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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

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37/89

37#飛天

飛龍の黄金の瞳が、獲物である俺を真っ直ぐに射抜いている。


明らかに俺から放たれる魔力を危険視し、威嚇の姿勢を崩さない。


まずは先制の一撃をと、力を込めて踏み出した瞬間だった。


飛龍の右の鉤爪が、視界を切り裂くように横薙ぎに繰り出される。


ーーーーー速い


予想を遥かに超える速度に、身体が反射的に動く。

俺は抜いたシルラで正面から爪を迎え撃った。


硬質な金属音が峡谷に木霊(こだま)する。


だが、直撃の衝撃は俺の想定を遥かに凌駕していた。まともに受け止めれば腕が弾き飛ばされる。


「くっ……!」


俺は咄嗟に体を空中で回転させ、その質量をいなして受け流す。


着地するまでの刹那、右腰に差していたもう一振りの刀、『カルラ』を逆手で引き抜いた。


着地の衝撃が足首に伝わるよりも早く、左の鉤爪が新たな凶器となって迫るのが見えた。


回避は間に合わない。


「天魔無碍(てんまむげ)流。二刀『遍(へん)』」


俺は即座にシルラとカルラへ魔力を奔流のように流し込む。


二振りの刃が互いに共鳴し、防壁の如き軌道を描いた。


鉤爪が刀身と接触する瞬間、俺は刃を滑らせてその圧倒的な圧力を横へと逸らす。


鉤爪は俺の脇腹をなぞるようにして、ギリギリの距離を空しく通り過ぎた。


攻撃が速すぎる……


冷や汗が背筋を伝う。

飛龍の追撃を凌いでいる間に、ロゼッタが渾身の魔力を大剣に込める気配が横から伝わってきた。


「――ッ!!」


ロゼッタが地を蹴り、飛龍の死角へと躍り出る。渾身の力で振り下ろされた大剣が、飛龍の脇腹に深々と叩き込まれた。


硬質な鱗が砕ける金属音が高く響き、飛龍の防御を破って数枚の鱗が空中に舞い散る。


だが、手応えがあったのはそこまでだった。


飛龍は痛みを微塵も感じていないかのように、ロゼッタをつまらない虫けらでも見るような冷徹な眼差しで捉える。


次の瞬間、唸りを上げた尻尾が鞭のようにしなり、ロゼッタの体へと無慈悲に叩き込まれた。


ロゼッタの身体が紙屑のように宙を舞い、岩壁に叩きつけられる。


「無事か?!」


俺は飛龍から視線を一瞬も逸らさぬまま、背後へ声を飛ばした。


「いける!!!!!」


地面を叩くような力強い返事が返ってくる。


その言葉に、俺は胸の奥で安堵の息をついた。


それは単なる生存報告ではない。

『私ならこの飛龍の硬い鱗を切り裂ける』という、宣言だと確信したからだ。


俺は迷わず地を蹴り、飛龍の懐へと飛び込んだ。


狙うは首元。

一撃が無理でも、首に深い刻みを入れることができれば、必ず隙は生まれる。


「――ッ!」


二刀に魔力を流し込み、渾身の力を込めて叩き込む。


鱗が弾け飛ぶよりも速く、シルラとカルラの刃が強固な守りを裂き、その下の肉を断ち切った。


鮮血が舞い、飛龍が苦悶の声を上げる。だが、同時に俺は背筋を走る冷たい予感に襲われた。


ーーーダメだ、浅い


致命傷には程遠い。


俺は即座に飛龍のカウンターに備えて身構えたが、飛龍は俺を攻撃してこなかった。


代わりに、その黄金の瞳が怒りで真っ赤に燃え上がる。


飛龍は地を踏み抜き、大気を震わせる咆哮と共に、天高くへとその巨躯を翻した。


空を支配する領域へ、あいつは逃げたのではない。

空から殺意を振り下ろすための飛翔。


「このまま地面にいてくれりゃ楽だったんだがな……」


空を見上げ、俺は苦々しく呟く。

飛龍の胸元が赤く発光し、大気を焦がす熱量が膨れ上がっていく。


「おっさん!!くるぞ!!」


ロゼッタの叫びと同時に、天空から奔流のような炎のブレスが降り注いだ。


「天魔無碍(てんまむげ)流。二刀『流(りゅう)』」


俺は二振りの刃から対極の魔力を流動させ、迫りくる熱風を流させる。


炎はその斬撃が作り出した流れのまま、俺周囲を舐めるように逸れていった。


隣ではロゼッタが、巨大な大剣を盾のように構えてその直撃を耐えている。


魔力で全身を防御しているものの、彼女のトレードマークである赤い髪が、周囲の熱気でジリジリと焼け焦げているのが見えた。


「くそっ、このブレス……そう何度も受け止められるかよ!」


ロゼッタは受け止めきれなかった熱を振り払うように大剣を大きく薙ぎ、怒鳴るように叫んだ。


彼女の限界が近い。


俺は即座にロゼッタから距離をとり、ブレスの標的を分散させる。


「あと一度だけ耐えれるか?!」


俺が叫ぶと、天空の飛龍が再び大きく息を吸い込み、喉元を眩い炎色に染め上げていた。


「一度だけだぞ!!」


ロゼッタは焼け焦げた髪を気に留める様子もなく、大剣を再び構え直して叫んだ。その瞳には、退かないという強い意志が宿っている。


「充分だ」


俺は短く応じる。


再び天空が赤く染まり、殺意を孕んだ業火の奔流が降り注いだ。


俺は全神経を研ぎ澄まし、『流(りゅう)』を展開する。


斬撃が炎を切り裂き、俺の体を避けていく。


隣では、ロゼッタが咆哮のような声を上げながらブレスを大剣で受け止めていた。


彼女の表情は苦悶に歪み、限界を超えた熱気が肉体を苛んでいる。


轟音と熱波が収まり、炎が途切れた。


「ロゼッタ!!大剣で俺を飛龍のところまでぶっ飛ばせ!!!」


俺は二刀を鞘へ納めると、地を蹴って彼女の元へ駆け寄った。


俺の意図を察したのか、ロゼッタは一切の迷いなく大剣を背後へと振りかぶる。


「ぶっ飛べ!!!!」


彼女が叫びと共に大剣を叩きつけると同時に、俺は全身のバネを使って跳躍した。


ロゼッタが放つ大剣の面が俺の足裏を強烈に押し出し、その推進力と俺の跳躍が合わさる。


視界が歪むほどの超速で、俺は天空の飛龍へと肉薄した。


着地など考えていない。

思考の全ては、この一瞬に集約されていた。


ただ、目の前の鋼の鱗を切り裂くことだけを考えて。


再び喉元に炎を溜め、ブレスを放とうとしていた飛龍の動きが、あまりの速度にわずかに鈍る。


俺は鞘から抜かぬまま、シルラの柄を強く握りしめた。


その瞬間、世界がスローモーションのように静まり返る。


目の前の飛龍が、一瞬、巨大な岩塊のように感じられた。


俺が狙うのは、その巨大な翼の付け根だ。


「天魔無碍(てんまむげ)流。一刀居合『線(せん)』」


鞘から解き放たれたシルラの一閃は、音を置き去りにして空気を切り裂く。


狙い違わず、飛龍の左翼が、まるで紙のように断ち切られていく。


飛龍が苦悶の咆哮を上げ、鮮血が噴き出す。


だが、俺はその返り血を浴びるよりも早く、眼下のロゼッタに向けて、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。


「ロゼ!!!!今だ!!!!」


ロゼッタは既に巨大な大剣を天にかざしていた。


全身から溢れ出るような膨大な魔力が、大剣へと注ぎ込まれていく。


「烈火(れっか)」


ロゼッタの声は、この状況にあって不気味なほどに静かだった。


片翼を失った飛龍は、抵抗空しく高度を下げ、錐(きり)揉み状態で地へと墜ちていく。


死の寸前にあっても、その傲慢なプライドは折れていない。


「豪火(ごうか)」


飛龍は落下しながらも、最後の力を振り絞り、ロゼッタに向けて渾身のブレスを吐き出した。


先ほどまでとは比較にならない、濃密な死の炎が彼女を襲う。


だが、ロゼッタはその業火の奔流から目を逸らさなかった。


「灰塵斬(かいじんざん)!!!!!!」


地を蹴り上げ、跳躍と同時に大剣を振り下ろす。


その大技は、迫りくるブレスをその膨大な魔力と圧倒的な重量で正面から真っ二つに切り裂いた。


二つに分かれたブレスは彼女の脇を通り抜け、背後の峡谷の壁を灼く。


ブレスを切り裂いた勢いのまま、大剣は飛龍の頭部へと振り下ろされた。


強固な鱗も頭蓋骨も、その一撃の前では無意味だった。


飛龍の巨大な頭部が、左右へと分かれる。


ズシン、と。


一拍遅れて、飛龍の巨大な骸が重い音を立てて峡谷の地面に激突した。


濛々と立ち込める土煙が、戦いの終わりを告げていた。


ロゼッタが手にした大剣は、限界を超えた負荷に耐えかねたのか、まるで砂の彫刻のようにパラパラと音もなく崩れ去っていった。


俺は足の裏に魔力を集中させ、衝撃を殺しながら飛龍の巨体の上へと降り立つ。


お互い、肩で激しく息をしながら、足元をふらつかせつつもゆっくりと距離を詰めていく。


「……やっと、ロゼって呼んだな」


ロゼッタは顔に付着した返り血を拭うこともせず、フラフラと揺れる足取りで、そんなことを呟いた。


「ロゼの言う通りだ……ロゼッタは、呼びづらい」


俺は飛龍の冷たくなり始めた横腹のそばへ、どさりと腰を下ろした。


ロゼッタもまた、糸が切れたようにその隣へと座り込む。


峡谷には、風の音と俺たちの荒い呼吸だけが響いている。


言葉を交わすよりも先に、二人は互いの無事を確認するように沈黙を共有した。


生きている。その事実だけで、今の俺たちには十分だった。


安堵感がじわりと胸の奥から広がり、戦いの高揚感がゆっくりと熱を冷ましていく。


俺たちはただ、飛龍の亡骸に持たれながら、

空を見上げていた。

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