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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
群雄割拠編

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9#誤解?

俺たちは馬車を預かってくれる所に預け、『踊る肉汁酒場』へと向かった。


店のドアを開けると、店の中はちょうど夕飯時でかなり賑わっている。


相変わらず店内には、忙しそうに走り回るキャンディスの姿があった。


「あら!久しぶりじゃない。三人?そこのテーブル座って!」


キャンディスはチラリとこちらに目をやり、大声で指示を出すとそのまま厨房へと入っていった。


俺たちは言われたテーブル席に腰掛けた。


隣にロゼが座り、向かいにゴウが座る。


そういえばいつもはロゼと二人だったから大体カウンター席で、テーブル席に座るのは久しぶりかもしれない。


「おっさん!肉盛りとビールだな!」


「だな!……あ、ゴウはビールでいいか?」


「……あ……はい……」


「肉盛り三人前とビール三つ!!」


歯切れの悪いゴウの返事を聞くや否や、即座にロゼが大声で注文を飛ばした。


他の酒場なら浮いてしまうほどの大声も、この肉汁酒場ならこれが当然のように馴染んでしまう。


「ひっさしぶりだなー!やっぱり夜はここの飯と酒で締めるのが一番落ち着くな!」


ロゼは隣でニッコニコな笑顔を浮かべ、嬉しそうに鎧をガチャガチャと鳴らしている。


「やっと帰ってきたー……って感じがするな」


俺はぐっと両手を上げて身体を上に伸ばした。


「はい、お先にビールね」


キャンディスはいつの間に来たのか分からないほどの素早さで、テーブルにスッとビールを三つ置いた。


「あなた達ほんと久しぶりね。どこか行っていたの?」


「んー……ちょっと仕事でイトューヒの方まで行っていたんですよ」


俺はビールのジョッキを受け取りながら答えた。


「あら、そうなの。三人で?」


「いや、私と二人で!そういえばおっさんに恋人が……」


「バカ!!」


俺は急いでロゼの口を手で力任せに塞いだ。


ロゼのことだ、リアが王女様だという秘密の立場を絶対に忘れて喋ろうとしている。


ここで話されたら色々とややこしい事になってしまう。


「ふーん……ごゆっくりね」


キャンディスは意味深な笑顔を浮かべたまま、そのまま別のテーブルへと離れていった。


「むぐ……」


「あ、ごめん」


俺はロゼの口を抑えていた手を慌てて離した。


「ダメだって……リアは王女なんだから」


小声で嗜める俺の言葉に、ロゼはハッとしたような顔をした。


「……忘れてた、ごめん」


少し申し訳なさそうに眉を八の字にするロゼを見て、俺は軽く笑った。


「まぁ、とりあえず呑もうぜ」


俺は木のジョッキを高く掲げる。それに合わせるように、ロゼもゴウも自分のジョッキを持ち寄って軽く打ち合わせた。


「「「乾杯!」」」


カツンと心地よい音を立てて、ビールの泡が軽く揺れる。


俺は豪快に一口呑んだ。


……美味い。


全身にしみわたる。


無事に帰ってきた安堵のため息が今更ながら自然と漏れた。


「かー!!うっま!」


隣のロゼも五臓六腑にしみわたる酒の美味さを噛みしめるように、声をあげている。


「……めっちゃ苦い……」


向かいに座るゴウだけが、渋い顔をしていた。


「ビール呑めないのか?」


俺は更に一口ビールをぐっと煽りながら、ゴウに尋ねた。


「ビールはあんまり……カシオレとか、そういうのないんスか?」


「……ないよ」


「なんだそれ?酒なのか?」


聞き慣れない単語に、ロゼが不思議そうな顔で首を傾げている。


「これも慣れだよ……美味い飯と一緒に流し込むと、案外呑みやすかったりするぞ」


「頑張ります……」


ゴウは相変わらず神妙な顔で魔力を抑えつつ、チビチビとビールを口に運んでいる。


最近の若い子はあんまりビールを呑まないのだろうか……いや、俺自身も元いた世界では呑み会とかにあまり参加しなかったから、ぶっちゃけよく分からないが。


「……あれ?ゴウ……魔力抑えるの上手くなってるな」


俺はジッとゴウの様子を見つめた。


「なんだろ……今めっちゃ楽に抑えれます!」


ゴウは今まで全身に力を込めて苦しそうに魔力を抑えていたのとは違って、呼吸するかの如く自然と魔力を抑えているように見えた。


「酒の力で魔力が上手く練れないからかな?」


「なんでですかね……でもこれでやっと肩の力が抜けるー……」


ゴウはビールをグビッと一口呑むと、久しぶりに安堵の表情を浮かべて背もたれにドサッとよしかかった。


「じゃあずっと酒呑んでないとな!」


ロゼはケラケラと愉快そうに笑っている。


「できればカシオレみたいな酒がいいな」


「だから何なんだよ、カシオレって!」


ロゼはジョッキをテーブルにドンと置きながら叫んだ。


「はい。肉盛り三人前ね」


またいつの間に来たのか分からないくらい静かに、キャンディスが大量の香ばしく焼かれた肉が盛られた大皿をテーブルに置いた。


「いただきます!」


その皿へとすぐさまゴウが飛び付き、一気に口の中へ肉を放り込んだ。


「うま!!」


ゴウは目をかっぴらいて肉を頬張り、そのままビールを喉へと流し込んでいる。


「新しいお仲間?」


キャンディスはニコニコと満足そうに食べるゴウを見守っている。


「たぶん」


ロゼもすかさず肉を口に放り込み、モグモグと頬を膨らませながら答えた。


「ふーん……それよりも……」


キャンディスはゴウから目を離すと、俺とロゼを交互に見やった。


「おめでとう!やっと恋人になったのね」


「……ん?」


ロゼは不思議そうな顔をしている。


「初めから私はあなた達二人はお似合いだと思ってたのよ!どっちから告白したの?」


キャンディスはテーブルに両手を着くと、グイッと顔を接近させてきた。


この言いぶりは……俺の恋人がロゼだと完全に勘違いしているな。


「むぐッ……ぐ……」


ロゼもそれに気づいたのか、驚きのあまり肉を喉に詰まらせた。


慌ててビールで一気に流し込んでいる。


「キャンディス違う、俺の恋人は……」


「キャンディス!私はおっさんと恋人じゃない!!」


俺の否定は、ロゼの必死な大声の否定によって完全にかき消された。


それをキャンディスは楽しそうにニヤニヤと見つめている。


「違うんですか?てっきり二人は付き合ってるのかと思ってました。よく手繋いでましたし」


ゴウは肉を次々と口に放り込みながら、追い打ちをかけるように言った。


「ち、違う!あれは特訓で……!!」


ロゼは更に顔を赤くして慌てた様子で否定を重ねる。


「仕事って名前のハネムーンだったの?」


キャンディスは面白がりながら、さらに追撃の質問を放ってきた。


「キャンディス、ほんとに……」


俺も本気で否定しようとしたところで、店内のどこかから「ビールのオカワリ!」という威勢の良い声が響いた。


「はーい!またゆっくり教えてね!」


「キャンディス!……ビール三つ!」


誤解の否定を諦めたロゼは、追加のビールだけを大声で頼んだ。


「ほんとに二人は恋人じゃないんですか?」


「「違う」」


「息ぴったり」


ゴウはケラケラと愉快そうに笑っている。


まだ一杯目すら呑み干していないように見えるが、酒に弱いのかだいぶ酔いが回っているようだ。


「……名前は誰か言えないけど、おっさんの恋人は綺麗な人だぞ」


ロゼは呆れたようにため息をつきながら、ビールを呑んでいる。


「へー……いいなー……俺も恋人に会いたくなりましたよ」


トロンとした眠たげな目をしながら、ゴウがぽつりと呟いた。


「元の世界に恋人がいたのか?」


俺もビールを一口呑みながら、ゴウに問いかけた。


もし大切な恋人がいたのだとしたら……突然の異世界召喚によって、ゴウも裏では悲しみや葛藤を抱えているのかもしれない。


「二、三人いました」


「よし。ロゼ、こいつぶっ飛ばそう」


ロゼはケラケラと笑いながら「お前最低だな」とゴウに向かって呟いた。


「だって勝手に言い寄って来られるし、断るのもめんどくさいんですもん」


「……ほんとイケメンはこれだから困る」


俺は深いため息をついて、肉を口に放り込んだ。


久しぶりに食うボア肉だ。


すっかり馴染み深くなったスパイスの効いた味付けが、噛みしめるたびに美味い。


「トールさんも……イケメンなんだから……彼女の一人や二人……」


ゴウはそう呟きながら、ゆっくりと目を閉じてそのまま眠りに落ちた。


「……こいつ、酒めちゃくちゃ弱いんだな……」


ロゼはジョッキに残っていたビールを一気に飲み干しながら呟いた。


「ずっと慣れない魔力コントロールで体も精神も疲れてたのかもな」


「あら?お仲間さんは眠っちゃったの?」


キャンディスが追加のビールを三つ、テーブルに置きながら言った。


「疲れてたみたいだな」


「じゃあ、あとは二人きりの時間ってわけね」


キャンディスは実に楽しそうな笑顔で言った。


どこの世界でも、女性というのは他人の恋バナが大好きなようだ。


「……キャンディス、俺たちは……」


「恋人じゃない!」


俺とロゼの完璧に息の合った否定の掛け合いは、かえってキャンディスの誤解をさらに深めてしまっているようだった。


果たして今夜中にこの誤解が解けるのだろうか。


俺は遠い目をしつつ、どうか誤解が解けますようにと祈りながら、新しく運ばれてきたビールへと手を伸びさせた。

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