殺すような硬い表情で、ギルドの重厚な扉を開けた。


俺とゴウは軽く顔を見合わせ、無言のままロゼの後ろについて中へと踏み入った。


中もかなり広く感じられた。


大声での喧騒で溢れているというよりは、忙しなく冒険者ギルドの職員たちが動き回っている印象だ。


元の世界でいう市役所を少し騒がしくしたような雰囲気に似ている。


受付のカウンターではなく、その向かいに並ぶ待合席のようなテーブルへと向かいながら、ロゼは落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見回していた。


何組かの冒険者たちがテーブルを囲んで座っているが、一体どの冒険者が件のSランクの三人なのか、ロゼには見分けがつかない様子だった。


すると、奥の方のテーブルに座っていた男が一人ゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。


男はロゼの目の前で足を止めると、気さくな笑顔を向けた。


「ロゼッタ……かな?」


「は、はい!ロゼッタ・フィオーネです!」


声をかけられた瞬間、ロゼは一瞬で緊張を最大まで跳ね上がらせ、全身をガチガチに硬直させた。


男のサラサラの茶髪の間から、爽やかな笑顔が覗いた。


「そんなに緊張しないで。俺はシン・ディバン。今回同行を依頼するSランク冒険者だよ」


そう言って、シンはすっと右手を前に差し出した。


「は、はい!」


ロゼはぎこちない笑顔を浮かべながら、シンの右手を両手でしっかりと握りしめた。


「……あんまり強そうじゃないっすね」


隣からゴウがボソッと俺に耳打ちしてくる。


「……ゴウ……それ、俺に対しても最初思ったろ?見た目の魔力量だけで判断するのは悪い癖だぞ」


俺も小さな声でゴウに耳打ちを返した。


「早かったわね。もう着いたんだ」


そこへ、純白のローブに身を包んだ女性が歩み寄り、シンの隣に立った。


金属でできた、小柄な彼女の身長と同じくらいの長さの杖を両手で大切そうに抱えている。


「こちらは俺のパーティーのミーナだ」


シンが軽やかに彼女を紹介した。


「ミーナ・ミル・ライム。ユミル教徒なの。……あなた、魔王信仰じゃないわよね?」


ミーナは自己紹介もそこそこに、一瞬の隙もなくロゼへと向けた視線に隠しきれない敵意を滲ませていた。


「ち、違います!よろしくお願いします!」


ロゼは思わず叫び、額にうっすらと汗まで浮かべ始めていた。


「そう。それならよかった。同行お願いね、ロゼッタ」


ロゼの焦った返事を聞いて安心したのか、ミーナは軽く握手を交わした。


彼女が動くたびに、長い髪がユラリとなびく。


「……ゲッコウだ」


一体いつからそこにいたのか、全く気付かなかった。


シンの隣に、もう一人の男が静かに立っていた。


目付きは鋭く、腰に差した刀の鞘が怪しくギラついている。


だが、無言で右手を差し出している様子から、敵意がないことだけは分かった。


「ロ、ロゼッタです!」


ロゼも気配に気付いていなかったのか、慌てた様子でその握手を返している。


「さて……後ろの方達が召喚者の皆さんだね?」


シンはロゼから視線を外し、背後に控えていた俺たちへと視線を向けた。


その瞳は、敵意なのか何かを探っているのか、はたまた友好を築こうとしているのか、こちらの意図を測りかねるような不思議な光を宿していた。


「俺がトール。こっちは俺の仲間のゴウだ」


「話は聞いてるよ。シュトルダイブ大陸からの応援だね、キミは?」


シンは爽やかな笑みを崩さぬまま、ゴウへと右手を差し出した。


「よろしくっす」


ゴウはそう言って、軽く握手を交わした。


「凄い魔力だ……頼もしいよ」


シンはゴウの全身から溢れる力を見極めながら、ニコリと爽やかに微笑んだ。


「あざす……」


褒められたゴウは少し照れたような顔をして、さっと手を引っ込めた。


「そしてトールさん。お話はかねがね聞いております。それこそ、子供の時から」


シンは再び爽やかな笑顔をこちらへ向け、じっと俺を見つめてきた。


「……いい話であることを祈るよ」


俺は差し出されたシンの右手を軽く握り返し、握手を交わした。


「ローズバランへの旅の最中にでも、ぜひ昔のお話を聞かせてくださいね」


「私はまだあんまり信用してないけど」


隣のミーナが、ブスッとした顔でこちらを睨みつけるように見てくる。


まあ、500年前の伝説の英雄が目の前の俺です……なんて言われて、すぐに信じる方がどうかしている。


そう思うと当然の反応だ。


「まあ、本人だとしか言いようがないからな……信じてもらえるよう頑張るよ」


「……旅の途中でいいから、ユミル様のことおしえなさいよね」


ユミル様?誰だそれは?


そういえば、このミーナという女の子は先ほど自分はユミル教徒だと言っていた。


魔王信仰とはまた別の宗教か何かだろう。


ユミル様というからにはその宗教の神様の扱いなのだろうが……一体誰のことを言っているんだ、この子は。


「あぁ。わかったよ」


俺はよく分からないまま、適当に頷いて返事をした。


「せ、拙者も……是非、天魔無碍(てんまむげ)流の太刀を少しでも……」


「ゲッコウ。絶対その話は長くなるからまた今度ね」


「す、すまぬ……」


ゲッコウは目付きこそ相変わらず鋭いままだったが、ミーナに制されるとあからさまに肩を落とし、シュンと萎んでしまった。


見た目によらず、意外と怖い人ではないのかもしれない。


「さて。ロゼッタも来たことだし、王宮に向かおうか。今日は依頼の詳細と食事会も兼ねて王宮に泊まって、明日アルカライズ王国を出発しよう」


「わ、わかりました……あ」


ロゼはシンの言葉にコクコクと頷いていたが、ハッと気づいたように俺の方を見た。


「……俺はお留守番してるよ。ゴウはロゼと共に王宮で飯を食って泊まってこい」


俺はアルカライズ王国の王宮を出禁……というか、王への謁見はロゼのみという条件付きの身だ。


おそらくその事情をシンは詳しく知らないのだろう。


せっかくのお誘いは有難かったが、申し訳ない気持ちを抱えつつ断るしかなかった。


「んー……俺もトールさんといるよ。ロゼッタさんだけいっておいで」


ゴウがまさか断るとは思っていなかった俺は、少し驚いて彼を見つめてしまった。


「そうかい? それなら……ロゼッタ、行こうか」


シンは爽やかにニコリと笑うと、スッとギルドの出口に向かって歩き出した。


その後に続いてミーナとゲッコウが歩き出し、ロゼも慌てた様子で三人の背中を追いかけていく。


「あんまり呑みすぎんなよー」


俺は遠ざかるロゼの背中に向かって、軽く手を振った。


「おっさんもな! また明日、ここで待ち合わせな!」


小走りで追いつこうとしながら、ロゼは振り返ってこちらに満面の笑顔で手を振ってくれた。


やがて四人の背中が見えなくなる。


さて、俺たちは俺たちで適当に飯にでもするか……そんなことを考えていると、隣のゴウがボソッと呟いた。


「トールさん……」


「どした?」


「シンさん、イケメンで権力もある……ロゼッタさん……寝取られちゃいますよ?」


こいつ、真顔で何言ってんだ……


「あ、お前まだ俺とロゼが恋人同士だと思ってんのか? 違うって何度言えば……」


「まぁまぁ、どっかで飯でも食いながらゆっくり話しましょ!」


ゴウは俺の言葉を意に介さず、あっけらかんとした様子でギルドの出口へと向かって歩き出した。


そういえば、こいつはあの時すっかり酔いつぶれて寝ていたんだっけ……と俺は思い直した。


キャンディスに誤解を解く際も相当な時間と労力がかかったのを思い出し、また今回も長くなりそうだなという面倒くささでガックリと肩を落としつつ、俺はゴウの後を追ってギルドを後にした。

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