第三話 会議①
最後の一人である私が扉を通った次の瞬間、扉はバタンと音を立てて閉じた。
そしてガチャリと内側から鍵がかかったような音がした。
上篝さんが再び扉を開けようとノブを捻るが、ガチャガチャと音がなるばかりで開く様子は無い。
「数字が消えてる……?」
雨久さんの言葉で扉にあった「四」の数字を探すがどこにも見当たらない。
他の扉にはやっぱりあるが、私達が出てきた扉にだけは見当たらない。
「無いですね……。消えた……?」
改めて見直してもやはり無い。
「探索が終わると消えるのか、一度入ると閉まるのか……。謎だね。試行回数が足りなすぎる」
上篝さんが肩をすくめた。
「それから時間だね。誰も集まってないのを見るとこちらでは時間が進んでいない可能性がある」
言われてみれば二階と三階を調べに行った人たちはまだ戻っていないようだ。
もしくは私達が遅すぎてどこか他の部屋に移動してしまったか……。
「おっ!!一階はまだ探索中〜?」
タイミングよく二階に続く階段からピンクアッシュのロングヘアをポニーテールにした女生徒が声をかけてきた。
制服のスカートは短く、目のやり場に少し困る。
いわゆるギャル、陽キャと呼ばれるタイプの人種である彼女は百田桃さんだ。
「一階は終わりました。二階はどうですか?」
「二階ももうすぐ終わりそうだよ〜。最後の部屋をシヲち達が見てるから、あてぃしとるねちが先に降りてきたって感じ〜」
「そ、オレもいるよー」
百田さんの後ろからひょいと顔を覗かせたのは春日井るねさんだ。
黒とビビットピンクのツートンカラーの髪はもちろんだが、ビビットピンクの瞳もなかなかパンチがある。
にっこりと笑みを浮かべると八重歯が目立つが、不思議とチャーミングに感じる。
「僕たちも今終わりましたよ。最後のところはやはり物置でした」
春日井さんの後ろからスヲウさんとシヲさんが現れた。
相変わらずシヲさんはツンと澄ました表情でそっぽを向いている。
スヲウさんはそれを補うかの如く、柔らかく笑む。
二人の腕の中にはペットボトルの水が大量にある。
「水や食料品が山ほどありましたよ。しばらくは困りませんね」
とりあえず水を持ってきました、と言って腕の中の水を一本ずつ渡していく。
私もありがたく一本もらう。
「ありがとうございます。助かります!!」
早速もらったペットボトルの蓋をあける。
開封するとパキッと音がした。
ちゃんと未開封のものだったようで安心する。
ペットボトルを傾け、水を口に流し込む。
常温の水が体に染み渡る感覚が心地いい。
干し首の花や悪魔と言った未知との遭遇で負った不安感が洗い流されていく。
「ぷはあっ!!謎解きの後の給水は最高だよ!!」
上篝さんが嬉しそうに言う。
あの出来事を謎解きで片付けられる豪胆さが私にもあればと思う。
すぐ隣で雨久さんも目を閉じて水を飲んでいる。
恐らく私と同じ気持ちだろう。
「じゃあ、あとは三階の人達だね!!ちらっと見てこよっかな」
「単独行動はナシな」
「分かってるって!!るねちも付いてきて〜。ちょっと行ってくるね」
百田さんと春日井さんが階段を登り、三階を見に行ってくれることになった。
何事もないといいのだが。
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「ただいま〜!!みんな三階に集合だってさ」
「住める感じの個室あるから部屋決めするってよ」
十分ほど経った頃、二人が戻ってきてそう言った。
全員でいそいそと階段を登り、三階を目指す。
「あの、秋冬さん、部屋選べるようだったら隣にしませんか……?」
階段を登りながら勇気を出して秋冬さんに提案をする。
隣は知らない人よりも仲良くなれた秋冬さんが良い。
ここは勇気の出しどころだろう。
まぁ、仲良くなれた……と私が勝手に思っているだけかもしれないが。
「ん、いいよ。私も白の隣がいい」
秋冬さんが赤みがかったオレンジ色の目を細めてそう言った。
かわいい。なんてかわいいんだ。
オレンジ色にところどころ黒が混じったサラサラのロングヘアが歩く度に蠱惑的に揺れている。
絶対にその意図がないというのは理解しているが、まるで告白みたいでドキドキする。
心臓の鼓動もいつもより早い。
「やった!!私も秋冬さんの隣がいいです」
素直に気持ちを伝える。
秋冬さんは返事の代わりに優しく笑ってくれた。
「全員揃ったか。それでは部屋決めをする前に各階の調査報告を聞きたい」
三階に着くと時計塔さんがそう言った。
座るように促されたので、みんなで輪になって座る。
「まずは三階から報告する。三階は十二個部屋がある。十二個とも設備は同じだった」
時計塔さんの報告によると、三階の個室はおおよそビジネスホテルと同じような設備であるとのこと。
トイレやシャワーもあり、もちろんベッドもある。
「以上だ。次は二階の報告を頼む」
誰とは指名していないが、時計塔さんはスヲウさんの方を向いて言う。
一番しっかりしていそうだからだろうか。
スヲウさんがスッと立ち上がる。
「二階も部屋は十二でした。ただ部屋が色々あります」
スヲウさんが言うには二階には飲食物がある倉庫に加えて、キッチン、食堂、談話室、レクリエーションルーム等があるそうだ。
また毛布やティッシュペーパーなどの日用品が置いてある倉庫もあったとのことだ。
ひとまずものに困ったら二階を確認しに行けば良さそうだ。
「うむ。では一階の報告を頼む」
時計塔さんが私の方を向いて言う。
えっ!?私!?
「では一階の報告をしようじゃあないか」
私が戸惑っていると上篝さんが立ち上がり、語りはじめた。
数字の書かれた扉のことをすっ飛ばして、干し首の花や悪魔の話をしはじめたため、みんなの頭にハテナマークが浮かんでいる。
中には怪訝な表情を浮かべている人までいる。
「あっ、すみません!!私からも補足させてください!!」
慌てて立ち上がり、一階にある十二個の扉のことを話す。
そして上篝さんが話したことは荒唐無稽な作り話ではなく事実であることを順を追って説明した。
みんなの頭にはまだハテナマークが浮かんでいるが、先ほどよりは多少腑に落ちたような表情をしている。
「聞きたいことは沢山あるが……一旦部屋決めをしよう。すまないが、そのあともう一度詳細を聞かせてくれ」
時計塔さんが頭に手を当てて少し困ったようにそう言う。
他人から急に干し首の花がどうのこうのと言われたらそりゃこうなるよね、という感じだ。
「とりあえず男性陣は固めた方がいいと思うので、左端から三部屋は僕とスヲウと春日井さんでどうですか?」
反対意見は挙がらない。
みんなが口々にいいと思う、賛成と言う。
この三人は女性に無闇に手を出しそうという雰囲気は無いが、やはり出来れば隣は同性がいい。
あわよくば秋冬さんがいい。
「角部屋は譲ってやるよ。んで、兄弟なら隣がいいだろ?」
「ありがとうございます。では、角からシヲ、僕、春日井さんにしましょう」
「おっけー。じゃあオレこの部屋〜」
男性陣三人の並び順があっさり決まった。
スヲウさんの後ろにいたシヲさんが春日井さんに小さく会釈した。
相変わらず無口だが、春日井さんの配慮にシヲさんも感謝しているようだ。
春日井さんも小さく手を振って返す。
そして自室になる予定の部屋に入っていった。




