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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

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29/38

29#救援

煙の発生源に飛び込んだ俺の目に飛び込んできたのは、無残に大破し、黒煙を上げる一台の馬車だった。


その傍らでは、一人の女性が剣を構え、孤軍奮闘している。


彼女を取り囲んでいるのは、斧や剣を剥き出しにした4、5人の男たち。

その風体からして、野盗の類に違いなかった。


俺は迷うことなく腰の『シルラ』を引き抜いた。


天魔無碍(てんまむげ)流。一刀居合『線』」


気配を消した踏み込みから、刃が弧を描く。

一番近くにいた男の腕が、空へ向かって虚しく宙を舞った。


「な、なんだ?!」


男たちの間に動揺が走る。


突然の強襲に、腕を切り落とされた男が地面をのたうち回り、断末魔のような叫び声を上げた。


「間違えていたら申し訳ないが……野盗なら引き下がった方が身のためだぞ」


俺はもう一方の刀、『カルラ』も抜き放ち、二刀の構えで周囲を威圧する。


殺気をわずかに放つだけで、男たちの足がすくむのが分かった。


体格のいい男が顔を引きつらせ、慌てふためいた様子で叫んだ。


「退くぞ!退け!」


その一声を合図に、野盗たちは蜘蛛の子を散らすようにして逃げ去っていった。


彼らの背中が木々の影に完全に消えたのを見届ける。


シルラに付着した鮮血を払い落とし、カチリと乾いた音を立てて、二振りの刀を静かに鞘へと収めた。


「怪我は無いか?」


俺は慎重に距離を詰め、女性の顔色を伺った。


茶色のケープを纏ったその女性は、白いブラウスとロングスカートという旅装の出で立ちだが、手にはしっかりと剣を握りしめていた。


俺の声を聞いて緊張が解けたのか、彼女はカタリと音を立てて剣を地面に落とした。


「はい……助けてくださり、ありがとうございます」


彼女はトールの顔をまじまじと見つめ、大きく安堵の溜息を漏らす。


その瞳には、張り詰めていた恐怖が薄らいでいくのが見て取れた。


「気にするな。……それより」


俺は彼女の視線の先にある、無残に大破した馬車へと目を向けた。


馬車の下敷きになった人影が何人か見える。


微動だにしないその姿から、すでに命が絶えているのは明らかだった。


「……仲間か?残念だが……」


俺の問いに、彼女は悲しげに頷く。


「はい……彼らは……最期まで私を守ってくれました」


「これ以上ここに留まるのは危険だ。安全な場所まで送る」


俺は彼女の手を引き、燃える馬車から距離を取るように歩き出した。


彼女は俺の手をしっかりと握り返し、一歩一歩、確かな足取りでついてくる。


周囲を警戒しながら歩き回るが、野盗たちの気配は完全に消え去っていた。


ある程度距離を置いたところで、俺は改めて彼女に向き直った。


「俺はトールだ。名前を聞いてもいいか?」


すると、彼女は驚いたように目を見開き、俺の顔をじっと覗き込んできた。


その反応に、俺は少しだけ首を傾げる。


「……どうかしたか?」


「いえ……トールさん。ありがとうございます。私はリアと申します」


リアと名乗った彼女は、俺の顔を見上げながらもう一度、今度は丁寧に深くお辞儀をした。


その仕草にはどこか育ちの良さが滲んでいる。


「近くの商業都市まで送るが……それでいいか?」


「はい。ギルドの方まで送っていただけばありがたいです」


彼女は一瞬だけ迷ったような顔を見せたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。


二人は並んで歩き始めた。


俺は繋いだままの彼女の手を、離すべきかどうしようかと内心で少し迷ったが、結局そのままで歩みを進めることにした。


「トールさんは、強いのね」


不意に投げかけられた言葉に、俺は肩をすくめる。


「ん?大したものじゃないよ。ただの旅の冒険者だ」


「強いのに大したこと無いって言っちゃダメですよ」


リアはクスクスと笑っている。


「それ……刀ですよね。ずっと昔から使っているの?」


彼女は俺の腰に差された二本の刀をチラリと一瞥した。


「よく知ってるな。ああ、そうだ。俺にとっては相棒みたいなもんだな」


「……流派など、あるのですか?」


彼女の探るような問いかけに、俺は少しだけ口元を緩めた。


天魔無碍(てんまむげ)流だな……と、言ってもわからんかもしれんが……」


以前、ロゼッタにこの流派を教えた際、「天満無限(てんまんむげん)流」と覚えられているこの世界の歴史を思い出した。


少し自嘲気味にそう付け加えたのだが、リアの反応は違った。


「いえ……そのお名前は、聞いたことがあります」


リアはそう答えたが、その声には少しだけ驚きが混じっていた。


「野盗に襲われるとは災難だったな……」


俺は言葉を切り出しながら、彼女が抱えたであろう恐怖を少しでも紛らわせようと努めた。


「そうですね……でも、トールさんと出逢えたのは幸運でした」


リアはそう言うと、俺の手を握る力をわずかに強めた。


「……旅でもしていたのか?」


「はい。アルカライズ王国に用があって、その帰りでした」


アルカライズ。

確か、この世界に俺が再召喚された時の……あの国の名前だったはずだ。


「そうか……都市の方に着くまでは俺が一緒にいる。安心しろ」


「ありがとう、トールさん」


彼女は歩みを止めず、俺の顔を覗き込むようにしてふわりと微笑んだ。


その近さに、思わず息を呑む。


陽が落ちかけた薄明かりの中で、彼女の瞳は驚くほど澄んでいて、まっすぐに俺を射抜いてくる。


そのあまりの眩しさに、俺は視線の行き場に少しだけ困った。


俺は繋いだままの手を、少し気まずい思いでゆっくりと離そうとした。


だが、リアはそれに抗うように力を緩めず、一瞬だけ繋いだ手を見た。


「……ごめんなさい。もう少しだけ……このままでもいいですか?」


すがるような、しかしどこか芯の強さを感じさせる声だった。


俺は言葉に詰まり、すぐに離そうとした指先を止めた。


「あぁ。もちろんだ」


俺は彼女の望むまま、再び優しく、そして先ほどよりもわずかに力を込めてその手を握り直した。

彼女の肌の温もりが、握り合った手のひらを通じて伝わってくる。


「……ありがとうございます」


リアは小さく安堵の息を漏らし、再び前を向いて歩き出した。並んで歩く距離は、先ほどよりもわずかに縮まっている。


街道を吹き抜ける風が冷たさを増す中、俺たちは夕闇の道程を、無言のまま繋いだ手と共に歩いていった。

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