4#岐路
城門を潜り抜ける際、リュウが轟音とともに柱を殴りつけた。
凄まじい衝撃が石造りの構造を粉砕し、巨大な城門が崩落していく。
だが、その崩壊の軌道は妙に整っていた。
サキが掌をかざし、風魔法で瓦礫の飛散を精密にコントロールしているからだ。
彼女なりの、兵士たちへの最低限の慈悲だろう。
俺はそれを見て取り、無言で頷いて瓦礫の山を飛び越えた。
城外への出口に、門番の姿はない。
城内での騒ぎに駆けつけたのか、あるいは恐れをなして逃げ出したのか。
どちらにせよ、これ幸いと俺たちは広々とした城下街へと歩みを進めた。
「さて。ここからは自由行動だな」
リュウが足を止め、俺とサキに向き直って豪快に笑う。その金髪が、陽光を弾いてギラついた。
「そうね」
サキもまた、先ほどまでの冷徹な表情を和らげ、小さく微笑む。
「私は自分の国を作るわ」
「おー! なんかサキっぽいわ!」
リュウが声を上げて笑う。俺もまた、かつての記憶を重ねて頷いた。
「昔から学級委員長気質だったもんな」
「やめてよ。学級委員長なんていう低い志と一緒にしないで」
サキはそう言いながらも、どこか楽しげに笑っていた。
「俺はやりたい放題やってみるよ。この世界なら欲しいもんなんでも手に入りそうだからな」
リュウがニヤリと口角を吊り上げる。
欲望に忠実なその姿勢は、二十年経っても微塵も揺らいでいない。
「それもお前らしいよ。変わったのは髪の色だけだな」
俺がそう言うと、リュウが好奇の眼差しで俺を見てきた。
「そういうトールはどうすんだよ。なんか目的があるとか言ってなかったか?」
「あぁ」
俺は迷わず答えた。
「俺は、愛を探す」
その瞬間。
周囲の喧騒すら遠のくような、静寂が訪れた。
それを張り裂くような二人の爆笑が空に響き渡った。
リュウは腹を抱えて笑い転げ、サキもまた肩を震わせて堪えきれないといった様子で笑っている。
「お前、愛って……今どき若者でも言わんぞ!」
リュウの笑い声は、どこまでも突き抜けていた。
「愛ってなんなのよ!!」
サキが目尻に浮かんだ涙を拭いながら、なおも笑いを堪えきれない様子で突っ込んできた。
少し考えたがうまい言葉が見つからない。
「わからん」
その言葉にサキもリュウもまた腹を抱える。
「それを探しに行くんだよ」
俺は肩をすくめ、短く溜息を吐いた。
照れくさいわけじゃない。
ただ、今の俺にはそれ以外に言いようがないのだ。
「じゃあ、またな」
背中越しに別れを告げ、俺は三叉路の真ん中の道へと足を踏み出した。
「どっかで会えたらよろしくな!」
リュウが背後で声を上げ、陽気に手を振りながら左の道へと消えていく。
「国作ったら遊びに来なさいよね」
サキもそう言い捨てて、凛とした足取りで右の道を選んだ。
背後からは、崩落した城門が轟音を立て、土煙とともに本格的な崩壊を始める音が聞こえてくる。
王国の騒乱も、兵士たちの追っ手も、今はもう遠い国の出来事のように感じられた。
視界の先に広がる、どこまでも続く平原を見つめる。
二十年ぶりに戻ったこの世界で、俺はシルラとカルラを腰に携え、ただ静かに歩みを進める。
愛を探す旅は、ここから始まる。




