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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

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33/89

33#架橋

食べ終えた後はリアを荷台に休ませ、俺とロゼッタで交代で見張りにつきながら夜を明かした。


朝食は簡素に干し肉をかじる。

昨晩の温かいスープも良かったが、こうして硬い干し肉を噛み締めていると、何故かひどく心が落ち着く。


日が昇ると同時に再び馬車を走らせた。


昼過ぎにはロゼッタと交代し、俺が御者台に座る。


やはり見ているのと自分で手綱を握るのとでは訳が違う。

慣れない操縦に四苦八苦し、そのたびに隣のロゼッタに笑われながらも、日が沈む頃にはどうにか体裁を保てる程度には慣れてきた。


俺たちは「ルーンメルカトーレ」の大陸を抜けるまでは野営を繰り返そうと決め、昨日と同じように近くに川が流れる場所を見つけては夜を過ごした。


そして翌日。


荷台からロゼッタとリアの楽しげな話し声が聞こえてくる。


それを背中で聞きながら、俺はやっと慣れた手つきで馬車を進めていた。

すると、視界の端に青い境界線が広がり始める。


「海か……ってことは、そろそろイトューヒの大陸に近いのか?」


俺は荷台の二人に問いかけた。するとリアが身を乗り出し、前方を指さす。


「あの橋に向かってください」


彼女が示した先には、巨大な建造物が架かっていた。二つの大陸を繋ぐ巨大な橋だ。


「凄いな……ここから見てもかなりの大きさだぞ」


その圧倒的なスケールを前に、俺は思わず感嘆の声を上げた。


まるで空に架かる道のように、その橋は堂々と海の上を跨いでいる。


俺は未知の旅路の先にある壮大な景色を見据え、力強く手綱を引いた。


橋まで辿り着くと、その巨大さはさらに威圧的なまでに迫ってきた。


リアは素早く荷台から降りると、橋の入り口を固める番兵たちのもとへ歩み寄った。


なにか見せ、短いやり取りを終えて戻ってくる。


「先に進みましょう」


リアが荷台に乗り込むのを確認し、俺は手綱を握り直して馬車を走らせた。


彼女が番兵に見せたものが何なのか――今はそれを詮索する余裕もないほど、目の前の光景に心を奪われていた。


「おい!ロゼッタ、凄いぞ!」


思わず声を上げると、それまで荷台にいたロゼッタがひょいと身軽に御者台へ移ってきた。


「確かに、凄い景色だな……」


ロゼッタもまた、その壮観な眺めに息を呑んだようだ。


橋の上は海風が吹き抜け、見渡す限り青い海が広がっている。


まるで海の上を直に走っているような不思議な錯覚に、俺は思わず御者台の手すりを強く握りしめた。


空と海が溶け合うような場所を、馬車はガタゴトと音を立てて進んでいく。


橋の下を覗くと、吸い込まれそうなほど遠くに、白い波が幾筋もの模様を描く。


その上をカモメが悠々と羽ばたき、一枚の絵画のような景色が広がっていた。


隣のロゼッタの赤い髪が海風で揺れている。


イトューヒ王国へ続くこの巨大な架け橋は、俺がこれまでに見たどの道よりも雄大で、そしてどこか幻想的ですらあった。


しばらく海の上を走り続けると、霧の向こうから地平線が姿を現した。あれが目指すべきイトューヒ大陸だ。


橋の出口で、リアは入り口の時と同様に番兵たちへ何事かを通達し、速やかに通行の手続きを終えた。


戻ってきた彼女は、荷台に戻るのではなく、そのまま俺の隣、御者台の空いている席に腰を下ろした。


「ここからは、私が案内しますね」


「あぁ。頼む」


俺はリアの方を向いて微笑み、手綱を動かして馬車を進めた。

リアの先導により、見知らぬ土地の道を迷うことなく進んでいく。


日差しが少しずつ傾き、空が茜色に染まり始めた頃、リアはこの先に小さな村があるから、今夜はそこで足を止めようと提案した。


「やったぜ!酒場ある?」


荷台のロゼッタが弾んだ声でリアに問いかける。


「確かあったはずよ。今日はゆっくり休みましょ」


リアはそう言ってクスクスと笑みを漏らした。


沈みゆく夕日に照らされた彼女の横顔は、どこか儚げで、俺は思わず目を奪われた。


束の間の安らぎが混ざり合う時間が流れていく。


「おっさん。待て」


ロゼッタの鋭い言葉に、俺は即座に馬を止めた。


周囲の空気が一変する。


馬が低く鼻を鳴らし、耳を伏せた。


俺は御者台から飛び降りると、怯えて荒くなっている馬の首筋を優しく撫で、その昂ぶりを鎮めた。


手は自然と腰の刀の柄にかかる。


「おっさんはリアを守っとけ」


ロゼッタが俺の前に躍り出た。


背負っていた大剣を抜き放ち、獲物を狙う獣のような鋭い眼光で暗闇を睨みつける。


「わかった……頼んだ」


俺は御者台のリアを背に庇うように立ち、周囲の森の気配を探る。


闇の中から、魔力をまとった狼が四体、じりじりと距離を詰めてきた。


「大技使うまでも無いな」


ロゼッタが呟くと同時に、地面を蹴った。踏み込みの衝撃が風を巻き起こす。


飛びかかってきた二匹を、彼女は鋭い一振りで交差するように真っ二つにした。


さらに後方から襲いかかるもう一匹に対し、ロゼッタは微塵の動揺もなく大剣を振り下ろす。


どしゃりと重い音がして、魔物の残骸が地面に伏した。


「一匹そっちいった!」


ロゼッタの声とほぼ重なるように、残る一匹が俺に向かって跳躍する。


「大丈夫だ。もう終わってる」


狼の動きがぴたりと止まった。


遅れて、奴の首が力なく滑り落ちる。俺は刀を鞘に納め、何事もなかったかのようにその場に立った。


「相変わらず早いなー……」


ロゼッタは大剣を背負い直し、肩をすくめる。


その様子を御者台から見ていたリアが、小さく声を上げた。


「ロゼッタちゃんも凄い強いんだね……」


「まぁな。おっさんほどじゃないけどな」


ロゼッタは照れ隠しのように鼻を鳴らすと、軽やかに荷台へと乗り込んだ。


「ほら!早く行こうぜ!今日こそはビール呑みたいぞ私は」


彼女の切実な願望に、俺は思わず苦笑した。


「俺もその意見に賛成だ」


御者台に腰を下ろし、リアの隣に座る。


俺は手綱を握り、村の灯りを探して馬車を急がせた。


この静かな夜に、喉を鳴らして飲むビールを楽しみにしながら。

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