2#遺物
「トール、リュウ、サキ。五百年前の勇者パーティーのうちの三人で間違いないな?」
王の装束を纏った男が、確信を込めた瞳で俺たちを凝視する。その問いかけに、リュウが呆気にとられたような顔をした。
「俺らの名前だけど……五百年前?」
リュウが俺とサキを交互に見る。俺たちにとっては、二十年前にこの世界を後にしたばかりだ。
「実際には二十年前だけど……おおかた、こっちの世界とあっちの世界で時間の流れが違うんでしょう」
サキが淡々とそう分析する。
リュウはサキの言葉を聞きながら、何かを思い出したのか、目を見開いて彼女を見た。
「ってことは、あの可愛かったマリアンヌちゃんももう死んでんのか?!」
「知らないわよ!」
サキが即座に突き放すように返す。俺も記憶の端を辿り、小さく呟いた。
「そういえば、そんな子いたな……」
俺たちが自分たちの記憶を整理している間、王は一言も発さず、俺たち三人をじっと観察し続けていた。
その鋭い眼差しには、伝説の英雄として召喚されたはずの俺たちが軽口を叩いていることへの困惑と、疑念が混じっているように見えた。
「あー、ごめんごめん。続けて!」
リュウが軽く手を振って促す。王は無言のまま、背後に控えるローブを纏った者たちに合図を送った。
数人の男たちが歩み寄り、恭しく差し出されたトレイの上には、見覚えのある品々が乗せられていた。
二本の対の刀。
ガントレットグローブ。
分厚い魔導書。
「この装備に見覚えはあるか?」
王の問いかけが、再び静寂の広間に響く。
「...この本」
サキは迷いのない動作で魔導書を手に取り、慣れた手つきでパラパラとページをめくった。
「懐かしいわね...」
吸い込まれるように文字を目で追い、彼女の表情に確信が宿る。
「おぉ!歳食っても馴染むもんだな!」
リュウは差し出されたガントレットグローブを手に取り、両手にはめた。
重厚な金属の摩擦音。彼は拳を何度か握り込み、その感触を確かめながら、二十年前の記憶を噛みしめるように目を細めた。
「俺の刀か……」
俺はトレイに置かれた二振りの柄を掴んだ。
重み、重心のバランス。
何一つ変わっていない。
親指で鍔を押し、わずかに刀身を覗かせる。冷徹に光を反射するその刃には、かつて刻み込んだ誓いすらも色褪せずに宿っているようだった。
「誰も読めぬ本を読み、英雄の篭手を当然のように纏い、魔刀シルラを軽々と扱うか……。そなたたちは、まことの英雄達のようだな」
王がどこか安堵したような息を吐き、ようやく疑念の膜が晴れたような表情を見せる。
その様子を横目に、俺はトレイの上にあった帯刀ベルトを腰に巻き付け、二振りを慣れた手つきで下げた。
「シルラ!そうだ、お前が付けた名前だったな!懐かしいな!」
ガントレットを装着し終えたリュウが、嬉しそうに俺の腰元を指差す。
「そうだ。ちなみに、もう一本はカルラ。……正直、今聞くとちょっと恥ずかしいな……」
俺は自身の腰に下がる二振りに軽く触れた。
若さゆえの昂揚で名付けた名前。
35歳になった今となっては、むず痒い記憶だ。
「まぁ、しゃあない!俺ら中二病真っ盛りの頃だったからな!」
リュウが豪快に笑い飛ばす。その横で、サキが本を片手に、ふっと口元を綻ばせた。
「正確には中三だったけどね」
「……あんまり笑うなよ。あの頃は、それが最高にカッコいいと思ってたんだよ」
俺は小さくため息を吐く。




