13#打上
ロゼッタが村長との用を済ませて戻ってくると、入れ替わるように屈強な男たちが三人がかりでボアの死骸を荷車へ積み込み始めた。
男たちが手際よく作業を進めるのを背に、俺たちは街へと足を進める。
「さっきの『りゅう』って技、どういう原理なんだ?」
「英雄トールが使っていた技も、あんなふうに戦う流派だったのか?」
帰り道、ロゼッタの質問攻めは止む気配がない。
俺は適当に「まあ、そんな感じだな」「なんかこう魔力を流すようにしてなんとなく切る」と受け流し続けた。
これでギルドへ報告を入れれば、今回の依頼は完遂だ。
「しかし、マジで凄かったな。あんな動き見たことないぞ。おっさん、本当は何者なんだ?」
ロゼッタが振り返り、キラキラした瞳でこちらを覗き込む。
「ただのしがない旅人だよ。……それより、報酬の金はどれくらいになるんだ?」
「討伐報酬が銀貨20枚。あとは素材の買取で1体につき数枚ってところだな」
銀貨20枚ちょっとの報酬か……
これが高いのか安いのか、今の俺にはさっぱり見当がつかない。
深いことを考えるのは報酬を貰ってからでもいいかと判断し、俺は考えを止めて、再びギルドの入り口を目指して歩き続けた。
ギルドの扉を開けると冒険者たちのざわつきが肌にまとわりつく。
ロゼッタは慣れた様子でカウンターへと進み、受付嬢へ明瞭に討伐報告を告げた。
「はい。連絡は届いていますよ。ボア三体の討伐、お疲れ様です」
驚いた。村からギルドまで、これほど早く連絡が届く手段があるのか。
この世界の通信技術について、あとでロゼッタに詳しく聞いてみる必要がありそうだ。
「討伐報酬とボア三体の買取報酬を合わせて、銀貨32枚となります」
受付嬢は引き出しを開け、銀貨を並べていく。
テーブルの上に積み上がった硬貨は、鈍い光を放ちながら現実味を帯びていた。
「じゃあ、おっさん半分こな」
ロゼッタは迷いのない手つきで16枚を数え分けると、慣れた様子で自分の腰袋へ収めた。
残りの銀貨が、俺の取り分としてテーブルに取り残される。
テーブルに残された銀貨を手に取り、俺はそれをズボンのポケットへと滑り込ませた。
だが、ふと思い直してその中から一枚を取り出し、ロゼッタの目の前へ差し出す。
「借りた分、返すぞ」
ロゼッタは一瞬きょとんとした後、すぐに表情を崩してニコッと笑い、銀貨を受け取った。
「本当に世話になったよ。よかったら、この礼に飯でも奢らせてくれ」
「いいのか? またすぐ無一文になるぞ?」
「……食い過ぎは勘弁してくれよ」
「冗談だよ! じゃあ私の行きつけに行こう。安くて美味いぞ!」
ロゼッタは上機嫌に笑いながら、軽やかな足取りでギルドの扉へと向かう。
その後ろ姿を眺め、俺もまた静かに歩き出した。
ギルドを出ると、街はすっかり夕暮れの気配を帯びていた。
家々の窓からは温かな光が漏れ、人々の賑わいが心地よい雑音となって耳に届く。
「そういえばおっさん、酒は呑めるのか?」
「……たしなむ程度だな」
「いいね! じゃあ今日のボア討伐、祝杯もあげようぜ!」
ロゼッタは弾むような歩調で歩き、その横を並んで歩くトール。
大通りから少し入った小道に、その店はあった。
扉の隙間からは、空腹を強く刺激する肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
軒先に掲げられた看板には何やら文字が刻まれているが、俺にはさっぱり読めない。
かろうじて「2」「9」「10」という数字だけは判別できたが、それが何を意味するのか見当もつかなかった。
「いい匂いだな。なんて店なんだ?」
「『踊る肉汁酒場』だよ。名前が長いから、私はいつも『肉汁』って呼んでる」
なるほど、あの看板の数字は「肉汁」を意味しているのか。
随分と洒落た趣向を凝らす店だなと感心した。
ロゼッタが扉を押し開け、活気溢れる店内へと足を踏み入れ、俺もそれに続いた。
店内は仕事終わりの冒険者たちで満員に近い熱気に包まれている。
ウェイトレスの女性が一人、驚くべき手際で店内をバタバタと駆け回っていた。
「おーい! キャンディス! 座っていいか?」
「ロゼッタちゃんいらっしゃい! 空いてるところに適当に座って!」
彼女は両手にビールジョッキを大量にぶら下げたまま、爽やかな笑顔でそう言い放つ。
俺たちは空いていたテーブル席を見つけ、そこに腰を下ろした。




