11#道中
街の喧騒を背に、石畳の道を歩く道すがら。ロゼッタが不意に隣を歩く俺の顔を覗き込んできた。
「おっさん。35歳なんだな」
「まぁ、それくらいだ」
「なんか適当だな」
ロゼッタがクスクスと笑う。
「ロゼッタはいくつなんだ?」
「私は21だな。おっさんよりはずっと若いな」
「そりゃ見ればわかる」
一回り近い年齢差。若いというよりは、この時代の生命力に満ち溢れているというべきか。
「おっさんはなんでその歳で今さら冒険者始めたんだ?」
「そこを説明すると少し長くなるな……ざっくり言えば、探し物があるって感じだ」
「目的があるんだな。金は一文無しなのに」
彼女は呆れ気味に肩をすくめた。
「金なんて後からどうとでもなる。目的を失うよりはずっといいだろ」
「へえ、言うね。まあ、逆よりはマシか」
軽口を叩き合っているうちに、街を囲む大きめの城門へと辿り着く。
門をくぐり抜けると、そこからは街の喧騒を離れ、広大な外の世界へと続く荒野の道が伸びていた。
「歩いてどれくらいだ?」
「ザッカスなら30分くらいだな。のんびり行こう」
ロゼッタは道の先を見据えながら、軽やかな足取りで歩き出した。
トールもその隣に並んで歩調を合わせる。
「ロゼッタはなんで冒険者やってるんだ?」
「私は単純だよ。強くなって勇者になるためだ」
「大きい目標だな……」
トールは思わず苦笑いを浮かべた。
「昔から勇者ユーイチの話が好きでさ」
ロゼッタは目を輝かせてカラカラと笑う。
「どんな話が好きなんだ?」
「やっぱり魔王退治の旅の話かな。語り継がれている逸話はどれも胸が躍るよ」
「それめっちゃ気になるな」
トールはつい本音が漏れた。
自分が命を賭して駆け抜けたあの日々が、今の時代にどう伝わっているのだろうか。
「色んな街で人を助けたり、街を救ったり、最後には皆で魔王を倒して去っていくなんてめちゃくちゃかっこいいよな」
「それほどでも無い」
口をついて出た言葉に、ロゼッタが怪訝そうに眉をひそめる。
「ん?」
「いや。何でもない、気にするな」
「おっさんは勇者ユーイチの仲間から名前とられたんなら、詳しいのかと思ってたよ」
「まぁ人並み程度になら知ってるよ。ユーイチがイケメンだったとか」
「なんか街の女の子にモテてたみたいな話も確かにあったかもな……なんでピンポイントでそこ覚えてんだよ」
ロゼッタは呆れたように笑う。
ユーイチは当時からクラスのリーダー的存在で、飛び抜けて顔立ちも整っていた。
いわゆる陽キャの代表格のイメージが拭えない。
「あ、そうか。おっさんの名前がトールだから、ユーイチの仲間のトールにちなんで刀使ってんのか?」
「まぁそういうことにしておこう」
「単純だなおっさんは」
「ロゼッタ程ではない」
俺たちが笑い合う声が、のどかな街道に溶けていった。
「流派はあるのか?」
ロゼッタが、俺の腰に差された刀の鞘へ視線を向けながら聞いてくる。
「あるぞ。天魔無碍流だ」
「おぉ!こだわってるな!英雄トールが使っていた天満無限流か!」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
「……ん?天魔無碍流な?」
「ん?天満無限流じゃないのか?」
俺は溜息をつく代わりに、肩を小さくすくった。
「……まぁ、それでもいい。そんな感じの流派だ」
「なるほど、だから2本持ってたんだな。予備じゃなくて二刀流だったのか」
ロゼッタは納得したように何度も頷いている。
「ユーイチ以外はあまり知らないのか?」
トールが尋ねると、ロゼッタは顎に手を当てて首を傾げた。
「んー……ユーイチ以外だと、やっぱりリュウとサキの話は色々覚えてるな」
「あいつら、派手だもんな……」
「そうそう!片手でドラゴンをぶっ飛ばしたリュウとか、魔法一つで街を丸ごと丸焦げにしたサキの話とか、本当に有名だよね!」
トールは思わず苦笑した。
「……めちゃくちゃだったな」
当時の記憶が鮮明に蘇る。
今の時代では勇壮な英雄譚として語り継がれているのだ。
「お、そろそろ見えてくるよ」
丘を越えたあたりから、視界が開ける。
遠くのほうに、赤茶色の屋根が並ぶ農村地帯が見えてきた。
ライオットが暮らしていた農村と比べると家の数も多く、かなり大人数の世帯が暮らしていることが見て取れる。




