1#空白
視界が白く染まる。街を歩いていたはずの俺は、動いているような、あるいは停止しているような不思議な感覚を味わっていた。
この感覚は覚えがある。
20年前の記憶をなぞっていた。
やがて、白濁した空間が少しずつ晴れてくる。
足元に床の感触が戻ってくる。
白が晴れ渡るころには歩いていた街ではなく、赤い絨毯が敷かれた大きな部屋。
周りには怪しげなローブを纏った人達が遠巻きに俺を囲んでいる。
いや、俺らか?
俺以外にも人がいたようだ。
短髪で金髪の男。
茶色の長い髪が美しい女。
パッと見て2人とも俺と同い年くらいに見える。
「成功だ。やったぞ!」
ローブを深く被った者たちの歓喜の声が、石造りの広間に反響する。
この空気だ。
皮膚を刺すような魔力の密度。
現実世界では決して感じることのなかった、濃密で重苦しい気配。
「あれ?お前トールじゃね?」
聞き覚えのある声に振り返ると、ジャージ姿の金髪の男が俺をジロジロと観察していた。
「久しぶりじゃねーか!俺だって!リュウだよ!」
男の言葉に、俺は眉をひそめて顔をまじまじと見つめる。確かに、その骨格や目元の鋭さは、かつての記憶にある男そのものだった。
「タツヤか!驚いたよ。いつの間にそんな金髪なんて派手な髪型にしてんだよ」
俺は思わず口元を緩め、笑顔でそう答えた。
「会社辞めたから好きにしてやろうと思って金髪にしてみた!ってか竜也はやめろって!」
リュウがそう言って、昔と変わらない様子で肩を回してくる。
その屈託のない笑顔を見ると、二十年という時の隔たりが嘘のように感じられた。
「あんたらは変わらないわね」
背後から、事務的で硬質な声が聞こえた。振り向くと、凛としたスーツ姿の女がこちらを見つめている。
「絶対サキだな」
リュウが肩を組んだまま、女の顔を覗き込む。
「この冷たい言い方はサキだ」
俺もそう答えると、サキは不満そうに声を上げた。
「なんでちょっと悪口なのよ!」
その反応に、リュウは嬉しそうに声を上げて笑った。
「いやお前も変わらねーわ!久しぶりだな!」
「勇者パーティーの英雄達よ」
厳かな声が広間に響き渡る。俺たちは肩を組んでいた手をほどき、同時に音のした方へと顔を向けた。
そこには、中世ヨーロッパの王族を思わせる豪奢な装束を纏った男が立っていた。
「なんとなくだけどわかったぞ。俺は」
リュウが俺の方を向き、短く呟く。
「たぶんお前のその『なんとなく』は当たりだ」
俺もまた、リュウの言葉に頷きを返す。
背後から、サキが怪訝そうな声を漏らした。
「……二回目の転生とかってあるの?」
サキの問いに、周りをを見渡す。
見覚えのある紋章や、空気を漂わせる魔力の質に、確信めいたものがこみ上げる。
「わからんが……間違いなくここは、昔俺たちが救った世界だろ」
俺は周囲を一度だけ見回し、そう答えた。




