表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再召喚された三人は、世界を救わない  作者: 藤山理想
再起動編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/34

25#洞窟

俺はしゃがみ込み、落ちていた皮袋を拾い上げた。

中にはまだいくらかの薬草が残されている。

持ち主が慌てて落としたのか、あるいは無理やり奪われたのか。

それ以上の情報は、この皮袋からは読み取れない。


地面に目を移すと、不自然なほど小さな足跡が無数に刻まれているのが見えた。


アレンたちの足跡とは明らかに違う。


「……ゴブリンだな」


ロゼッタがその小さな足跡を指先でなぞり、確信を持って呟いた。


彼女の声に迷いはないが、その表情には強い緊張が張り付いている。


「追うか?」

「そうだな。ロゼッタ、魔力は抑えられるか?」


俺の問いかけに、ロゼッタは深く呼吸を整えた。


直後、彼女から溢れていた冒険者特有の鋭い魔力が、微かにしか感じられないほどにまで収束していく。


「いくぞ」


俺は短く告げると、足跡が続く森の奥へと踏み出した。


木々の葉が重なり合い、太陽の光を遮る鬱蒼とした森の中、ゴブリンの足跡は点々と続いている。


どれほどの距離を追ってきただろうか。不穏な静けさが漂う中、ロゼッタが力なく呟いた。


「……遺体だけでも、綺麗に残ってるといいな……」


その言葉は、彼女が最悪の事態を想定せざるを得ないほど、今の状況が厳しいことを示していた。


だが、俺は首を横に振る。

「いや。まだわからんぞ」


「どうしてだ?」


「あいつらは獲物をすぐ殺すとは限らん。巣へ連れ帰る習性がある」


「……それにかけるしかないか」


その言葉が、わずかな、しかし唯一の希望だった。


もしアレンたちがまだ生きているのなら、一刻の猶予もない。


二人はそれ以上言葉を交わさず、呼吸音さえも殺すようにして、気配を消し、執拗に続くゴブリンの足跡を追い続けた。


森の奥から、微かに湿った獣の臭いが漂い始めた。


俺はロゼッタを制止し、木の影から洞窟の入り口を観察した。

見張りらしい姿は見当たらないが、油断は禁物だ。


「あの洞窟だな」


俺の小声に、ロゼッタが緊張した面持ちで頷く。


「洞窟のゴブリンか……巣穴が迷路のようで厄介だな」


「そうだな……それに崩落の危険もあるから、ロゼッタの大技は使えないと踏んでおこうか」


「……わかった。私はおっさんのサポートにまわる」


「頼む。もし……俺が危険になっても、あの子達の命を優先してくれ」


ロゼッタは一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに意志を固めたような顔で頷いた。


「……わかった」


その返事を聞き届けると、俺たちは静かに行動を開始した。

洞窟の入り口へ向かう足取りは、音を立てないように細心の注意を払う。


洞窟内部は、外の光を拒むように薄暗い。


俺もロゼッタも、純粋な戦闘には長けているが、隠密や探索といった繊細な作業は専門外だ。


だが、今は立ち止まっている選択肢などない。


ロゼッタが慣れた手つきで松明に火を灯す。


揺らめく心もとない灯りが、今の俺たちの唯一の命綱だ。


獣の臭いは、奥へ進むほどに鼻を突き刺すような強さになっていく。


しばらく進むと、通路は二手に分かれていた。

左側の暗闇からは、より濃厚な獣臭と、歪な魔力濃度が立ち昇っている。


「……左が本命か」


俺はロゼッタと目配せをし、意図的に右の通路へと足を踏み入れた。


囮を兼ねた迂回、あるいは万が一の退路確保だ。

ロゼッタは松明を掲げ、俺から適度な距離を保ちつつ、背後を完璧にカバーしながらついてきている。


カサリ、と足元の小石が鳴る音さえも大きく響くような緊張感。


俺は刀の柄に指をかけ、暗闇の先を鋭く見据えながら、静かに一歩ずつ踏み出した。


曲がり角の先で、俺は即座に足を止めた。背後に続くロゼッタも、まるで呼吸を合わせたかのようにピタリと歩を止める。


闇の奥から、湿った足音が複数近づいてくる。俺は腰の『シルラ』の柄を握り込み、重心を低くした。


曲がり角から、ゴブリンの歪な顔が覗いたその瞬間。


俺は一気に踏み込み、居合の一閃を放った。

刃が空気を裂く音さえも聞こえぬほどの速さで、ゴブリンの体は抵抗する間もなく真っ二つに分かたれ、床に崩れ落ちる。


続く2匹が、仲間の最期に驚き声を漏らした。


だが、その声が響くより速く、俺は即座に鞘から『カルラ』を抜き放ち、同時に『シルラ』を振るう。


二振りの鋼が交差するように軌道を描き、ゴブリンたちの首と体が音もなく離れ、狭い洞窟の中に返り血の臭いが充満した。


俺は刀身の血を軽く振り払い、静かに鞘に収め、通路の先に続く闇を睨む。


「おっさん、今の音で気づかれたかもな」


「ああ。急ぐか」


俺は再び二振りの柄に手をかけ、警戒を解かぬまま奥へと進み始めた。


先ほど感じた魔力濃度が、先へ進むほどに強くなっている。


幾度となく枝道を通り過ぎた。


4つに分かれた通路の前に立ち、俺たちは足を止めた。


松明の炎がわずかに揺れ、洞窟の壁に俺たちの影を長く落とす。


かなり深いところまで潜り込んできた。

これ以上、無計画に道を選ぶのは時間と体力を浪費するだけだ。


「……少し待ってくれ」


俺はロゼッタに合図を送り、その場に深く腰を下ろした。

静寂が支配する洞窟の中で、微細な魔力の揺らぎを探った。


ゴブリンたちの纏う濁った魔力の波が渦巻く中、その底に沈むようにして、小さく、しかし確かな光を放つ魔力の粒子を捉えた。


「……いた」


覚えがある。

微かだが、以前薬草採取で隣を歩いた時に感じたアレンの魔力だ。


「アレンの魔力だ。まだ生きている」


俺がそう告げると、ロゼッタがホッとしたように小さく息を吐いた。彼女の握る松明の光が、少しだけ明るくなったような気がした。


「左から二番目だ。かなり奥だな……しかも相当な数が集まってる」


俺は立ち上がり、刀の柄を確かめる。


希望は見えた。

だがそれは同時に、この巣の最深部へ進まなければならないことを意味していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ