第三話 会議②
「あっ!!じゃあ、るねちとペアだし、あてぃしがこの部屋にしようかな〜。いいよね?」
春日井さんの隣の部屋を示し、百田さんが提案する。
恐らく男性陣の隣になるその部屋は避けられると考え、気を遣って先に選んだのだろう。
百田さんと春日井さんはいかにも陽キャ然としており、チャラそうに見えるが二人とも人をよく見ている。
そしてさりげなく助け舟をよく出している辺り、とても優しい人なのだろう。
「じゃあ、あてぃしこの部屋ね!!」
反対意見が挙がらないのを見た百田さんが宣言し、そのまま部屋に入って行った。
そして布団にダイブしたのか部屋の中から「ふかふか〜!!」という嬉しそうな声が聞こえてきた。
「あとは現状ペアが一番見知った顔だろう。そこでだ、この配置でどうだろう?」
時計塔さんが提案した配置に賛成する。
何故なら秋冬さんが隣だからだ。
反対隣はあまり面識のない安丹さんだ。
彼女は外見はとんでもない絶世の美少女といった風貌だが、話すと癖の無さそうな人で良き隣人となってくれそうだった。
少なくとも上篝さんよりはいいだろう。
「反対意見はないな。では各個室はこれで割り当てよう」
時計塔さんがふうっと息をついた。
ずっとみんなをまとめ上げているし、やはり疲れているのだろう。
「そうだ、確認をしたいのだが、時計やスマホを持っているものはいるか?」
言われてみればいつもスマートフォンを入れているポケットが軽い。
探ってみるとやはりそこにスマートフォンは無い。
周りもいつも時計やスマートフォンを入れているであろう場所を探っているが無いようだ。
「やはり……ないのか」
時計塔さんが肩を落とす。
すると個室の中から百田さんがひょこっと顔を覗かせた。
「部屋にあったよ〜!!アナログだけど」
そういって右手に持った置き時計を突き出す。
時計の針は三時三十分を指し示している。
「む……。午前か午後か分からないのか……」
時計塔さんが悲しそうに言った。
確かにこの形態の時計ではそこまでは分からない。
「ま、分かんないけどみんな起きてるし、今は午後ってことにしとこ?」
百田さんがにっこりと笑って軽くそう言った。
時計塔さんも釣られて小さく笑う。
「それもそうだな。では、ひとまず六時に食事にしよう。それまでは自由行動にする」
時計塔さんの宣言にみんなは各々部屋に入ったり二階に向かったりしている。
私も部屋に入ろうとした時、時計塔さんに声をかけられた。
「寧崎、すまないが先ほどの詳細を聞かせてもらえないだろうか」
そういえば後で詳細を聞くと言っていた気がする。
何をするわけでも無かったので快諾する。
せっかくだし二階の談話室で、との話になった。
談話室は丸机とニ〜四脚の椅子が四セットほど置いてある。
そのうちの一つに時計塔さんと向かい合って座り、扉の中であった出来事をより仔細に伝える。
「なるほど……。よく分かったよ」
時計塔さんはどうやら信じてくれたようだ。
表情からも疑っている感じはない。
「これは……私の知っているものかもしれない……。寧崎、少し長くなるかもしれないが聞いてくれるだろうか?」
何やら真面目な雰囲気の時計塔さんに気圧されつつ、こくりと頷く。
「ここは……『時計塔』かもしれない」
「時計塔?」
「ああ、私の苗字と同じ『時計塔』だ」
神妙な面持ちで時計塔さんが話し始めた。
「まず私は時計塔を管理する一族なんだ。ただ管理すると言ってもうちに伝わっている話は時計塔が大いなるモノを封印しているということだけで、あくまでそういうものがあり、私達の一族は見守っているだけ……という感じだが」
ふーっ、と大きく息をつき、時計塔さんが続ける。
「見守る、というのも物理的に見守っているわけでは無いんだ。私達の一族に鍵との契約が受け継がれていて、普段鍵がどこにあるかは私も一族の者も知らないのだが、時計塔に異常が発生すると鍵がどこからともなく現れて時計塔に導いてくれるらしい」
らしい、というのは時計塔さんもそれを目撃したことがないからとのことだ。
そして、導かれた後のことは時計塔さんも分からないらしい。
「私も時計塔の実在についても懐疑的だったんだが……その中の話で十二の扉の話があるんだ」
時計塔には十二の扉があり、扉は中の物語を踏破することで閉じることが出来る。
そして、すべての扉を閉じることで全てを終わらせることが出来る……らしい。
「荒唐無稽なお伽噺だと思っていたのだが、一階の十二の扉と寧崎の話を合わせると……」
「確かに繋がりますね」
「うむ……。私が時計塔に導かれる、というのは言い伝えから分かるんだが、なぜ皆も巻き込まれたのかが分からんな。それに全体的に言い伝えもふわっとしていてな……」
うーんと困ったように唸っている。
分からないことが多いというのは同意だ。
「でも、とりあえず扉を全部閉じると全てを終わらせることが出来るんですよね?」
「真偽は不明だが、言い伝えではそうだな」
「つまり残りの十一の扉を閉ざしたら『すべてを終わらせる』ことが出来ると思うんです」
時計塔さんはまだピンときていない様子だ。
私はそのまま話を続ける。
「このよく分からない状況も『終わらせられる』って可能性はないですか?」
もしもこの仮説があっていれば何も分からない状況の中で一筋の光となる。
時計塔さんがハッと目を見開く。
しかしすぐに目を閉じて眉間に皺を寄せ考え込み始めた。
「それは……確かにあり得るしそうであるなら希望も見えるが、希望的観測だと思う」
だが、と続けた。
「それしか手掛かりが無いのもそうだ。他に打開策も無い以上、可能性に賭けてみるしかないな」
時計塔さんが凛とした表情でそう言った。
「ひとまず晩ご飯の後に皆にも意見を募ろうと思う。寧崎、ありがとう。六時まであまり時間は無いが……好きに過ごしてくれ」
先に戻ってていいとのことだったのでお言葉に甘えて三階に戻る。
自室に何があるのかを確認して、夕食の後に足りない備品を物置から回収して行こう。
ガチャリと自室のドアを開ける。
今は初めて入ったから鍵が開いていたが、実際には鍵も閉められるようになっておりセキュリティも安心だ。
「まっ、盗られるものないんだけど」
一人の空間に独り言が反響する。
最初の洋館で気付いた時から服は着ていたものの、荷物は一切持っていなかった。
どこに行ってしまったのかは気になるが、恐らく気にしたところで戻ってはこない。
悲しいが諦めるしか無いだろう。
部屋にはドライヤーだけはあるが、歯ブラシなど他の備品は無いため、後で探す必要がありそうだ。
部屋にもシャワーはある。
だがそれとは別に二階に大浴場があるらしい。
それもチェックしたいところだ。
それから飲み物だ。
蛇口から水が普通に出るのは確認しているが、出来ればペットボトルの水を飲みたい。
ここにあった水も得体が知れないが、水道水はなんとなくより得体が知れないと感じてしまう。
物置にはお茶もあったりするんだろうか。
これも要確認だ。
その時、部屋のドアからコンコンとノックの音がした。
「あのー、安丹です。寧崎さんいらっしゃいますか?」
透き通った声が聞こえた。
特にすることもないので、はいと答えて、ドアを開ける。
「あっ、寧崎さん。こんにちは。隣室の安丹です」
ドアの先には濡羽のような黒髪ロングに吸い込まれそうなほど美しいオニキスのような瞳をした絶世の美少女――安丹銀河さんがいた。
改めて近くで見るとこの世のものとは思えない美しさをしている。
安丹さんが会釈をすると動きに合わせてふわっとシャンプーの香りがした。
こんなところまで美少女然としている。
こちらも会釈を返す。
「隣のお部屋になったので挨拶だけでもしたくて。こんな状況だから手土産もないけど……」
「そんな!!わざわざありがとうございます!!こちらこそよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします。お時間取らせちゃってすみません。失礼します」
そんなこんなで軽く挨拶だけして、各自部屋に戻る。
夕食の時間までもう三十分しかない。
ベッドに横になったらうっかり寝てしまいそうだ。
先に二階を色々見て回ってから食堂に行くことにしよう。
そう考えて、部屋を出る。
廊下には誰もいなかった。
とぼとぼと歩いて二階に向かう。
荷物が増えるから物置は予定通り食後に行こう。
そうすると、三十分で軽く様子を見れそうで気になるのは図書室だろうか。
時間が分からなくなると困るので部屋にあったアナログ時計は持ってきてある。
準備はバッチリだ。




