15#薬草
窓から差し込む眩しい光に目を細め、眠りから目覚めた。
だいぶ寝てしまったようだ。
日差しの強さからして、もう昼過ぎだろう。
ベッドから重い体を起こす。ギルドが何時から開いているのかは知らないが、さすがにこの時間ならとっくに営業しているはずだ。
俺はテーブルの上に置いていた愛刀を手に取り、帯刀ベルトを腰へと巻き付ける。
使い慣れた重みが腰に馴染むのを感じながら、宿の廊下へと出た。
一階に降りると、宿の主人が受付のカウンターで黙々と帳簿を記帳していた。
「もう一泊したいんだが、可能か?」
俺が声をかけると、主人は顔を上げることなく「銅貨70枚」と短く告げた。
銀貨を一枚差し出し、お釣りとして銅貨30枚を受け取る。
ポケットに入れた金属の重みに、俺は苦笑した。
生活に必要な物も色々と揃えていかないといけないな。
宿を出ると、街の賑やかさが昼の暖かな陽気と共に押し寄せてくる。
俺は腰に下げた愛刀の感触を確かめながら、再び冒険者ギルドへと足を向けた。
ギルドの扉を押し開けると、昼間から冒険者たちの活気に満ちた空気が迎えてくれた。
カウンターへと向かうと、受付嬢は俺の姿を認めるなり、柔らかな笑みを浮かべた。
「トール様。ギルド証の発行が終わっております」
彼女がカウンターの上に置いたのは、一枚の木製の札だった。
表面には複雑な刻印が施されており、なんとなく自分の名前や年齢らしき文字列は判読できるものの、それ以上の細かい文言はさっぱり読めない。
俺は礼を言い、その小さな木札を大切にポケットへと収めた。
「よろしければ、何か依頼を受けていきますか?」
彼女の提案に、俺は頷く。
「そうだな。Fランクだとどんな仕事があるんだ?」
「そうですね……」
受付嬢は手元の分厚い帳簿をパラパラと捲り、指先でページを辿っていく。
「近くの草原での薬草集めなどどうでしょうか? ボアを討伐できるトール様でしたら、少し物足りないかもしれませんけれど……」
彼女は申し訳なさそうに眉を下げ、控えめに提案してくれた。
ボアを倒したという実績が、かえって彼女の選択肢を狭めているらしい。
「ああ、それでいい。土地勘も養えるしありがたい」
「では、ギルドから袋を貸し出しますね」
受付嬢はそう言ってニコリと微笑むと、カウンターを離れて奥の部屋へと消えた。
すぐに戻ってきた彼女の手には、使い込まれた丈夫そうな皮袋が握られていた。
「こちらをどうぞ。採れた薬草の数に応じて報酬が変動しますので、ご了承ください」
「わかった。……ちなみに、どこら辺に多く生えているか分かったりするか?」
俺の問いかけに、受付嬢は少しだけ考え込むような仕草を見せてから答えた。
「そうですね……南の草原の奥、森に近いあたりはどうでしょうか。たまに危険な魔物も出没するので低ランクの冒険者はあまり近づきませんが、その分、薬草は比較的に多く自生しているはずです」
「南か……ありがとう。そっちの方を探してみるよ」
俺が礼を言うと、受付嬢は再び優しい笑みを浮かべ、「お気をつけて」と丁寧に見送ってくれた。
「す、すいません! さっきギルドで聞こえてきたんですが……薬草を採りに行くんですか?」
南門へ向かう通りの途中、ふいに横から声をかけられた。
目を向けると、若い男がこちらを伺っている。
冒険者らしい革鎧を纏い、腰には小ぶりのナイフを下げているが、その立ち居振る舞いからはまだ場数を踏んでいない初々しさが漂っていた。
「そうだが……何かあったか?」
俺が短く聞き返すと、男は「えっと……あの……」と口ごもり、落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見回した。
俺に何か不審な点でもあっただろうか。
俺は少し身構えつつ、続きを待った。
「もしよければ、僕も一緒に行きたいのですが……いいですか?」
男は決死の覚悟を決めたような、それでいてひどく申し訳なさそうな顔で俺を見つめた。
どうやら単なる質問ではなく、同行を求めてきたらしい。
この若さで単独行動を避けたがっているのか、それとも別の目的があるのか。
俺は男の瞳をじっと見つめた。




