24#捜索
俺は日が昇ると同時に宿を出た。
朝の通りは、昼間の活気とは少し違った、仕入れや開店準備に追われる独特の忙しなさを見せている。
昨夜は早めに寝てしまったせいで、目が覚めるのも自然と早かった。
生活費の観点から考えると、今日も連休にしてしまうのは避けたいところだ。
俺は足早にギルドへと向かった。
ギルドの重厚なドアを押し開ける。
朝の静けさが残るギルド内に、話し声が漏れ聞こえてくる。
カウンターに目を向けると、そこにはロゼッタとミラ、そしてもう一人、見慣れない顔の女性がいた。
依頼の相談しているのかとも思ったが、三人の表情は硬い。
ロゼッタの眉間に深い皺が刻まれ、ミラもどこか困惑したような険しい顔をしている。
見慣れない女性は、さらに深刻そうな面持ちで何かを語りかけていた。
「何かあったのか?」
俺は控えめに声をかけながらカウンターに近づく。
三人は同時にこちらを向き、一瞬だけ視線が交差した。
ただならぬ空気に、俺の背筋に少しだけ緊張が走る。
「トール様……こちら、アレンの母親のマーサです」
ミラが沈痛な面持ちで紹介してくれた。
「あなたが……アレンから話はお聞きしています」
マーサはそう言うと、震える手で深く礼をした。
アレンが普段、俺のことを話していたのだろうか。俺も反射的に、真摯な面持ちで頭を下げて礼を返した。
「……なにかあったんですか?」
俺は三人の顔を一人ずつ伺う。誰の表情にも隠しようのない焦燥が浮かんでいた。
「昨日から……アレンが家に帰ってきていないんです……」
マーサはハンカチを握りしめ、涙を堪えるように声を絞り出した。
「なるほどな。昨日はなにか依頼を受けていたのか?」
俺は努めて落ち着いた声で問いかける。
事態の重さは理解したが、ここで俺まで取り乱してはならない。
「昨日はテッサム君と依頼を一緒に受けておりました」
「依頼の内容はなんだ?」
「薬草採取です」
ミラが、今にも泣き出しそうなマーサに代わって淡々と告げた。
薬草採取か。
そう危険な任務ではない。
だが、帰宅していないとなれば話は別だ。事故か、あるいは突発的なトラブルに巻き込まれたのか。
俺はロゼッタの方を見た。
彼女も昨日、楽しげに笑っていた顔とは別人かのような、鋭い冒険者の表情をしている。
「……俺たちが探しに行く」
俺は簡潔にそう告げ、冒険者としての視線をミラに向けた。
「あ、ありがとうございます!」
マーサはすがるような思いで、再び深々と頭を下げた。
その姿を見ていると、自然と拳に力がこもる。
「ちなみに、彼らが具体的にどの区画へ向かったか、確実な情報は残っているか?」
俺の問いかけに、ミラは少し目を伏せ、苦悶の表情を浮かべた。
「いえ……申し訳ないですが、依頼自体は広域の採取でしたので、正確な足取りまでは把握できていません」
ミラがそう答えると、ロゼッタが口を開いた。
「けど、彼らのランクと昨日の天候、そして以前おっさんと行った場所を考えれば、アレンなら……」
「南の草原、その付近の森か」
俺はロゼッタの言葉を継いだ。
アレンと薬草採取を共にした時の記憶が蘇る。あの場所なら彼らにとっても馴染みがあり、無理をしてでも足を延ばしそうな場所だ。
「まずはそこに向かってみる」
俺は短く告げると、腰の二本の刀に手をかけ、気持ちを切り替えた。
今ここで立ち止まっていても時間は過ぎるだけだ。
「ロゼッタ、準備はいいか?」
「聞くまでもないだろ!おっさんこそ、さっさと行くぞ!」
ロゼッタは青い鎧の留め金を指で弾き、戦闘態勢を整える。
その目には頼もしい冒険者の闘志が宿っていた。
俺はマーサに向かって、短く力強く頷いた。
「必ず見つけ出して連れ帰る。だから、ここで待っていてくれ」
俺たちはギルドの出口へと駆け出した。
南門へと向かう道すがら、俺たちは駆け足で街を抜けた。
早朝の冷えた空気が、肺の奥まで入り込んでくる。
「悪かったな。ロゼッタの意見も聞かずに、こんなことに付き合わせて」
「バカ!それを言うならこっちのセリフだ。ほっとけるわけねーだろ!」
ロゼッタは前を見据えたまま、食い気味に言い返した。
「見つかるといいがな……」
俺の呟きに対し、彼女からの返事はなかった。
代わりに、足音が一段と速くなる。
門を抜け、目的地である南の草原へと踏み出す。
朝日を浴びた草原はどこまでも平穏に見えるが、その向こうにある森は、深い緑に飲み込まれて陰鬱な影を落としていた。
「ロゼッタ、あの森に生息している魔物の種類はわかるか?」
「色々いるけど……正直、進んで深い森に入ったのだとしたら、見つけるのは絶望的かもしれない」
ロゼッタの声が、先ほどよりも一層沈んだ。
森の入り口が視界に入ってくる。
木々の間から漂ってくるのは、清々しい空気ではなく、魔物が残したであろう微かな獣の臭い。
もし彼らが何らかのトラブルに巻き込まれ、深い森の奥へと連れ込まれてしまったのだとしたら……
「……諦めるのはまだ早い。アレンたちの痕跡を探すぞ。足跡、折れた枝、何でもいい。少しの違和感も見逃すな」
俺は刀の柄に手をかけ、森の深淵を鋭く見据えた。
森の入り口に続く道の端に何かが落ちているのに気付いた。
二人は駆け寄る。
「おっさん……これは……」
そこにはギルドから薬草採取の際に、支給される革の袋がポツンと取り残されていた。




