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再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

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26/36

26#救出

道幅が広がり、洞窟の壁が遠ざかっていく。この先にあるはずの空間は、ゴブリンたちの広間であることは間違いなかった。


曲がり角の先からは、下品な笑い声と、無数の足跡が聞こえてくる。

気配が蠢いているのが、魔力探知などしなくとも肌で感じられた。


ロゼッタが俺の肩を軽く叩く。その掌には、緊張と、それ以上に激しい闘志が宿っている。


「どうする?」


俺は静かに息を吐いた。


「隠密はここまでだな」


短く告げると、魔力を抑え込む事をやめた。


刹那、俺の周囲の空気が重く、鋭く変質する。

目に見えないはずの魔力が、揺らぎとして空間に漂い、洞窟内のゴブリンたちが放っていた卑小な魔力を、圧倒的な質量で塗り替えていく。


「っ……!!」


隣にいたロゼッタが、あまりの圧力に息を呑み、思わず一歩後ずさる。


「……なんだ……その魔力量は……」


「離れるな。いくぞ」


部屋に足を踏み入れると、そこにはおびただしい数のゴブリンたちがいた。


だが、先ほどまで彼らが放っていた下品な笑い声や歓声は、俺が姿を見せた瞬間に嘘のように霧散した。


洞窟内の空気は重く沈み、彼らは一様に俺の姿を見て、気圧されたようにたじろいでいる。


俺が一歩踏み出すたびに、ゴブリンたちの群れは波が引くように一歩ずつ後退した。


恐怖のあまり、足がすくみ、その場から動けない者もいる。


一匹のゴブリンが震える腕で錆びた剣を構えた。


次の瞬間、その手から剣が滑り落ちる。


本能が告げていた。


――戦えば死ぬ。

いや、戦うことすら許されない。


俺は刀を抜くことさえせず、ただ無言で、一直線に広間の中央を歩いた。


背後では、ロゼッタが俺から離れまいと追従してきている。


だが、その足取りからは隠しきれない緊張が滲み出ており、彼女の持つ松明の炎は、その震えを反映するように小刻みに揺れていた。


部屋の最奥、湿った壁面に、二つの小さな影がが見える。

アレンと、テッサムだ。


俺は周囲のゴブリンたちには目もくれず、ただ二人の方へと真っ直ぐに歩み寄った。


「ロゼッタ。二人を担げるか」


俺は短く指示を飛ばす。


ロゼッタは一瞬驚いた表情を見せたが二人を背負い上げた。

アレンとテッサムを担いだロゼッタの姿を確認し、俺は周囲を伺う。


ゴブリンたちは一斉に身を強張らせ、その場に崩れ落ちる者、這うように後ずさる者、壁際へ逃げ込む者と、我先に距離を取ろうとした。


もはや、誰一人として牙を剥くことさえできない。彼らにとって、俺はただの敵ではなく、抗うことすら許されない『災厄』の体現なのだ。


「……行くぞ」


俺は敵を値踏みすることもしないまま、背後のロゼッタを先導して、広間の出口へと歩き出した。


ゴブリンたちはただ、俺たちが通り過ぎるのを震えながら見送るしかなかった。


洞窟の出口へと続く通路を、俺は一歩一歩、慎重に踏みしめて歩いた。


ロゼッタが担ぐアレンとテッサムの体重が、彼女の肩にのしかかっている。


俺は意識を周囲の壁や天井の暗がりに集中させ、背後を歩くロゼッタに一匹のゴブリンも近づけさせまいと、全身の神経を張り詰めていた。


あえて魔力を抑え込まず、荒々しいほどの威圧を放ち続ける。


その圧倒的な圧力が通路を満たし、壁の向こうに潜む気配たちを完膚なきまでに沈黙させていた。


「……急ぐぞ」


枝道を抜ける足取りを早める。ロゼッタも重い荷を背負いながら、俺の気配に呼応するように必死についてくる。


やがて、遠くに外の光が差し込むのが見えた。木漏れ日ではなく、森の入り口へと続く出口の光だ。


出口の岩肌を抜け、再び森の冷たい空気が肌を打つ。


俺は立ち止まり、背後を振り返った。暗く湿った洞窟の入り口を見つめるが、ゴブリンたちの姿は影も形もない。


追跡しようとする気配すら、完全に消え失せていた。


「……ふぅ」


緊張の糸が切れたのか、ロゼッタが小さく、しかし深く安堵の溜息をつくのが聞こえた。


俺もまた、張り詰めていた肩の力が抜け、小さく息を吐き出す。


二人を連れ帰るという目的は、なんとか果たせたらしい。


「まずは街に戻るぞ。……二人を担いでくれて助かった、ロゼッタ」


俺は刀の柄から手を離し、少しだけ表情を緩めた。


まだ油断はできないが、少なくともあのアジトから、彼らを生還させることができたという事実は重かった。

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