3#拒絶
「英雄たちよ。事態は一刻を争う」
王の言葉に、先ほどまで漂っていた懐旧の情は霧散した。
玉座から立ち上がった王は、威厳に満ちた足取りで数歩歩み寄り、俺たち三人を見据える。
「魔王が再びこの世界に復活したのだ。頼む、この世界を再び救ってくれ。魔王を討ち滅ぼし、平穏を取り戻してほしい」
王の切実な要請が、冷え切った石造りの部屋に重苦しく響き渡る。
静寂の中で、俺たちは顔を見合わせた。
言葉を交わすまでもなく、そこには共通の意思が浮かんでいた。
「一回は救ったんだ。二回目はパスだ」
リュウが鼻で笑い、王に対して何の躊躇もなく背を向ける。
「興味ないわ。本はありがと」
サキもまた、魔導書を小脇に抱えたまま、冷淡な足取りでリュウに続いた。
「俺には俺の目的がある」
俺も二人と同様に背を向け、出口へと歩き出した。
「馬鹿な……そなた達は英雄ではないのか!」
背後で王の掠れた叫び声が響いた。
「頼む……話を聞いてくれ!」
王の顔から威厳が消える。
必死の声が後ろから聞こえる。
「一回は救っただろ。それで勘弁しろよ」
リュウは振り返らずに手を上げた。
「もっと適任を探しなさい」
興味無さそうな声でサキは呟いた。
「止めろ!そいつらをこの城から出すな!」
王の号令が召喚の間に轟くと同時に、石造りの回廊に激しい足音が響き渡った。
重厚な鎧の擦れる音。
数え切れないほどの兵士たちが、怒号を上げながらこちらへと殺到してくる。
城内は一瞬にして騒然となった。
静寂は破られ、緊迫した空気が俺たちの肌を刺す。
行く手を塞ぐように、銀色の鎧に身を包んだ兵士たちが槍を構え、壁を作るように立ち並んでいく。
俺は歩みを止めず、シルラの柄をわずかに握り直した。
リュウとサキも、兵士たちの増殖を気にする様子もなく、平然と歩き続けている。
「とりあえず、城下街のほうまで行くか?」
リュウが肩をすくめながら、真正面から突っ込んできた兵士を、まるで服についた埃でも払うかのような無造作な動作で横に弾き飛ばした。
重厚な鎧が空中で歪み、兵士は壁に叩きつけられて沈黙する。
「そうね。こんな騒がしいところじゃ、話もできないわ」
サキが呆れたように溜息をつくと、彼女の周囲に紅蓮の炎が奔流のように咲き乱れた。
熱気に阻まれ、兵士たちは足を踏み出すことすら叶わず、ただその場で立ち尽くすしかない。
「あんまり本気でやるなよ。怪我させたらどうする」
俺は注意を促しながら、背後から殺気と共に突き出された槍の穂先を捉えた。
シルラをわずかに抜き放つ。風を切り裂く微かな音と、鋼の擦れる硬質な響き。
兵士たちの手元から槍の穂先だけが、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗に切り飛ばされた。
「……なっ!?」
兵士たちは槍の柄を見つめ、呆然と固まっている。
俺が瞬時にその切断を行なったことを、彼らの動体視力では認識できなかったのだろう。
圧倒的な力の差を見せつけられ、兵士たちの足取りが目に見えて鈍る。戦意を喪失させるには、これくらいの「理解」で十分だ。
俺たちはその隙間を、何事もなかったかのように悠然と歩き抜けていった。




