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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

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42/89

42#王城

「それじゃあ皆の無事と、旅の終わりを祝って……乾杯!」


ミリアーナがグラスを掲げると、俺とロゼもそれに続いた。


グラス同士が重なる澄んだ音が、贅沢な食堂に響く。


一口含んだ赤ワインは、喉を通るたびに芳醇な香りが鼻を抜けた。


洗練された深い味わいだ。

俺は久しぶりの上質な酒をゆっくりと楽しむ。


隣のロゼは、慣れない高級グラスに緊張しているのか、まるで未知の魔物でも観察するように慎重に一口ずつ呑んでいた。


「今回は、私の護衛のために色々と本当にありがとうございました」


ミリアーナが真摯な眼差しで俺たちを見つめる。


すると、隣にいたロゼが椅子の背もたれから背中を浮かせ、背筋をピンと伸ばして答えた。


「ミ、ミリアーナ王女殿下の護衛を出来て、大変光栄に思います!」


ロゼの声がやけに硬い。

その様子を見て、ミリアーナは悪戯っぽく微笑んだ。


「ロゼッタちゃん、いつも通りの話し方でいいからね? 私たちは旅の仲間なんだから」


「そうだぞ。リアもこう言ってくれてるんだし、変に畏まると俺まで落ち着かない」


俺はそう言いながら、目の前に置かれた彩り豊かなカプレーゼを一口運んだ。


瑞々しいトマトの酸味とチーズの濃厚なコクが絶妙で、疲れ切った体に染み渡る。


ロゼはまだ腑に落ちないといった顔で、グラスの縁を見つめながらぼやいた。


「……おっさんはなんでそんなに変わんないんだよ。相手は一国の王女様なんだぞ……」


「身分はともかく、ずっと一緒だったじゃないか」


「……まぁ……確かに……リアはリアだもんな」


ロゼは大きく深呼吸をして、ようやく肩の力を抜いた。張り詰めていた空気が少しだけ緩むのを感じる。


「しかし、なんでリアがあんなところで襲われていたんだ?」


俺は食事の手を止め、ミリアーナに率直な疑問を投げかけた。


王族が護衛もそこそこに、別の大陸で襲われた理由。


それはあまりにも不自然だ。


ミリアーナは少しだけ視線を泳がせ、チラリとロゼの方を気にするように見てから、困ったような微笑みを浮かべた。


「それは……また後日、改めて詳細をお話ししますね」


ロゼがいると話しにくいことなのだろう。


あるいは、もっと込み入った政治的な事情が絡んでいるのか。


俺はそれ以上追求するのは野暮だと悟り、深追いはやめておくことにした。


「あと、お二人が討伐してくれた飛龍の件についても話しましょうか」


ミリアーナは表情を切り替え、今度はニコリと微笑む。


「リアが報酬くれるのか?」


ロゼは、いつもの空気を完全に取戻した様子で、目の前の料理を頬張りながら食い気味に聞いた。


「はい。私が個人的に依頼を出したものですから……報酬は今回の護衛の件と合わせて、お二人で白金硬貨3枚でいかがでしょうか?」


カラン、と乾いた音がして、ロゼが持っていたフォークが床に落ちた。


「そ、そ、そんなに貰えるのか?!」


ロゼはガタリと椅子を押し返して立ち上がり、ミリアーナに向かって声を上げた。


驚きで顔が真っ赤になっている。


「はい。これならロゼッタちゃんも満足してもらえるでしょう?」


ミリアーナが優しく微笑みかけると、ロゼは言葉を返すのも忘れたかのように、ただひたすら勢いよく首を縦に振っている。


「……そんなに高いのか?」


俺が隣のロゼに小声で尋ねると、彼女は興奮で肩を震わせながら声を潜めて教えてくれた。


「白金硬貨は金貨100枚分だ!つまり白金3枚ってことは、金貨300枚分!私たちで山分けしても……金貨150枚分だぞ!」


「おぉ……それなら、当分は食う飯の心配はいらなくなるな」


俺は淡々と感想を述べ、グラスを傾けて赤ワインを一口。そして、手近にあった焼き加減絶妙な赤身の肉を口に運んだ。口の中で溢れる肉汁とワインの渋みが溶け合い、思わず笑みがこぼれる。


「それとは別に、ロゼッタちゃんにはランクの昇格もイトューヒ王国から冒険者ギルドへ強く推薦しておきます」


「ってことは、私Aランクになれるのか?!」


ロゼの瞳が大きく見開かれる。ミリアーナはそんな彼女の様子を、楽しそうにクスクスと笑いながら見守っていた。


「やったな、ロゼ」


俺がそう声をかけると、ロゼは俺の方を向いて、ぼんやりとした表情で座り直した。その瞳には、今しがた告げられた現実がまだ完全には馴染んでいないような、純粋な感動が浮かんでいる。


「あ、あぁ……なんか、夢みたいだよ。ずっと目指してた場所が、こんなに早く……」


実感が湧いてくるのか、彼女の手が少し震えていた。その姿を見ていると、こちらの頬も自然と緩む。


「トールさん。もし望まれるのであれば、あなた自身もロゼッタちゃんと同じくAランクに昇格するよう手配いたしますが……どうされますか?」


ミリアーナは俺の眼差しを真っ直ぐに見て、穏やかに問いかけてきた。


「俺はいいよ。急ぐ理由もない。これまで通りしっかり依頼をこなして、自分のペースでのんびりとランクを上げるよ」


俺はそう言ってワイングラスを軽く掲げた。


隣でコツコツと頑張ってきたロゼを見ていると、俺だけ一気にAランクなんてズルをしているようでなんだか落ち着かないからな。


「……承知いたしました。トールさんの意思を尊重します」


ミリアーナはゆっくりと頷き、俺の選択を肯定してくれた。


「……それと、これは私個人の気持ちなんだけど……もしよかったら、ロゼッタちゃんの大剣をイトューヒ王国で新調させてくれないかな? 最高級の素材と、うちの工房の名匠を用意するわ」


ミリアーナの申し出に、ロゼは目を丸くした。


「……私、これ以上貰ったら嬉しすぎてその場でぶっ倒れちゃうよ」


そう言いながらも、彼女は目の前のワインをガブガブと豪快に呑み干している。


ワインが空になるたびに、背後に控える執事が無言でボトルを手に取り、音もなくグラスを満たしていく。


その優雅なサービスにすら気づかないほど、ロゼは興奮と喜びで浮き足立っていた。


「ロゼッタちゃんが引き受けてくれて、本当に嬉しかったから……これは私からのお礼よ。ただ、1週間ほど時間はかかると思うわ。それまではお城でゆっくり過ごしてくれる?」


「……1ヶ月だって待つよ! おっさん、聞けよ! 新しい大剣だぞ!」


ロゼッタは顔を真っ赤にし、子供のように声を弾ませながら、目の前の料理を平らげ、さらにワインを煽る。


その無邪気な姿に、ミリアーナも先ほどより柔らかな表情を崩した。


「ありがとう。……トールさんももちろん、お二人分の部屋を用意しますので、1週間ほどこのイトューヒでゆっくりとくつろいでください」


「あぁ。そうさせてもらうよ。せっかくだ、王国の美味いもんでも探しながら、羽を伸ばすことにする」


俺はそう答え、改めてグラスを口元へ運ぶ。


イトューヒでの滞在は、俺たちが思っていた以上に贅沢な休息の時間となりそうだった。






酔いつぶれたロゼを背負い、俺はリアに先導されて広い廊下を進んでいた。


あのペースでワインを煽っていれば、こうなるのも必然だ。


背中のロゼは幸せそうな寝息を立て、たまに「……まだ、呑める……」と寝言をこぼしている。


「ここでいいのか、リア?」


重厚な扉の前で足を止め、尋ねた。


「はい。ベッドに横にしてあげてください」


リアが扉を開けてくれる。俺は室内に入ると、ふかふかのベッドへロゼを丁寧に降ろした。


彼女は起きる気配もなく、むにゃむにゃと口を動かしている。


その寝顔を見届け、俺たちは静かに部屋を出た。


「トールさんも、今日はゆっくりお休みくださいね」


リアが廊下で俺を見上げ、柔らかく微笑みかける。


王族としての威厳を纏った姿だが、その瞳には旅の道中で見せていたリアそのものの温かさがあった。


「あぁ、そうさせてもらうよ……ただ、城が広すぎて、自分の部屋までたどり着ける自信がないんだ」


俺が苦笑いして言うと、リアはクスクスと楽しそうに声を上げた。


「私がお部屋まで案内します」


そう言って彼女が歩き出す。静まり返った夜の城内を、二人の足音だけが響く。


「……トールさん……」


静寂の中、ふとリアが呼びかけてきた。


「ん? どうした?」


「……滞在している1週間でいいので……毎日、遊びに来てもいいですか……?」


彼女は足を止め、振り返りざまに上目遣いで俺を見つめた。

そのまっすぐな視線に、俺の鼓動が少しだけ早まる。


「あぁ。リアも王女として戻ったばかりで忙しいだろうし……リアの時間が許す限り。俺も会いたい」


思わず口から出た言葉に、リアの顔がパッと華やいだ。


「……よかった……」


彼女は小さく安堵の息を漏らし、恥ずかしそうに視線を落として、頬を淡い桜色に染めた。


その横顔を見て、俺の胸の奥が締め付けられる。


どれくらい歩いたのか。城の廊下は長く、静かで、まるで二人だけの時間が続いているような錯覚を覚えた。


やがて見覚えのある扉の前で、俺は足を止めた。


「……トールさん。おやすみなさい」


「おやすみ、リア」


短い別れの言葉を交わし、俺は部屋の中へ入った。


帯刀ベルトを外してベッドへ身を投げ出すと、全身の力が一気に抜けていく。


意識するなという方が無理だ……


明日からの滞在を想いながら、俺は深い眠りの底へと堕ちていった。

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