17#不詳
袋から溢れんばかりの薬草を掲げ、俺たちは草原をあとにした。
夕暮れ時の草原を歩くアレンは、今日の収穫量に大満足しているらしく、足取りも軽く上機嫌に語りかけてくる。
その弾むような姿を見ていると、俺も嬉しくなる。
日が沈みかけた街には、家路を急ぐ人々の姿が増えている。
ギルドの扉を開けると、昼間のような熱気は落ち着き、酒場へと向かう冒険者たちの喧騒が混じり合っていた。
俺たちはそのまま、昨日と同じ受付嬢が控えるカウンターへと歩み寄った。
彼女は俺とアレンの姿を認めると、先ほどとは違った少し驚いたような表情を浮かべた。
「アレン君。トール様と薬草集めにいったのですね」
受付嬢はそう言いながら、アレンに向かって事務的な表情ではない、どこか母親のような温かな微笑みを向けた。
「はい!トールさんのお陰でこんなに採れました!」
アレンはカウンターの上に袋を置き、誇らしげに中身を見せている。
どうやら二人は顔見知りのようだ。
アレンが普段からこのギルドで、周囲に心配をかけながらも健気に活動していた姿が目に浮かぶ。
「それは良かった。トール様も、お疲れ様でした。お二人とも無事で何よりです」
受付嬢は袋の中身を丁寧に確認し、手際よく記録をつけていく。
アレンの弾んだ声と、それを受け止める受付嬢の優しい眼差し。
二人のやり取りを見守りながら、俺は少しだけ安堵したような気分でカウンターに寄りかかった。
「お二人とも同じくらいの量だったので、それぞれ銅貨60枚ですね」
受付嬢がカウンターに小気味よい音を立てて銅貨を積み上げていく。
「凄い!こんなに貰えたの初めてです!」
アレンは目を輝かせ、その銅貨を丁寧に数え始めた。
だが、俺は内心で小さく溜息をついた。
これでは宿代を払えば赤字だ……
「ちなみに、自分のランクより上のランクの依頼も受けられるのか?」
「はい。一つ上のランクまでなら受けることが可能です」
彼女の返答に、俺は間髪入れず次の質問をぶつけた。
「ちなみにEランクなら、どれくらい貰えるんだ?」
「そうですね……依頼内容にもよりますが、大体銀貨2枚前後でしょうか」
銀貨2枚。今の俺にとって、ようやく生活が見えてくるラインだ。
明日からは迷わずEランクの依頼を受けるか――俺の頭の中のそろばんが、即座にそう結論を出した。
「……なるほど。ありがとう」
俺は銅貨をポケットにしまい、背伸びをして凝り固まった肩を回した。
「トールさん!今日は本当にありがとうございました!」
アレンは深々と俺に向かって頭を下げた。その表情には、朝会った時とは違う、自信と充実感が宿っている。
「あぁ。また時間が合えば一緒に依頼をしようか」
「はい!是非お願いします!」
アレンは嬉しそうに何度も頷くと、弾むような足取りでギルドを出ていった。
その背中を見届け、俺がふうと息を吐くと、カウンターの向こうで受付嬢が柔らかく微笑んだ。
「いい子なんですよ、アレン君」
「そうだな。……受付嬢さんとは昔からの知り合いなのか?」
「はい。あの子の母親は、私の幼なじみなんです」
「そうなのか……ん?」
俺は思わず言葉を詰まらせ、彼女をまじまじと見つめた。
昨日からやり取りをしているが、てっきりロゼッタと同じか、それより少し上程度の年齢かと思っていた。
幼なじみに子供がいて、その子がもう冒険者として働いているとなれば……一体いくつなんだ、この人は。
「……何か、顔に付いていますか?」
彼女はきょとんとした表情で、不思議そうに小首を傾げた。
その仕草や肌の艶は、どう見ても若い女性のものだ。
「年齢不詳」の空気に、俺は少しだけ戸惑いを覚えた。
「い、いや、なんでもない。そういえば名前を聞いていなかったなと思ってな」
俺は、彼女の年齢について思案していたことを誤魔化すように、自然な口調を装って名前を尋ねた。
「ミラと申します。今後ともよろしくお願いします」
ミラはそう言うと、変わらぬ柔らかな笑みを浮かべ、カウンター越しに丁寧な会釈をした。
「こちらこそよろしくな。じゃあ、今日はありがとう」
俺も短く返すと、ギルドの喧騒を背にして外へと出た。
重い扉の外は、すでに宵闇が街を包み込んでいた。
活動的な一日を送ったせいで、空腹が限界に達している。
今日一日、ろくに食事をとっていないのだから当然か。
俺は昨日訪れた「踊る肉汁酒場」を目指し、街の明かりが灯り始めた大通りを歩き出した。




