6#雷神?
「いくぞごらぁ!!!」
ゴウの雄叫びが天に昇ると同時に、辺り一面へ激しい雷が降り注ぐ。
無詠唱の全体範囲攻撃か。なかなかやるな。
「天魔無碍流『流』」
振りかざす二刀の軌道に自身の魔力を流れるように乗せる。
受け流すその刃の流れに沿うように、落雷が俺の身体を避けて明後日の方向へと逸れていく。
「ロゼ。被弾に気をつけろよ」
返事を聞く余裕は無かった。
その直後、ゴウが大きく跳躍し、空中でハンマーを振りかざしながら迫ってきた。
「天魔無碍流『崩』」
構えたシルラに『魔』、カルラに『聖』の魔力をそれぞれ急速に流し込み、至近距離で二つの対極する魔力を爆発的に反発させる。
バチッと空気が爆ぜるような感覚が手元に走り、上空から振り下ろされてくるハンマーの威圧的な軌道が力任せに逸れていく。
「……くっ」
軌道を狂わされたゴウのハンマーが、空を切って激しく地面へと叩きつけられた。
いや、俺が弾いた力によって強引に地面へ振り下ろさせられたのだ。
隙だらけになったゴウの首元へ向け、俺は右手に握るシルラで鋭い閃光のような斬撃を放つ。
「チッ……!」
ゴウは咄嗟の判断で後方へと大きく飛び退き、かろうじて首骨への直撃を避けた。
「……やるな……」
胸元を薄く切られ、血を滲ませながらも、ゴウはまだまだ戦意を衰えさせてはいない。
俺の二刀の間合いを警戒するように、ゴウはゆっくりと後ろへ下がりながら距離を取った。
「こいつでどうだ!!」
ゴウは巨大なハンマーを大振りに振り払った。
その瞬間、俺はカルラとシルラを十字に重なるよう素早く交差させて構える。
二刀を媒介にすることで、互いに反発し合う『聖』と『魔』の魔力干渉が爆発的に強まっていく。
「天魔無碍流『封』」
ハンマーは凄まじい風切り音を立てて空を裂いた。だが、そこから雷光が発せられることはなく、ただの武具の振るいに終わる。
「なッ……なんで技が出ねぇ!?」
困惑したゴウが驚愕の声をあげる。
「お前の広範囲魔法、いちいち対応するのが面倒だからな。魔力の練り込みを邪魔させてもらったわ」
俺は交差させていた二刀を流れるように滑らせ、ゆっくりと鞘へと納めた。
「悪いが、手加減できん。死んでも恨むなよ」
シルラの柄に手をかけ、ぐっと重心を落として前傾姿勢を取る。
「天魔無碍流一刀居合『線』」
天魔無碍流の基礎にして最速の居合。
足へと一瞬で魔力を集中させ、爆発的な脚力と推進力を生み出す。
神速の領域へと跳ね上がるスピードの中、その勢いを脚から腕へ、そして腕から「シルラ」の刃へと滑らかに伝達させていく。
抜き放つ一閃に、すべての魔力と威力を込める。
空気が爆ぜる音と同時に放たれた斬撃は、だがゴウのハンマーの柄によって滑り込みで受け止められた。
耳を刺す高音の金属音が周囲に響き渡る。
「はやッ……!?」
「天魔無碍流二刀居合『混』」
間髪を入れず、左手の「カルラ」を逆手で抜き放つ変則的な二段居合。
先ほどのシルラが描いた閃光と同じ軌跡を辿り、対極の魔力を宿した二撃目がハンマーへと激しく激突した。
対極の魔力が急激に流れ込み、それに慣れていないゴウの身体が内側から拒絶反応を起こす。
それまで感じたことのない異物感に、ゴウの身体が内側から拒絶反応を起こした。
「な……んだ、こりゃ……ッ……」
ゴウの膝がガクガクと震え、耐えきれずに崩れ落ちた。
地面に倒れ伏すまいと、必死の形相でなんとか耐えている。
「終わりだな」
俺は「シルラ」を静かに振り上げた。
しかし、ゴウは血走った目でこちらを強く睨み付けてくる。
「まだだッ……!!」
フラつく身体を押し通し、ゴウはあえて俺の懐へと急接近してきた。
これには少し驚いた。
大半の奴は、本能的に後方へと距離を取ろうとするものだ。
だがこいつは、二刀の斬撃がもっとも活きる間合いを正しく理解し、それを潰すために飛び込んできた。
俺は上がった刀を振るうのではなく、即座に右手へと『魔』の魔力を収束させた。
そして魔力を纏わせた拳を、そのままゴウの顔面へと垂直に叩き込む。
「がッ……!?」
激しい衝撃音とともにゴウの身体が大きく吹き飛び、街道沿いの大木へと背中から激突した。
ぐにゃりと崩れ落ちた男は、そのままピクリとも動かなくなった。
「……やっぱり強いな。召喚者は……」
手応えを確認し、俺はするりと二刀をそれぞれの鞘へと納めた。
殴りつけた右手にジンジンとした鈍痛が走っているのに気づき、軽く手をヒラヒラと振って痛みを逃がす。
「ロゼ?大丈夫か?」
俺は振り返り、終始この戦いを見守っていたロゼへと声をかけた。
「見てた。すげぇ。おっさん、やっぱり天才だな」
ロゼは目を輝かせ、真剣な眼差しをこちらに向けている。
「才能ってよりは練習と慣れだよ。時間を掛ければ誰にでも出来るさ」
俺は倒れたゴウが動かないことをチラリと確認してから、ロゼの元へと歩み寄った。
「おっさん、今日はここで野営するぞ。特訓だ」
ロゼが興奮気味に声を弾ませる。
「……え?ここで?」
俺は倒れているゴウとロゼの顔を交互に見比べた。
「あぁ!早く!」
ロゼはサッと身軽に動くと、馬車を邪魔にならないよう街道沿いへと移動させ始めた。
どうやら本気で言っているらしい。
「……あいつ、どうすんだよ……」
「私たちの馬車の近くにでも寝かせとけ!早く特訓しよう!」
ロゼはニコニコと実に嬉しそうな顔で声をあげた。
今の戦いを見て、何か掴みかけるコツでもあったのだろう。
ここ最近、特訓でずっと肩を落として落ち込んでいたロゼを見ていただけに、そんな晴れやかな姿を見られて俺は少し安心した。
「……まぁ、いいか」
俺はフッと口元に笑みをこぼした。




