6#旅人
「おじちゃん、凄い……」
藁の小屋から這い出てきた子供たちが、俺を見上げて目を丸くしている。
その純粋な瞳には、純粋な驚きが宿っていた。
後ろを振り返れば、先ほどの男も腰を抜かしたまま、ワイバーンの生首と俺の背中を交互に見て、まるで幽霊でも見たかのように目を皿のように広げている。
村の家々からも、事態を理解した住民たちが歓声を上げながら次々と飛び出してきた。
あっという間に、ワイバーンの亡骸の周りには人だかりができていた。
「あんた、本当にありがとうな!」
大柄で筋肉質な男が、感謝の念を露わにして俺の前に立つ。
彼が村のリーダー格だろうか。
「気にするな」
俺は短く返す。
「あんたは冒険者ギルドのやつらか?」
冒険者ギルド……そういえば、そんなものがあったな。
「いや、俺は違う」
「そうなのか?その強さならそうなのかと思ったが……」
男は俺の立ち姿や、腰に下げた刀に視線を這わせ、値踏みするように上から下までジロジロと眺めてくる。
「と、なると旅人か?」
「まぁ、そんなところだ」
俺はあえて詳細は語らず、曖昧に微笑んで答えた。
「ところで、このワイバーンの処理、任せてもいいか?」
俺がそう尋ねると、男は困ったように眉を寄せた。
「処理か……俺らの村じゃ金にできんぞ?」
「金?いや、死体の処理のことだ」
「……?」
男は不思議そうな顔で、俺とワイバーンの亡骸を交互に見つめた。
俺もまた、なぜ彼が「金」という言葉を出したのか理解できず、男の困惑した表情を眺め返した。
「ワイバーンの素材はそれなりの金になるが……いらんのか?」
男の言葉でようやく合点がいった。
彼らにとって、この魔獣は脅威であると同時に、売れば相応の対価になる貴重な資源だったわけだ。
「金はいらない。その代わり、この死体の処理をそちらで引き受けてくれないか?」
俺の申し出に、男は目を見開いて驚いた。
「いいのか? こっちとしては大助かりだが……本当にいいんだな?」
「ああ。その代わりといってはなんだが、今日寝るところと食事だけでも、提供してもらうことはできないだろうか?」
俺がそう尋ねると、男は力強く頷いた。
「もちろん!怪我人もいないし、何より村を救ってくれた恩人だ。俺の家で良ければ一部屋貸そう。大したもてなしはできんが、飯はちゃんと出す」
「助かる」
男の快諾に、俺は肩の力を抜いた。
これで、闇夜の不安に怯えながら野宿するという最悪のシナリオは完全に回避できたわけだ。
空腹で張り付いていた腹も、どこか期待に胸を躍らせている。
周囲を見渡せば、ワイバーンの亡骸の周りで村人たちがまだ騒いでいる。
彼らにとっては、このワイバーンは恐怖の象徴から、一転して明日を生きるための糧へと変わったのだ。
俺はその様子を眺めながら、男に促されるまま村の奥へと歩き出した。




