20#服屋
「おっさんもこっち来て見てくれよ!」
ロゼッタは興奮を抑えきれない様子で、小声ながらも弾んだ声で俺を呼んだ。
彼女の元へ歩み寄り、指し示された二つの鎧に目を落とす。
一つは、薄い青色を基調とした、スタイリッシュかつ硬質なデザインのもの。
もう一つは、黒く滑らかで、それでいて重厚な輝きを放つ鎧だ。
どちらも魔力のコーティング具合は同じようで、防具としての性能は甲乙つけがたい。
見た目と機能性、そのどちらを優先するかで迷っているのだろう。
「んー……どちらもいいな……」
俺は腕を組み、二つをじっくりと見比べた。ロゼッタもまた、その前で唸りながら交互に視線を走らせている。
「こっちの青色の方が、ロゼッタに似合うんじゃないか?」
彼女の持つ軽やかな動きと、あの青の質感はよく調和するように思えた。
「んー……おっさんがそう言うなら、こっちでいいか!」
ロゼッタは迷いが吹っ切れたのか、よし!と小声で拳を握ると、すぐに店員のもとへ向かい、青色の鎧を指差して購入を伝えた。
店員は嬉しそうな顔で、その鎧の手入れ方法や性能について手短に補足を入れる。
提示された価格は、金貨10枚。
決して安くはない金額だ。
だが、戦場において命を預ける装備だと思えば、妥当な――いや、むしろ自分の命を守るための投資としては安いものかもしれない。
ロゼッタは店員に金貨を支払い、鎧は明日取りに来る旨を伝えた。
店員は快く頷き、一礼する。
「よし!じゃあ次はおっさんの服買いに行こうぜ」
「俺の服は別に大丈夫だ」
俺は苦笑して断ったが、ロゼッタは譲らない。
「おっさんいつも同じ服だろ?それじゃモテないからな!」
彼女は悪戯っぽく、からかうように笑った。
着替えのバリエーションが乏しいのは事実だ。
「……確かにこれしかないからな。わかった、買いに行くか」
俺が観念して頷くと、ロゼッタは満足げに「よし!」と鼻を鳴らし、スタスタと店を出て行った。
その後ろ姿を追いかけ、街角にある馴染みのない店へと足を踏み入れる。
並んでいたのは服だけではない。
カバンや手袋、細かな革小物まで揃った、品揃えの豊富な店だった。
入り口で店員の丁寧な挨拶を受け、俺たちは店内に並ぶ服を物色し始めた。
「おっさん、これなんかどうだ?」
ロゼッタが広げたのは、少し色みの強いえんじ色のシャツだった。
俺はそれを手に取り、鏡の前で合わせる。
「……ちょっと派手じゃないか?」
俺が苦笑交じりに言うと、ロゼッタは首を振って否定する。
「そんな事ないって!あとはこっちの黒のズボン!これいいじゃん!」
彼女はさらに目を輝かせ、今度はしっかりとした生地の黒いズボンまで持ってきた。
俺の意志などお構いなしに、服を胸元に押し付けてくる。
「ほら!ちょっと試着してきなよ」
背中を押されるようにして、俺はしぶしぶといった手つきで試着室へ向かった。
中で帯刀ベルトを外し、渡された新しいシャツとズボンに袖を通す。
「……どうだ?」
試着室のカーテンを開けて姿を見せると、ロゼッタが目を輝かせた。
「おぉ!似合うじゃんか!」
「お似合いだと思いますよ」
店員の女性もにこやかに頷いてくれる。
鏡の中の自分を見つめ直す。
確かに悪くない。
「……そうか?じゃあ……これどっちも貰います」
「ありがとうございます」
女性は丁寧にお辞儀をした。
帯刀を装着して、代金を支払おうと手を伸ばした時、ふと陳列棚に並ぶ革の腰袋が目に入った。
作りはしっかりしており、使い込むほど味が出そうな品だ。
「これいいな」
「そういえばおっさん、いつもポケットに金入れてるもんな」
ポケットに入れていた硬貨は、歩くたびにカサカサと耳障りな音を立てるし、何より動きづらい。
「金と小物で分けられるし……これも二つ貰おうかな」
店員が腰袋二つを合わせた合計金額を告げる。
俺は銀貨2枚を支払い、受け取ったばかりの腰袋を、手慣れた仕草で帯刀ベルトに装着した。
ポケットの中でジャラジャラと鳴っていた硬貨を片方の腰袋に流し込むと、腰回りが嘘のように軽くなった。
「いいじゃん!私もここで買ったからオソロイだな!」
ロゼッタは嬉しそうに自分の腰袋をポンポンと軽く叩いた。
「二つ買ったから、ロゼッタの腰袋がダメになったら一つやるよ」
俺は肩をすくめて軽く笑った。
「その時は遠慮なく貰うよ」
ロゼッタもつられて笑った。
古い服を包んだ荷物を片手に店を出ると、街の活気がより近くに感じられる。
買い物を終えた満足感からか、試着した新しい服が肌に馴染む感覚とともに、少しだけ気分も軽やかになっていた。
「ちょっと腹減ったな……さっき通りかかった屋台でなんか食わないか?」
買い出しの道中で見かけた、食欲をそそる香りを漂わせていた屋台群。
「いいね!行こうぜ!」
ロゼッタは一瞬で食い気モードに切り替わったようで、先ほどまでの買い物以上に軽やかな足取りで歩き出した。
俺はその隣に並んで歩きながら、香ばしい匂いが漂う屋台通りへと足を向けた。




