28#再会
翌日、俺はEランクの護衛任務に就いていた。
ここ数日、仕事が無い日が続いていたため、依頼を受ける際には内心で安堵していたのが正直なところだ。
仕事の内容は、同じ大陸内の都市から三つ先にある農村への往復護衛。
荷の仕入れに関するものだったが、幸いにも旅路は何事もなく平穏に過ぎた。
日が暮れ始める頃、都市へ戻った俺はそのままギルドへ向かった。
報酬を受け取っていると、ミラからアレンとテッサムが治療院で無事に回復しているという報告を受ける。
心底安心した俺は、酒場へ向かう足を変え、彼らが療養している治療院へと向かうことにした。
治療院の奥、横並びになったベッドには、二人の姿があった。
俺の顔を見た途端、アレンとテッサムはベッドの上でシャキッと姿勢を正す。
「ありがとうございます!」
二人は声を揃えて、深々と礼を伝えてきた。
その様子を見て、元気に回復したというのは嘘ではなかったのだと確信し、俺は心からの安心感を覚えた。
「これからはあまり無理するんじゃないぞ」
俺は念を押すように二人へそう言い残し、治療院の部屋を後にした。
廊下に出ると、そこにはアレンの母親であるマーサが待ち構えていた。
彼女は俺の顔を見るなり、こちらが恐縮してしまうほど何度も何度も頭を下げ、感謝の言葉を繰り返す。
何とかしてその場を去ろうと「無事で何よりでした」と切り出したが、マーサの引き止めは固かった。
テッサムの親ももうすぐ到着するから、一言だけでも会ってほしいと懇願され、断りきれなくなった俺は渋々その場で待つことにした。
しばらくして、治療院のドアが勢いよく開かれた。
そこに立っていた人物を見て、俺は思わず目を見開いた。
テッサムの両親として現れたのは、俺がこの世界に再召喚されたばかりの頃、右も左もわからぬまま一宿一飯の世話になったライオット夫妻だったのだ。
俺の驚きも相当なものだったが、ライオット夫妻の衝撃はそれ以上だったようだ。
まさか自分たちの子供を救ったのが、かつて恩を施した放浪の冒険者だったとは夢にも思わなかったのだろう。
夫妻はしばし呆然と立ち尽くしていた。
やがてライオットが正気に戻り、素直な感謝の言葉を口にする。
隣では妻のマーゴットが涙を流しながら、何度も何度も頭を下げていた。
「本当に気にしないでください」
そう伝えて辞去しようとしたが、夫妻は納得しそうにない。
どうしても気が済まないのだと強く念を押され、結局、また近いうちに必ず家へ顔を出すという約束をして、ようやくその場を解放された。
俺はいつもの酒場へ向かい、肉を喰らいビールを流し込んだ。
今日の護衛の依頼の事や、ライオット夫妻との予期せぬ再会についてロゼッタに話したかったが、あいにく酒場で彼女の姿を見かけることはなかった。
腹も満たされた俺は宿に戻り眠った。
翌朝、目が覚めると宿のドアが激しくノックされた。
この宿に滞在して初めての出来事に訝しみながら外へ出ると、無愛想な主人が「あんたに客だ」とぶっきらぼうに告げてきた。
誰だろうかと思いながら急いで身支度を整え、階段を降りていく。
一階の広間には、ライオット夫妻が神妙な面持ちで立っていた。
彼らは俺を見るなり、今から農村へ帰るからぜひおもてなしをさせてほしいと切り出した。
恩返しという彼らの純粋な気持ちは痛いほどわかるが、正直なところゆっくりしている時間はあまりなかった。
一度は断ろうとしたが、二人をそのまま帰すのは街道の治安を考えると気がかりだった。
「……わかりました。農村まで送り届けます」
街道の護衛も兼ねて送り届けることで、夫妻の安全を確保しつつ、ついでにおもてなしも受けよう。
そう結論づけた俺は、内心での溜息を飲み込み、しぶしぶ彼らの申し出を引き受けた。
農村への帰路、ライオット夫妻はテッサムを救い出してくれたことへの感謝を、代わる代わる口にした。
そして、話題は俺が以前この村でワイバーンを討伐した際の話へと移る。
夫妻から聞かされる当時の子供たちの興奮した様子や反応に、俺は少しくすぐったい気分になった。
彼らの話を聞きながら、俺はテッサムの顔を思い浮かべる。
あのヤンチャそうな性格を考えれば、今後も懲りずに無茶な冒険に首を突っ込みそうな予感があった。
無茶なことは控えてほしいものだが、本人たちの冒険心にブレーキをかけるのは難しいだろうな、と俺は内心で小さく溜息をついた。
道中は平穏に過ぎ、俺たちは無事に農村へと到着した。
ライオット家に招かれると、マーゴットがすぐに食事の用意を始め、気付くと食卓には心のこもったご馳走が並んでいた。
和やかな空気の中で思い出話に花を咲かせ、楽しい時間を過ごすことができた。
家を出る際、夫妻は改めて深々と頭を下げた。
「息子を、どうかよろしくお願いします」
その真っ直ぐな願いを受け取り、俺は頷いて家を後にした。
街道へ出ると、夕闇が迫っていた。
そろそろ都市に戻らなければならない。
俺は自身の影を眺めながら、またいつもの日常に戻る。そんなことを考えていた。
街道を歩いていた足が、不意に止まった。
鼻腔を突くのは、焦げた木材の臭いと、鉄錆のような生臭い血の匂い。
俺は周囲を素早く見渡す。
視界の先、木立の向こうで黒い煙が空を汚し始めていた。
俺は鞘に納められた刀の柄に手をかけ、煙の元へと向かった。




